先日、ゴキブリを初めて見た時の北海道民の反応がネットで話題になっていた。なんでも道民はゴキブリを見たことがないから、それがゴキブリかどうか認識できないというのだ。

そういえば元道民の私(あひるねこ)も、初めてゴキブリを見たのはある程度大人になってからだった。ゴキブリ……。東京に住んでいる今となってはこの世でもっとも遭遇したくない相手だが、初めて見たのはいつだったっけ?

・ゴキブリ不毛の地

北国である北海道はゴキブリが少ないと言われている。地下施設のような常に暖かい場所には生息しているという噂も聞くが、大人になるまでの約20年を北海道で過ごした私は、ゴキブリを見たことがただの一度もなかった。

自宅がマンションの上階だったことも関係あるだろう。とは言え、小中高と学校で目撃した記憶もないので、やはりゴキブリの数自体が少なかったのかもしれない。もしかすると現在は当時よりも増えている可能性があるが、道内でのエンカウント回数はゼロだ。

・意識したことすらない

振り返ってみると、子供の頃はゴキブリに対する恐怖があまりなかったように思う。テレビなどでその存在を知ってはいても、それがリアルに感じられないというか。自分とは無関係なものに感じられたのだ。しかし……。

東京の大学に入学した私は、そこで生まれて初めてヤツと遭遇し、その洗礼を受けることになる。忘れもしない。あれは平日の夜中12時ごろ。そろそろシャワーでも浴びるかと、眠い目をこすってイスから立ち上がった時だった。白い壁の中央あたりに、それはいた。

・体が知っている

生まれて約20年もの間、一度もそれを見たことがなかった私。どんな大きさで、どんな動きをするのかも皆目見当がつかない。しかし、それを見た瞬間、脳が、体が、DNAレベルで察知したのだ。


ゴキブリであると。


黒光りした物体から出ている2本の触覚らしきモノ。しかも微妙に動いている。カブトムシやクワガタでは決してない。目の前にいるコイツこそが、漫画やアニメでしか見たことがなかったゴキブリなのだ。理由は分からないが、なぜかその時の私には瞬時に理解することができた。

・動けない道民

だが……理解できたところでどうすればいい? 虫を潰したことはあっても、それはハエみたいな小さな虫だ。潰すにはこのゴキブリ、いささか以上にサイズがデカすぎる。正直、自分の手に負える気がしない。まるでネフェルピトーを前にしたキルアの気分だった。

しかし、神は私を見放さなかった。実はその家には、私以外にもう一人いたのだ。そう、単身赴任中の父と同居していたのである。関東出身の父にとって、ゴキブリなどただの虫けらも同然。近くにあった古新聞を使い、たちまちヤツを滅殺したのだった。


「オレにとってこの状態は、昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なものだ」


父が浮かべていた幻影旅団の団長のような表情を、私は忘れないだろう……。

・説明できない

北海道出身の私はゴキブリを一度も見たことはなかった。にもかかわらず、それがゴキブリであることを一瞬で認識した。この反応は説明不能だ。自分でもよく分からない。もしかすると一部の人間の体には、ヤツへの恐れが遺伝子レベルで組み込まれているのかもしれない。

執筆:あひるねこ
Photo:RocketNews24.