どんな顔してそんなこと言っているのかと思ってチラッと見たら、満面の笑みだった。おそらく、何の悪意もないのだろう。悪意どころか、「あなた達は素晴らしい」的なことが言いたかったように思う。むしろ善意。

だから誰かが傷ついた訳でもないし、怒りに震えたわけでもない。その発言を聞いていた私自身、頭にきたわけじゃない。ただ、「それマジで意味わかりません!」と、強く強く感じたのだ。──そんなエピソードを紹介したい。

・激安の海鮮丼を食べていたら

あれは数日前、都内にある「割烹さいとう」というお店でのこと。そのお店では、ランチ時に具だくさんの海鮮丼が1000円以下で食べられて、お昼には海鮮丼を求める人で行列ができているらしい。……と噂で聞いた私は、真相を確かめるため、また海鮮丼の味を自分の舌で確認するため、お店に向かったのである。

もし噂が本当で、味が美味しかったら「激安の大盛り海鮮丼」という感じで記事にしようと考えながら。

お店の前に着くと、たしかに行列が。思ったよりも人が多かったため、思わず「うわ」と声が出たが、こうなったら仕方がない。見方を変えれば、それだけ海鮮丼が素晴らしいという証拠なのかもしれない。待つことにしよう。

そして約20分後──。何とか中に入ることが出来た。店内には、長いテーブルがドンと置いてあり、周りを囲むようにお客さんがずらり。その中に私も加わり、お茶を飲みながら ただひたすら海鮮丼を待っていたら……! 

お店に1人の男性が入ってきて、私の斜めに座っていたカップルにこう話かけたのである。


「失礼します。○○テレビの△△と申しますけれども、私たちは今こちらのお店を取材中でして、もし可能でしたら、お客さんが頼まれた海鮮丼を撮らせてもらって、コメントを頂けないでしょうか


きた〜〜〜〜! テレビの取材! というか、考えることはみな同じかよ! 激安の海鮮丼って、やっぱりテレビのネタになるんだな〜。実はこっちも、食べて美味しかったら、お店の人に記事にさせて的な話をしようと思ってるんだよね〜。

などと思っている間もなく、その男性はすぐさまお客さんと積極的にコミュニケーションを取っていく。まだ料理が来ているわけでもなく、撮影が始まったわけでもないのに、「どこから来られたんですか?」とか「ここの海鮮丼食べたことあります? 美味いんですよ〜」とにこやかに話しかけ、場を盛り上げていく男性

話によると、どうやら男性はカメラマンのようだが、それを知らなければ「営業マン?」と思ってしまうほど社交的……というか押しが強い

それを見ていた私は、「テレビって大変だなぁ〜」という月並な感想を抱くと同時に、羨ましさを感じずにはいられなかった。なにせ、テレビクルーはそのカップルの他にもコメントを取っているに違いなく、コメントがボツになる可能性もある。仮に使われたとしても数秒だろう。その数秒に、相当な労力と時間をかけているように見えたのだから。


「いいな〜。それだけテレビは取材と撮影に人件費をかけられるってことだろうし、ひいては予算があるってことなんだから。やっぱりテレビとWebって、取材とか撮影にかけられるコストが全然違うよなぁ〜。でも、その分テレビの撮影って大変だなぁ〜。現場の人も大変だろうし、それをまとめるのも大変だろうなぁ〜」


──と職場体験学習に行った中学生のような気持ちになっていたころ、私の前に海鮮丼が到着。実物を見ると、確かに具たくさん。噂通りの代物であった。「具多め」を指定したので1000円を越えてしまったが、それでもコスパがすごい。

・撮影スタート

その海鮮丼と私の戦いがスタートした直後、カップルの前にも海鮮丼がやってきた。つまり、撮影が始まったのである。

カメラマンが場を温めていた成果もあって、カップルの男性はそつなくコメント。どうひいき目に見てもノリノリで発言しているわけではないが、店に入って突然「コメントくれ」と言われたのだから、仕方ないだろう。もし私だったら、絶対にモゴモゴしてテンパる自信がある!

そんな私の気持ちを察したのかどうかは不明だが、カメラマンは私以外の他の客にも、「ちょっとコメントを頂いていいですか〜」と声をかけ始めるではないか。

声をかけられた方は、全員がコメントを残していく。座っていて逃げられないという事情もあるのだろうが、拒む人は1人もいない。……と、そのときである! コメントを求めた人が全員応じたことで、カメラマンとしても嬉しかったのだろう。彼はこう言ったのだ。

・カメラマンの発言

「みなさんはインタビューに答えてくれますけど、このような仕事だと街頭インタビューとかするじゃないですか。そのときに、僕が一番納得できないのは、『今仕事中なので』と言って断られることなんですよ。

それを言われたら僕はいつも、『いやいや、こっちだって仕事中ですけども〜!』と言いたくなるんですよ。ハハハハハハ」


……


……


え?


どういうこと?


「仕事中なので」と言って断ったらアカンの?


ほんまに仕事で急いでたら、しゃーないやん。


もし仮に「仕事で」というのがその場しのぎのウソであったとしても、テレビに出たくない人なんていくらでもいるやん。どっちかと言うと、自分もその口やねんけど。


それとも、このカメラマンは誰もがテレビに出たがっていると思ってるのだろうか? もしくは、みんながみんな街頭インタビューに協力すべきと思っているだろうか? よくわからないけど……


なんつーか……


ものすごい “勘違い” を感じる……。


・海鮮丼に集中

でもまあ、人は人、自分は自分だ。今は目の前にある海鮮丼に集中しよう。せっかくのご馳走なのだから。そして何より、記事にすることを考えてしっかり味わっておかねば。

そう思って食べていくと、気になることがたくさん出てくる。たとえば、「具の大盛り」と「普通はどう違うのだろう?」とか、「この白身は何だろう?」とかだ。

誰かに聞きたいところだが、忙しそうに動き回っている店員さんを呼び止めるのも悪いので、まずはググることにした。「公式サイトとかに情報が出てるじゃないか?」という気がしたからである。



スマホを開き、Googleの検索欄に店名を入れる。表示されたものを、スクロールして調べていたら……!



私の目に衝撃的な情報が飛び込んできたのだ。そのお店は……なんと!


なんと……!!



以前に当編集部の中澤星児が記事にしていたのである。頼んだメニューもまるっきり同じ食べて感じたこともほぼ同じ。それはつまり、どういうことかと言うと……


「激安の大盛り海鮮丼」のネタは……


過去記事と丸かぶりなので……


自動的に……


ボツ



それにしても……


てっきり、まだ記事にしてないものかと……!


俺、勘違いしてたわ


[完]


・今回訪問した店舗の情報

店名 割烹さいとう
住所 東京都台東区下谷2-9-7
営業時間 11:30~14:00 ※ランチ / 17:00~21:00
定休日 日・祝日

Report:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.

▼というわけで、そのお店の海鮮丼について知りたい人はこちらの記事を参考にしてくれ! 記事にもあるが、「コスパがヤヴァイ」ぞ!

▼お〜い! みんな〜!! 取材に行く前にきっちり情報収集しような〜!

▼なお、発表会見のマスコミの実態を知りたい人はあるある50連発をどうぞ