昔はどの街にも「ヤンキー」と呼ばれる危ない輩がいて、駅やコンビニでたむろしている様子をよく見かけたものだ。それが今は、ほとんど見かけることがなくなった。地元愛が強い人を揶揄する言葉として「マイルドヤンキー」なんて言葉がささやかれるようにもなり、ヤンキーそのものは絶滅したと言って良いのかもしれない。
しかし実情はどうなのだろうか? 「ヤンキー界の重鎮」と崇められる青少年不良文化評論家の岩橋健一郎さんに、現在の不良について尋ねてみたところ……ヤンキーは絶滅した訳ではなかった。岩橋さんいわく「今が1番危ない」という。一体どういうことのなのか?
・不良文化に精通するジャーナリスト
岩橋さんは20年以上にわたって、不良少年や暴走族についての取材を続けるジャーナリストである。自身も暴走族「横浜連合鶴見死天王」などで様々な伝説を残したワルであり、その筋では顔のきく人物だ。自らの経験に基づいた物語を『ドルフィン』(原作:岩橋健一郎・漫画:所十三)という作品として漫画化し、現在も絶賛連載中だ。
さて、そんな岩橋さんと出会うことになったのは、元チャンプロードの編集者との縁だ。ご存じの通り、チャンプロードはヤンキーのバイブルとして愛読された雑誌であったが、2016年に休刊。現在はその流れを「i-Q Japan」というサイトが引き継いでいる。そのサイトのライター怒璃璃(ドリル)くんの紹介により、岩橋さんへのインタビューが実現したのだ。
・丁寧すぎる男、岩橋さん
2018年3月末のある日、都内のルノアール会議室でインタビューを行った。取材にあたった私(佐藤)は、とんでもなく緊張していた。何しろ、ヤンキー界の重鎮に会うのだから、普通の精神状態でいられるはずがない。目を見て話をする自信が1ミリもなかった。予定時間よりも1時間も早く会議室に入り、その時を待つ……。
そして迎えた取材時刻。扉を開けて部屋に入ってきた岩橋さんは、驚くほど気さくで丁寧に挨拶をされるじゃないか! 日常でもこれだけ丁寧に挨拶する人はいないと思えるほど丁寧……。
それが逆に怖い……。
実は岩橋さん、以前から当サイトを愛読されているとのこと。それも随分前からご高覧いただいているそうだ。スマホにはロケットニュース24の公式アプリまで入れている!
うれしい! 岩橋さんに記事を読んでもらえているなんて。でも、正直わたし(佐藤)は、しょうもない記事ばかりを書いているので、それを読まれていると思うと、何だかちょっと怖い……。
そんな訳でインタビュースタート。近くで話を聞きたい気持ちはあるけれど、怖くて距離を縮められない。少し離れた席について話を聞くことにした。
・ヤンキーは絶滅したのか?
佐藤 「岩橋さん、最近のヤンキー事情についてお尋ねしたいんですけど、昔に比べてヤンキーは激減したと思うんですけど、不良っていなくなったんですか?」
岩橋 「あのさ、それテレビとかでもスゴく よく聞かれることなんだけど、それが間違ってるんだよな」
佐藤心の声 ──(あ、ヤバい。いきなり質問を間違えたかも……。やっぱり最初は「好きな食べ物はなんですか?」とか聞くべきだったか……)
岩橋 「昔はそこの怒璃瑠くんみたいに、不良は見てわかったんだよ。見るからに危ないヤツには、近づかないようにすればよかった」
岩橋 「今はどうなったかっていうと、何でもかんでも排除したから、見てわかる不良はいなくなったんだよ。見るからに普通そうな子が、いきなりナイフ出して来たりする。そんな事件、もう珍しくなくなったでしょ」
佐藤 「たしかにそうですね」
・少年犯罪が減って、校内暴力が増えた理由
岩橋 「今の少年犯罪はすごいんだよ。傷害事件だけじゃなくて、詐欺とかひったくりとかやるヤツもいて、今の子は頭もいいから、犯罪が巧妙化してきてる。昔のワルは、自分たちが悪いことしてるって自覚があった。だから捕まることも覚悟の上でやってたから、ある意味潔かったけど、今はそうじゃない」
佐藤 「でも、少年犯罪は減ってるって言いますよね?」
岩橋 「だから、それが違うんだって」
──(ヤバい、また言葉を間違えた……)
岩橋 「たしかに少年犯罪は減ったって言われるけど、それは犯罪が巧妙化して、わかりにくくなってるからだ。捕まえづらくなったんだよ。それだけじゃなくて、校内暴力は増えてるんだよ。
学校じゃあ何かといえば、すぐに「体罰」だとか何とか言われるだろ。モンスターペアレンツみたいなのが「行き過ぎた指導」とか言い出すもんだから、先生たちも生徒と向き合わなくなってきてるんだよ。真剣に向き合って指導しようと思っても、親が面倒だから、すぐに警察呼んじゃうんだよ。問題が起きると」
岩橋 「子供も先生が本気で怒ってこないと思うと図に乗って、大人を舐めるようになる。昔なら、街にもヤクザ者がいたりして、『怖い大人』を知る機会があったけど、ヤクザもヤンキーもいない。見えるところの悪い部分だけ排除したら、普通の子や普通の人たちが、平気で悪いことをするようになったんだよ。だから今は1番危ない。悪いヤツを見分けることができないから、極力関わらないようにするしかないんだよ」
佐藤 「まさに言葉の通り、怖いモノ知らずになってしまいますよね」
岩橋 「そうなんだよ。怖さから学ぶことだっていっぱいある。自らの分をわきまえたり、節度が身につくことだってあるんだから。あとは『力』についても、早くから学んだ方がいい。極端なことを言うけど、暴力の授業をやった方がいい」
佐藤 「暴力の授業ですか?」
岩橋 「小学校低学年くらいなら、ケンカしたって たかが知れてる。みんなでケンカして殴ったり殴られたりしたら、痛いってわかるんだよ。そういうのを身をもって体験してないから、成長してから平気で人を傷つけるようなヤツが出てくるんだよ。ガキの頃に力の使い方を教えておくべきなんだ」
佐藤 「同じようなことを『こち亀』の両さんも言ってましたね。 子供のケンカを止めるべきではないって。子供のケンカに大人が口出すべきではないって」
岩橋 「何でもかんでも、「怖いから」「危ないから」って子どもから遠ざけたら、子供たちの方が怖くて危ない存在になってしまうんだよ」
・世の中は平和になったのか?
佐藤 「話は戻りますけど、ヤクザもヤンキーもいなくなったなら、世の中は良くなってるんじゃないですか?」
岩橋 「いなくなったから、良くなったって訳じゃないでしょ」
──(何を言っても的外れな気しかしない……。最初に好きな食べ物を聞かなかったからこうなったか……)
岩橋 「今言ったけど、ヤクザがいなくなって、ヤンキーがいなくなって、チーマーがいなくなって。少し前くらいからどうなったかっていうと、半グレみたいなのがはびこってる。暴力団でも暴走族でもない悪い集団が、緩い世の中に飼いならされた人たちを食い物にしてたりするんだよ。それだけじゃなくて、外国人の犯罪集団だって街に紛れてたりしてる。目に見えるワルを排除したら、良くなるどころか、どんどんどんどん世の中が悪くなってる。犯罪は地下に潜るようになったんだよ」
岩橋 「ヤンキーが絶滅したと思ったら、大きな間違い。ワルを見分けることが しにくくなっただけで、世の中は悪くなってきてるって思った方がいい。そのことに気づくべきだ。世の中は平和になったなんて甘いこと考えてると、悪いヤツに食い物にされてしまうぞ」
佐藤 「勉強になりました!」
・姿を変え、形を変えて
ヤンキーはいなくなったが、ワルは姿を変えて形を変えて、より見えづらい形で社会に潜伏しているのかもしれない。普通の顔をして、当たり前に立ち振る舞って、人々を騙したり欺いたりしている。そういう悪い輩につけ込まれないように、気をつけたいものだ。
なお、岩橋さんはとても気さくで優しい良い人だった。全然怖い人ではないことを、改めて明記しておきたい。岩橋さん、ありがとうございました!
取材協力:i-Q JAPAN
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
▼岩橋さんはとても良い人でした!