今年7月、愛知県は岡崎市の山奥にあるという、珍スポファンの間で超有名な怪村「ネオ・キタロー村」を訪問した。

岡崎駅から車で1時間。山の中腹に突然現れるサイケな色調のド派手な建物群。そんな建物のひとつから、まるでおとぎ話に出てくるような小さくて愛らしいお爺さんが、ニコニコ顔でキャーキャーわめきながら(失礼)近づいて来た。

・驚異の80歳。全部わしが作った!

もともと大工が本職の村長が、不法投棄を監視する見張り小屋を木の上に作ったところ、廃材で作ったツリーハウスが「ゲゲゲの鬼太郎の家っぽい」というだけの理由で「キタロー村」と呼ばれるようになった。それに気を良くした村長は、周りにバンバン彼独特のセンスによる新しい建物を建てまくり、その結果、一帯がわけのわからない建築物で埋め尽くされ、村のようになってしまった。

つまり、この村の建物は全て村長の手作り! まさに一見の価値ありで、村長は村を訪れた人々を、ほとんどボランティアに近いノリでもてなしている。

目の前でスマホをいじくり、大量にストックした女性来訪者の写真をウットリ眺めながら、名古屋なまりのマシンガン・トークで村のシンボルである時計台(札幌時計台のレプリカ)を自慢しまくる村長。とてもじゃないが今年で80歳とは信じられない。

「最初の小屋を作ったのが18年前かな。探偵ナイトスクープが目をつけてくれてよォ。民放はほとんど出たけど、NHKが来てくれなかったのは唯一心残りだよなァ……

村の見た目と村長のキャラ。そして過剰なサービス精神も相まって、ネオ・キタロー村はこれまでも(NHKを除く)テレビ・雑誌・ネット等で紹介されまくり、蛭子能収・桂小枝はじめ、有名人も大勢この地を訪れた。というわけで、マスコミ慣れも半端ない村長なのだが、この日は明るく振る舞いながらも、時折、眉間に皺を寄せ、考え込むように一点を見つめたり、どこか様子がおかしい。

訳を聞くと、あまりにテレビに出過ぎて地元で悪目立ちしてしまい、家族から活動中止を命じられてしまったのだとか……。

怪人として日本全国にファンも多い村長は、死ぬまでこの活動を続けるつもりだったようだが、「おめえのジイサンエロジジイ」などと学校でからかわれた小学生の孫にまで「行きたくない」と言われたのが堪え、しぶしぶ閉村を決意。今年いっぱいで解体作業に入るんじゃ……と力なく語っておられた。

・台風直撃!村長の悲しみやいかに!

それから3カ月あまり経った10月1日未明、台風24号が日本列島を直撃! その翌日、私と一緒に村を訪れた愛知県内の友人、清水さんのLINEに、村長直々のメッセージが──。そこに添付された瓦礫まみれの悲惨に写真に驚いた清水さんがネオ・キタロー村に駆けつけると、ついこの前まであった門や受付所などが、跡形もなく吹き飛ばされていた。

数カ月前の時点で老朽化が進み、もっともヤバい状態だった3階建のツリーハウスは、家族会議を受けた時点で撤去していたため、周辺に被害が及ばなかったのは不幸中の幸い。

ちなみに今回の台風被害、村運営に大反対の家族にはナイショのまま、村長は今もひとり、黙々と後片付けを続けている。80歳の老人が、である……。

傾斜のきつい側にあった建物の損害はひどく、材木や板などに加え、来場者が描き残した絵馬が無残に散乱。そんな、瓦礫に埋まった泥だらけの絵馬を「拾える分だけでも」と回収しながら「もうやめろということなんだろうな……」と寂しげな表情を見せる村長。

変人キャラと思い込んでいた村長は、こんな大変な状況のなか、1カ月後に来訪する予定の観光客を気遣っていた……。

幸い、村の目玉である時計塔やピザ窯、サウナ等が入った母屋は無事だ。なんとかこのまま閉村の日まで乗り切ってほしい。そして、これを見た多くの人(NHKも)がネオ・キタロー村を訪れ、失意の村長を励まし、讃えてくれるといいんですけどね。

最後に、倒れずに持ちこたえた壁を眺め、村長がつぶやいた言葉を引用しよう。


「この壁を見てくれよ、こいつは後ろから支えを入れたから無事だったんだ。人間だって同じさ、人のつながりを大切にして、お互いを支え合うんだよ」


・今回ご紹介した施設の詳細データ

名称 ネオ・キタロー村
住所 愛知県岡崎市井沢町65
電話 0564-84-2304(予約制)
営業 日曜のみ。年内閉鎖予定

Report : クーロン黒沢
Photo : Rocketnews24.

▼台風直撃前のネオ・キタロー村

▼てっぺんの方にうっすら見えるのが、名物ツリーハウス

▼全て村長の手作り。センスが爆発する独特の建造物

▼テレビや雑誌に出るのが、何より健康長寿の秘訣

▼CBC若狭敬一アナが入浴したという蒸し風呂

▼なぜか展示されていたフジテレビの記者手帳

▼コレクションの石を掲げ、上機嫌だった村長。それが……

▼台風直撃の後、現場に立ち尽くす村長

▼吹き飛ばされた看板はまさに墓石のような……

▼ひとり黙々と、瓦礫の山から絵馬を拾い上げる

▼来訪者たちの思いのつまった絵馬は村長の宝物だ

▼ひとつひとつ、丹念に拾い集めていた

▼占い婚活駅、人生塾、村長の多才ぶりが伺える

▼泰子よ、もっと国語を勉強しろ!

▼幸い、メインの母屋はさほど被害がなかった。

▼村長が命名した「キタロー川」

▼カメラを向けるとついポーズを取ってしまう村長

▼村長の愛車。おや、アンテナに何かが?

▼この車売りませんか?というチラシだった。本気か!