収束するどころか、激化の一途をたどっている香港デモ。2019年11月11日には、現地滞在中の日本人がデモ参加者に殴打され負傷したという。その理由を香港メディアは「中国人に間違えられたため」と報じている。

なぜそんな説が浮上しているのか? ひとつ考えられる理由がある。「デモの様子を撮影していた」という報じられている点だ。「デモの撮影」と「中国人に間違えられること」は一体どんな関係があるのか。

・一般人が香港デモを撮影してはいけない理由

デモの様子を勝手に撮影される。想像しただけで気持ちの良いものではないが、香港デモにおいては単に『「何撮ってんだよ!?」とブチギレられた』とは考えにくい。

というのも香港デモでは「抗議者が個人情報を当局に把握されることを恐れている」という背景があるからだ。デモ参加者は、極力、顏や個人情報を隠してデモに参加している。

ひとつは当局に個人情報が渡り公安のリストに載ってしまうと、逮捕の恐れだけでなく進学や就職など将来にも影響する恐れがあると考えられていることが挙げられる。

・SNSへのアップも危険

また写真が直接公安の手に渡らなくても、SNSにあがったなら同じくらい危険である。いまや顔写真から「どこの誰」かを突き止めることは難しいことではないのだ。何者かに写真をさらされた結果、本人や家族が嫌がらせを受けたという話も聞く。

だからデモ参加者はマスクをし、メガネをかけたりして顏をかくし、デモに関するやり取りは機密性の高いアプリで、SIMも普段とは別のものを使うなど、対策を講じているのである。

大変な緊張感であることは容易に想像できる。まさに香港の未来と自分の人生をかけた戦いのなか、抗議者を撮影したならトラブルになることは必至。実際に怪しい人物がデモ参加者の顏を撮影していたという情報もあり、参加者が冷静さを欠いた状態であれば「中国人や親中派スパイに間違われる」ということが起きても不思議ではないだろう。

・外務省や領事館も注意喚起

デモ隊の撮影については、外務省や在香港日本領事館も「しないように」と注意を促している。領事館が8月2日に発表した『香港における抗議活動に関する注意喚起(その16)』では、「デモ参加者とスマホ撮影していた人とのトラブル」が報告されており、その理由が

「抗議者は警察当局から追及されないよう顔写真等人定事項を取られることを避ける傾向があり、撮影行為が抗議者を刺激した可能性があります」

と、説明されている。

この注意喚起は後に「抗議活動の様子をスマートフォン等で撮影しないこと」に変わり、そして、11月8日に発表された「その50」では「決して抗議活動を撮影しないで下さい」とより強い言葉が使われることとなった。現地の緊張感の高まりが手にとるように伝わってくるだろう。これから現地に渡航する人は一読をおすすめしたい。

・撮影は決してしないこと

デモに遭遇してしまったら、自分のスマホに記録したくなるかもしれない。SNSにアップしたら多くの「いいね!」も集まるだろう。しかし、そのために自身を含めて多くの人の身を危険にさらすのは何ともバカらしい話ではないだろうか。

当局を刺激しないためにも、デモ参加者の身元の安全のために、そして自身の安全のためにもデモの撮影は「しない」ことだ。

参考リンク:外務省海外安全ホームページ在香港日本領事館THE STORM MEDIAORANGE NEWS(中国語)
執筆:沢井メグ
Photo:Rocketnews24.