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2015年12月2日、日韓W杯で活躍したサッカー日本代表選手がまたひとり現役を退いた。彼の名前は鈴木隆行。W杯のベルギー戦で決めた劇的な同点ゴールを覚えている人も多いことだろう。

なにせ相手は欧州の強豪。先制され、やはり世界の壁は厚いのか……嫌な雰囲気に包まれた中、彼のゴールは日本に光をもたらし、W杯初の勝ち点「1」を手にすることになったからだ。

そんな歴史を変えた彼の引退は時の流れを感じずにいられないが、ネット上で「師匠」の愛称で親しまれていたことを皆さんはご存知だろうか。おそらく知らない人も多いと思うので、なぜ「師匠」なのかご説明したい。

・ネット上の「師匠」とは

師匠。読んでその字のごとく、師弟関係の師を表す言葉だ。しかし、ネット上での「師匠」は少しばかり意味合いが違う。試合に出続けているにもかかわらず、ゴールを決めることができないストライカーを指す。

鈴木選手が「師匠」と呼ばれ始めたのは、前述のW杯から2003年にかけて。得点を奪うことが仕事のFWであるにもかかわらず、46試合(1790分)連続ノーゴールという記録を作ったことからだ。ここからネット上では「ノーゴール師匠」と呼ばれるようになった。

・師匠は平凡な選手につけられない

ただ、ノーゴールが続く現象はそう珍しいことではなく、世界には悩めるストライカーが多くいる。例えばスペイン代表のフェルナンド・トーレス選手がそう。超高額でイングランドの強豪チェルシーに移籍し、初ゴールまで903分も要したのは有名な話である。

ただ、ゴールを決められないだけで師匠とは呼ばれない。たとえゴールを決められなくても、チームに貢献できる。スーパーゴールを決めるのに簡単なゴールを決められないが、重要な試合でキッチリ仕事をするから監督も重宝する上、起用もする。つまり「師匠」は平凡な選手には与えられない称号なのだ。

・顔だけでなく心も男前

ベルギー戦でのゴールを見てわかるように、鈴木選手はどこか期待をしてしまう存在であった。彼なら何かやってくれるんじゃないかという選手だったからこそ、長い間「師匠」の愛称で親しまれたのだろう。

現役時はJリーグだけではなく、ブラジル、ベルギー、アメリカなど世界中で活躍した鈴木選手。2011年には東日本大震災で被災した出身地・茨城の水戸ホーリーホックと無報酬で契約したことも有名で、アメリカでコーチ就任予定を蹴って地元に恩返しする姿は、多くの人の心を打った。

日本代表として国際Aマッチ55試合に出場して11得点。ベルギーの放送局に「半年間もゴールを決めてないFWがどうして今日決めるんだよ」と言わしめ、顔だけではなく心も男前だった彼のことをこれからも忘れない。

イラスト・執筆:原田たかし

▼プレー集(ベルギー戦のゴールは0:52〜)

▼こちらはフェルナンド・トーレス師匠の映像