どんなに速く遠くへ移動できる時代になっても、青春18きっぷやバックパッカーが根強い人気なのは、そこに「自由」があるからだ。宿も決めずに出発し、進むも止まるも自分次第。気に入った街があれば滞在するし、突然ルートを変えることもある。そんな風任せの旅が好きなら、一度はキャンピングカーに憧れたことがあるかもしれない。

しかし、実際のキャンピングカーは、愛すべき乗り物であると同時に不便も不自由もたくさんある。キャンピングカーの理想と現実を、現役オーナーである筆者がQ&A形式で解説していきたい。


Q1. トイレついてる?

ついているモデルも多い。そして真夜中や荒天時にとても役に立つ。が、しかし。

家庭のトイレのように、水を流してハイ終わりというわけにはいかない。排泄物が消えてなくなるはずはないので、どこかで処理しなければいけないのだ。

日本で主流のポータブル式やカセット式は、タンクに溜めた汚物を自宅などのトイレに流して、タンクを洗浄する必要がある。もちろん外からは見えないし、薬剤で消臭・消毒しているので不潔ではないのだが、たっぷん、たっぷんと汚物を持ち運ぶのは楽しい作業とは言いにくい。マンションのエレベーターで誰かと乗り合わせたりしたら……なおさらだ。

そんな事情もあって、車内トイレは評価が真っ二つに分かれる装備品だ。清潔な公衆トイレがどこにでもあるトイレ大国ニッポンだし、車内で排泄することへの抵抗感もあって、搭載していても一度も使ったことがないというオーナーも多い。

ちなみに筆者はタンクに溜めるタイプではないが、毎回使っている。同乗者が居ようと居まいと、すぐ車の外を人が歩いている気配がしようと、使いまくっている。ただし「小」だけだ。その先に進む勇気はまだない。


Q2. キッチンは?

「キャンピング車」として自動車登録しているなら必ずついている。というのも、構造要件として給水・排水タンクや、コンロなどの炊事設備が必要とされるのだ。

ただし、使うかどうかは個人差があるようだ。釣った魚をその場でさばいたり、地元の新鮮な食材を煮炊きしたり、本格的な調理をする人もいるが、筆者は使わない。理由は手入れが大変なのと……匂い

フライドポテトを買って帰ると、翌日になっても車内がイモ臭になっていることがないだろうか? 車は匂いがこもりやすいし、換気扇はあるものの空気中の油までは排出できないので、筆者はなるべく外で調理したい。この辺は個人の感覚なので正解はない。


Q3. どこでも寝られるなんてサイコーじゃない?

No! きれいな景色を見つけたらそこで1泊、みたいなフリーダムなイメージがあるけど、キャンピングカーが正式に車中泊できる場所は実をいうと多くはない。「道の駅」が車中泊の車に占拠されて大迷惑、なんてニュースを耳にしたことがあると思う。

マナーの問題も深刻だ。公共のトイレで調理をしたり、駐車スペースを占有したり、あまつさえ盗電したり、いずれも良識あるオーナーなら決してやらないことなのだが、一部の非常識な人の行いがたびたび話題になる。

深夜の公共駐車場は治安が悪いこともあるし、巡回中のパトカーに職務質問されても文句は言えない。なので実際にはオートキャンプ場やRVパークなど、許可された場所で寝ることが推奨されている。


Q4. 初めて買うならコンパクトなのがいい?

筆者もそう思った。運転するなら小さい方がいいし、価格も安いのがいいし、どれくらい乗るかわからないし、失敗したくないからコンパクトな車にしようと。……大間違いだ

キャンピングカーの就寝定員は「1人につき長さ1.8m以上、かつ、幅0.5m以上の連続した平面」から算出する。そして筆者は自分が乗りたい人数ぴったりの就寝定員の車を買った。けれど、よくよく考えてみると、家庭にある平均的なシングルベッドでも幅97cm。もしも幅50cmの空間に横になり、寝返りも打てないとなれば、もはや娯楽ではなく苦行だ。

当たり前のことだが、車体が大きくなればなるほど居住性は増す。もしこれからキャンピングカーを買おうと思うなら、いろいろなタイプをレンタルして1度寝てみることをお勧めする。でないと筆者のように高い金を払って手痛い失敗をすることになる……


Q5. ベストシーズンはやっぱり夏?

やめておけ、むしろ夏の車中泊は地獄だ! もちろん断熱加工はしているが、車はいわば鋼鉄の箱。夏の炎天下に停めてある車の危険な暑さは体験したことがあると思う。言うまでもないが、何時間ものアイドリングは環境保護、そして周囲の迷惑の観点からも厳禁だ!

家庭用エアコンを搭載している一部モデルもあるが、エアコンは消費電力がとても大きい。車に搭載しているサブバッテリーだけではまかなえず、外部電源から給電できないとなかなか使いにくい。夏の暑さ対策はキャンピングカーの永遠の命題ともいえるもので、夏の間は「標高の高いところに行く」とかそもそも「乗らない」という原始的な対処しかないのが現状だ。

一方、寒さに関しては「FFヒーター」という車内に排気を出さない優れた暖房機器がある。ガソリンタンクにつないで使うため、燃料を補給する手間もなく、エンジンを切っていても十分に温まるので真冬の車中泊でも困ることはない。筆者はキャンピングカーのオンシーズンはむしろ冬じゃないかとさえ思っている。


Q6. 金持ちの道楽?

キャンピングカーというと、たいがい白くて四角くて重そうな、冷凍車みたいなあれをイメージすると思う。確かに世の中にはマイクロバスやトラックやベンツをベースカーにした、ホテルの一室のようなン千万円のモデルもある。

けれど、実はハイエース(トヨタ)やNV350(日産)なんかの乗用車をベースにした、一見するとキャンピングカーだとはわからないモデルが日本中たくさん走っている。軽自動車ベースの「軽キャンパー」も人気だ。

中古市場もあり、実際の購入金額は100万円以下から1000万円以上までピンキリ。普通に「車を買う」という行為の選択肢に入ってくると思う。


Q7. 生活変わる?

Yes! ホテルだけでなく、新幹線の予約も要らずにいつでも旅に出られるようになる。混雑する観光地では、前夜に近くまで行っておいて朝イチから入場したり、観光客のいなくなった静かな街並みを見てから夜遅くに出発したりできる。

ディズニーなんかのテーマパークでは、途中で車に戻って休憩してから再びインパーク。仕事が終わった深夜でも出発できるから、時間のない現代人にはぴったりだ。もしあなたが潔癖症だったり、霊感が強かったりしても、初めて泊まるホテルで嫌な思いをすることもなくなる。少なくとも筆者は人生変わった


悠々自適なリタイア後の趣味みたいなイメージがあるけど、忙しい現役世代にこそ乗って欲しい。きっと旅が身近になって、新しい世界が見えるぞ!


参考リンク:日本RV協会[1][2][3]、国土交通省「特殊用途自動車(8ナンバー)の構造要件/キャンピング車」
イラスト・執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.