
東京ディズニーリゾート(以下TDR)といえば、多くの人から愛される夢と魔法の国。この点に関して異論を唱える者はそういないだろう。だがしかし、色々あってディズニーが苦手だったり、興味が全く無い人が居るのもまた事実。
かく言う筆者もディズニー無関心勢の一人。およそ30年間、ノーディズニーな人生を送ってきた。ディズニー作品も、はるか昔にどこかで『王様の剣』を軽く見た程度。そんな筆者だが、ここ3月の間に3回もTDRに訪れる機会が。その結果、東京ディズニーシーの、特定の時間帯の某エリアの興味深さにとりつかれてしまった。
・ガチ初心者
3度も立て続けに訪れた理由は、普通に仕事である。7月から行われていたディズニー夏イベントを皮切りに、『ソアリン』『ソング・オブ・ミラージュ』、そしてハロウィーンの記事をご覧になった方もいるだろう。これらの取材時に、撮影協力として同行していたのだ。
ディズニーについては、ミッキー、ミニー、そしてドナルドくらいなら知っていたが、ぶっちゃけるとそれ以外は全く知らぬ。具体的にどの程度の「全く知らぬ」なのかというと、「プルート」という犬の存在を知ったのが、2019年9月9日の取材時……というレベル。
ちなみに、ロケットニュースでは過去に、ディズニーランドが無理なおっさんがディズニーを楽しめる体になったり、ディズニーがトラウマな男がトラウマから開放される様子をお伝えしている。
筆者の場合は、彼らと少し事情が違う。ディズニーに無関心なだけで、別に無理でもなければ、トラウマも無い。ディズニーに1度も来ていないのは、世界観やキャラクターについて全く知らないこともあり、興味を持つきっかけがなかったからだ。
・クオリティの高さ
マイナスからスタートの彼らと違い、ゼロからのスタートなためハードルは低かった。実際に、世界観や各種施設の説明をディズニーマニアから受けながら撮影してまわる内に、1度目の取材でその良さを理解。ランドとシー合わせておよそ10万円もする年パスを買う人の気持ちもよくわかった。
また、園内は何もかもがキラキラ感に満ちており、「映える」スポットだらけ。かつては、やたらとディズニーで自撮りする、特に女子高生をはじめとする若い女性などを冷ややかに見ていた部分もあった。
しかし、今では彼女たちがブチ上がる気持ちも理解できる。もし筆者がJKだったら、きっと同じようにディズニーで自撮りしまくっていただろう。あそこでは可愛さやリア充感が、ガチで盛れるのだ。それくらい、客観的に見てTDRのクオリティは高い。
・ダークサイドの住人
こうして良さを理解したものの、正直「住む世界が違うな」とも感じていた。客観的に見て素晴らしいことを理解したとしても、主観的に同意に至るとは限らないのだ。どうにもTDRは、夢や希望、その他もろもろのハッピーなものに溢れすぎている……。
闇がたりない
筆者の瞳が澄んでいたのはせいぜい幼稚園くらいまで。時間の経過に対して指数関数的な増加度で濁り、澱み、闇になじみ続けてきた。その結果、綺麗すぎるものに抵抗を感じるのである。アメコミで言うと、キャプテン・アメリカやスーパーマンは苦手だが、パニッシャーやロールシャッハには共感するタイプ。
ディズニーのキラキラ空間に馴染むには、ある程度のピュア力(ぢから)が必要に違いない。TDRはダークサイドの住人に対し、リトマス試験紙的に機能するのではなかろうか? というような考えが、2度目の来園時には固まっていた。具体的には『ソアリン』などの記事の時である。
・コロンビア号
そうして日が暮れる頃に2度目のTDR体験を終えた筆者。帰りの電車が来るまで時間があいていたこともあり、なんとなく一人でディズニーシーを探索してみることに。その時点で筆者が居たのはメディテレーニアンハーバー。
周辺はショー待ちの人で溢れており、コミケを超える混雑度。しかも全員やたらとキラキラしている。これはかなわない。その場を離れ、何かに呼ばれるように人が少なく、薄暗い方へ。そしてたどり着いたのが……
コロンビア号である。
そういえばディズニーマニア田代は、ここで酒が飲めるみたいなことを言っていた。ちょうどいい、軽く飲んでから帰るか。フラフラと飲み屋にでも入るようなノリで、コロンビア号2階にある「テディ・ルーズヴェルト・ラウンジ」へ。
中にはバーカウンターとテーブル席がある、いい感じのバー的な空間が広がっていた。照明も暗くてナイスである。ほう、まさかディズニーみたいなテーマパークに、こんな場所があるとは。これはなじむ、実になじむぞ……ッ!
案内された席で適当に酒を頼み、なんとなく周囲を見渡すと、そこには実にディズニーらしからぬ光景が。例えばヨレたスーツ姿のおっさんや、メランコリックなムードのマダムである。しかも一人で飲んでいる。ここは終電後の歌舞伎町のバーかな?
もちろんそういう客ばかりではない。テーブル席にはおそろいのカチューシャをした幸せそうなカップルや、若い女性グループが楽しそうに食事をしている。しかしカウンター席には、どうにもワケ有りげな雰囲気の、楽しいというよりは色々と苦悩を抱えていそうなソロの人々が。
あんたら、ディズニーに来て何をしているんだ……? まさかわざわざ一人でやってきて、リア充に囲まれながら一人で酒を飲んでいる……のか? 疑問に思いつつも、直接本人に聞くわけにもいくまい。人にはそれぞれ、色んな事情があるものだ。適当に2杯ほど飲んでから店を出ることに。
おや? この船、船首のほうに出れるのか。時間的にはまだ余裕があるし、軽く見ていくとしよう。ラウンジ横の細い通路を船首方向に向けて進んでいく。海風が吹き込んできてイイ感じだ。と思ったら、突き当たりに妙な光景が見える。
女の人が一人、うつむいて体育座りしているのだ……。さっきのバーカウンターの客といい、どうも雰囲気が他と違う。
なんとなくわかってきたぞ……ここはそういう人が集まる場所に違いない。体育座りしている女性の横を通り過ぎて、いざデッキに。そこでは、制服ディズニーをキメている女性グループが写真を撮っていたりしたが、一方で静かに一人で海を眺め続ける人や……
何があったのか、やはり一人でため息混じりにスマホをいじる人が。しばらくこの人を観察していたが、スマホを眺めるのをやめたと思ったら、舳先で一人、海を眺めつつ風に当たり続けていた。
・究極の孤独感
彼らはなんなのか? ディズニーといえば、楽しくブチ上がる場所……ディズニー初心者の筆者は勝手にそうイメージしていた。そしてそのイメージは、TDR内のほぼ全てのエリアにおいて、その通りであったように感じる。
しかしコロンビア号はどうも様子が違うではないか。ブチ上がっている人も居る中で、明らかに闇を抱えていそうな人が集まっている。というか、ブチ上がってる人は盛れた写真が撮れたらさっさと居なくなるイメージ。マジで単に船のデッキだし、他に何も無いからな。
そしてさっきまでディズニーのキラキラ感になじめていなかった筆者も、このエリアはなじめている。その理由を探る内に、興味深いことに気づいた。まずこの船首からは、外が見えるのだ。他のエリアからは中々見えない外界。普通に海と、海沿いの道路である。そして、船首から見える範囲にキャスト用の通用口もある。
園内のほかの場所では全くそういった様子を見せないキャスト陣。彼らも、通用口から外に出た瞬間に、仕事を終えて疲れた労働者と化す。まさに魔法が切れる瞬間を目にしてしまった感。ここは夢と現実の境界線だったのだ。なんと興味深いことか。こういうの大好きである。
ウォルトが仕掛けるキラキラな光属性の魔法も、こういった現実が視界に入ることで弱まっている。それゆえに、リアルに満ちたドラマチックな光景がそこにはあった。間違いなくディズニー的には見せたくない光景だろう。しかし、それゆえに生じる特別な効果を求めて集まるものも居ると思われる。
それが、さきほど見かけた体育座りの女性や、ため息混じりにスマホを弄ったり、ただひたすら海を眺める人など。気づけば、さっきバーで見かけたメランコリックなマダムがいつの間にかデッキに来ており、彼女もまた一人で海を眺めている。
ショーの喧騒(けんそう)もここからは遠い。他の場所に比べてかなり静かで、人口密度も低め。ここはディズニー内で唯一、現実を持ち込んだまま、究極の孤独感、そして究極の無干渉を得られる場所なのではないか……?
・海底2万マイルより深い
「一人になりたいならディズニーである必要はないじゃないか」そう思う方もいるだろう。それは違う。ディズニーに溢れるハッピーな魔法が必要なのだ。周囲全てがキラキラに満ちた幸せ空間。
あくまでもハッピー感に包まれて入るものの、根の部分では孤独と闇を選択的に保持し続けることができるという、ディズニーだからこそ発生しうる空間なのだ。きっとリアルで何かしんどいことがあったのだろう。彼らはそのダメージを癒すためにディズニーに来ている気がする。
しかし、ダメージから目を逸らして魔法にかかり、ブチ上がってエンジョイしたところで園外に出たら元通り。ヤケ酒的な感じで一時的に忘れることはできても、ダメージは癒えないと思われる。キラキラ分を微妙に摂取してダメージを軽減しつつ、一人で向かいあって立ち直ろうとしているのではないか……と思うのだ。
ちなみに、再現のためのイメージ写真を撮るにあたり、同行したディズニーマニア田代をモデルとして起用している。特に説明することなくポーズだけ指定したところ、ディズニーマニアは戸惑うばかり。
彼のような、ピュアすぎてキラキラ感がぶっちぎってる男には見えない世界なのだろう。そのままではポージングも上手くいかないので解説したところ
ディズニーマニア田代「深い……海底2万マイルより深いです。いろんな意味で」
と、かみ締めるように述べていた。仄暗い世界を知ってしまったディズニーマニア。ましてや、彼の主な生息地であるTDR内にそのような空間があったことは、盲点だっただろう。彼のピュア度に陰りが生じないといいのだが。
さて、このようなコロンビア号の側面が、はたしてディズニーの意図したものなのか……それはわからない。
しかしきっと今日も、日暮れと共にコロンビア号にはワケ有りな人々が救いを求めて流れ着くだろう。
そして彼らはそこで、心地よい闇と孤独に身を沈め……
夜は深まっていくのである。
完
Report:江川資具
Photo:RocketNews24.
江川資具











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