生まれてから30年のあいだ、コーヒーを飲んだ総量はコーヒーカップの半分にも満たないかもしれない。初めて飲んだ時の苦味が少しトラウマのようになっていて、それから無意識のうちに避けてきたのである。

コーヒーを飲まない、タバコも吸わない、そんな筆者の仕事中のリフレッシュ方法と言えば、狂ったようにミンティアを食べることくらいだった。しかしミンティア一本頼みの人生にもそろそろ限界が来ている。

そこで、安価ながら評判の良いコンビニコーヒーに初めて挑むことをこのたび決意した。ついでに「最もコーヒー初心者向けに感じた商品」も勝手に選んでみたのでご覧いただきたい。

・深刻な問題

初挑戦にあたり、1種類のコーヒーだけでは不十分だろうと考えた筆者は、ファミリーマート、ローソン、セブンイレブンの3店舗を巡ってホットコーヒーを飲み比べてみることにした。だがここで深刻な問題が浮上した。


買い方がわからない


コンビニ自体は数えきれないくらい利用し倒していたし、コーヒーマシンも何度も目にしていたのにもかかわらず、コーヒーの買い方がよくわからなかったのである。

「もうこの企画は終わりだ」と危うく1度投げ出しかけたが、5分後にGoogleの存在を思い出した筆者はネットで検索をかけた。その結果、ホットコーヒーの場合は概ね「希望の商品をレジで告げ、カップを受け取ってマシンで注げばいい」らしいことが判明した。

ちなみにアイスの場合は、冷凍ケースから希望の商品のカップを取ってレジに持っていく形式が主流のようだが、店舗ごとに確認するのが最善と思われる。


・ファミリーマート編

何にせよ、実際に試してみなければ始まらない。一応心の準備はできた。初挑戦の舞台として、まずは日頃私とコンビになってくれているファミリーマートに乗り込んでいった。

レジで注文する前にマシンの様子をうかがってみると、予期せぬ数のボタンが視界に現れた。

ホットの「ブレンドSサイズ」、「ブレンドS濃いめ」、「ブレンドM」、「ブレンドM濃いめ」、「モカブレンドS」、「カフェラテM」、アイスのS・Mサイズなど……多様なメニューとそれに対応したボタンが、左右両サイドの縦方向におびただしく並んでいる。

初めて千手観音を見た時のような威圧感に怖気づいたが、なんとか冷静に最もスタンダードとおぼしき「ブレンドSサイズ(100円)」をレジで頼み、カップを受け取る。

その後、マシン下部の扉を開け、カップをセットして「ブレンドS」のボタンを押す。が、無反応。「しまった、押し続けるタイプのやつか?」と焦りかけたところで、けたたましい音を上げてマシンがコーヒーを注ぎ始めた。

ちょっとしたラグにさえ浮き足立つほどナイーブになっている自分を恥じながら、作成段階を示す4つのランプが点灯しきるまで待った。ほどなくして完了を知らせる音が鳴ったので、熱々になったカップを取り出す。

マシンの横には、コーヒーの種類に応じたフタやストローなどが備え付けられていた。砂糖も置いてあったが、今回は純粋に味わって比較したかったためスルー。

店を出て、己の手に収まった成果物を眺める。初めて跳び箱を跳べた時のような、あるいは初めて25mプールを泳ぎきれた時のような、そんな幼い達成感が胸に湧いていた。

早速コーヒーに口をつけてみると……苦い。しかし受け入れられない苦さではない。むしろそれが冴え冴えとしたすっきり感につながっているように感じられ、爽やかな飲み口を味わうことができた。

達成感に次いで安堵感がやってくる。もし飲めないほど苦かったら「もうこの企画は終わりだ」と挫折していただろう。最悪の事態を迎えずに済んでよかった。

きりっとした苦味を飲み下すごとに、口の中のみならず意識まで冴え渡っていく。まだ1杯目ながら、多くの人々がコンビニコーヒーを求める理由の一端に触れた気がした。


・ローソン編

続いて2杯目の舞台に選んだのは、日頃私のほっとステーションになってくれているローソンである。

今回訪れたローソンは、前出のファミマのようなセルフ形式ではなく、注文すると店員の方がコーヒーを作ってくれる形式を採用していた。

筆者のような不慣れな人間にとって、自分で作らなくていいというのは助かる。正確に言えば助かるどころか「これだよこれ~!」と内心ボルテージが上がっていた。レジに用意されたメニュー表を見て、「ホットコーヒーS(100円)」を頼んだ。

手際良く作られた商品を受け取り、店を出る。飲み比べるとは言ったものの、コンビニによって差異が出るものなのだろうかと思いつつ飲んでみたところ、じんわりと出た。

舌の上で転がして味わっていると、まろやかな口当たりの中から豊かな風味がにじんでくる。あくまで筆者の主観だが、何と言うか、ファミマのものより「コーヒー感」が一段上だ。ただその分だけ苦味も強く感じる

飲みやすいのはファミマの方だ。しかしローソンのこの「こだわり感」も捨てがたい。よく見れば見た目も何やら白いものが浮いているし、どこか玄人の作ったコーヒーっぽいではないか。

知識が全くないので浅はかさ満開の描写になってしまったが、さておき2杯目にしてコンビニコーヒーの奥深さを思い知りながら、その場を後にしたのだった。


・セブンイレブン編

最後の3杯目の舞台は、日頃私との距離が近くて便利なセブンイレブンだ。

ファミマと同じく、ホットコーヒーはレジで注文してカップを受け取り、マシンで注げば入手可能のようである。

「ホットコーヒー・レギュラー(100円)」を頼み、カップをマシンにセットしてボタンを押す。

1度通った道なので、動じることなくコーヒーが注がれるまで待つ。確かな成長の手応えを感じる。しかし他の利用客に背後に並ばれるや緊張が走ったため、まだ訓練の余地はある。

完了音が鳴ったのち、速やかにマシン前から離脱し、無事コーヒーとともに退店。大トリのセブンのそれは果たしてどんなものか。飲んでみると、ある意味で予想通りの味がした。

というのも、最後に飲んだからかもしれないが、苦味も濃厚さもちょうどファミマとローソンの中間くらいの、非常にバランスの良い仕上がりに感じられたのだ。言い換えればとても優等生的で、筆者の中でのセブンに対するイメージそのままだった。

何を買うにしてもセブンなら安心とは思っていたが、まさかここまでとは。「なんとセブンイレブンのコーヒーであることよ」という感嘆を禁じえない。目隠しされて飲まされてもセブンのものとわかるかもしれない。いや嘘をついた。さすがに無理かもしれない。

ともあれ、それくらい増長してしまうほどの特徴的な安定感がある一品だった。コンビニがコーヒーにかける威信さえ感じ取れるような、貴重な体験だった。


・総評

というわけで、ファミマ・ローソン・セブンの3店舗に渡ってコーヒーの飲み比べを行ってきたが、改めてそれぞれについての感想を要約すると以下のようになる。


すっきり爽やかなファミマ


まろやかで風味豊かなローソン


バランス型で安定のセブン


そしてこの中から「最もコーヒー初心者向けに感じた商品」を決めるとするなら、一番苦味が抑えめに思えたファミマのコーヒーを推したい。もう少し濃厚さを欲するならセブン、さらに背伸びをするならローソンといったところだろうか。

最後に繰り返しになるが、本記事で書いてきたことはあくまで個人の意見として、参考程度に受け取っていただければと思う。とはいえ、比較をすることで見えてきたものが筆者にとっては刺激的だったし、それが皆さんにも伝わっていれば嬉しい限りである。

トラウマも脱せたので、これからはより深くコンビニコーヒーに親しんでいきたい所存だ。こんなに新鮮な体験ができたのは、トラウマのおかげとも言えるのかもしれない。苦味に勝ってこその人生、苦味に勝ってこそのコーヒーということか。

Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.