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2015年11月30日、93歳で急逝された漫画家の水木しげるさん。ゲゲゲの鬼太郎を始めとする妖怪漫画の第一人者であることは言うまでもなく、その功績は計り知れない。水木さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

私事で大変恐縮だが、水木さんの訃報を聞き真っ先に思い出したのが、同氏の著書にあった「幸福の7カ条」である。大きな話題を集めた、連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の頃に読んだ1冊の本。今思うとそこに刻まれた水木先生のメッセージに、私の人生は大きく影響されていたのかもしれない。

・著書『水木サンの幸福論』より

それは、日本経済新聞社から刊行された『水木サンの幸福論』という書籍の中で披露されていたものである。水木先生の半生を振り返る自伝の要素が強い書籍だが、水木先生が幸福に生きるために実践している7カ条がとても印象的だったのだ。以下に抜粋しよう。

第1条:「成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはならない」
第2条:「しないでいられないことをし続けなさい」
第3条:「他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追及すべし」
第4条:「好きの力を信じる」
第5条:「才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ」
第6条:「怠け者になりなさい」
第7条:「目に見えない世界を信じる」

1つ1つの内容については割愛するが、戦争に参加し40歳を超えてからようやく漫画家として食えるようになり、しかも「自分を少しも成功者だと思っていない」水木先生が語る7カ条には、不思議な説得力が宿っていた。

・きれいごとだけではない

単に耳触りの良い言葉の寄せ集めではなく、第5条では「努力は人を裏切る」と語り、第6条では「何かを続けるためには怠け者になることも必要」と語っているのは、水木先生の正直な人柄から来ているに違いない。

ちょうど『ゲゲゲの女房』が放送していた時期にこの本を読んだ筆者は、当時「想像している通りの人だな」とは思ったが、正直に言うと、幸福の7カ条にもそこまで感動を覚えなかった。だがしかし……それから約5年の時が経ち、大いにこの7カ条に影響されていたことに気付いたのだ

・気付けば影響されていた

それは、ある程度の収入や将来が約束されていたエリートサラリーマンから、ライターへ転職するときのこと。30代後半にして大きな決断を迫られた筆者は、大げさではなく吐くほど悩み抜いた。簡単にいえば「義理のある職場で安定的な未来」を選ぶか、「楽しくて仕方ないけど未知の世界」を選ぶかの選択を迫られたのだ。

結果としてライターの道を選んだ筆者。それが成功だったかどうかはもう少し時間が経ってみないとわからないが、幸福の7カ条にのっとれば、「勝ち負けではなく・書くことをやめられず・自分が超楽しく・この仕事が好きだった」からその選択をしたのだろう。

このとき特にこの7カ条を思い出したわけではないが、かつて読んだ記憶がどこかに残っていたのかもしれない。結果として筆者は、幸福の7カ条にのっとった選択をしていたのだ。もちろん「努力は人を裏切る」かもしれないことを肝に銘じながら、今後もライターとして精進していく次第だ。名著なので『水木サンの幸福論』は、多くの人にご一読いただきたい。

参考リンク:Amazon『水木サンの幸福論』
執筆:P.K.サンジュン
イラスト:稲葉翔子