今まで真っ直ぐな人生を歩んできた温厚な化学教師が、末期癌(がん)を宣告されたことで “Breaking Bad(ワルになる)” してしまう海外ドラマ『ブレイキング・バッド』。月並みな映画やドラマでは、殺される登場人物のほとんどが射殺や刺殺で息絶えてしまうが、シリーズ全編の死者数が270人にも上る本作はひと味違う。
ATMマシーンで潰されたり化学薬品で溶かされてしまったりと、とにかく死に方がクリエイティブなのである。そこで今回は、表向きは実業家のマフィアのボス、ガス・フリングにプールサイドで毒殺されてしまう、麻薬カルテルのドン、エラディオ役を演じたスティーヴン・バウアーに注目してみたい。
・キューバのハバナ生まれのヒスパニック系
『ブレイキング・バッド』の舞台は、メキシコに面したニューメキシコ州アルバカーキ。しかも、主役ウォルターがドラッグの精製に手を染めて麻薬の世界で伸し上がっていくという設定なため、マフィアとドラッグカルテルとは切っても切れない縁にある。
ということは、当然ヒスパニック系俳優の存在は欠かせないわけだが、メキシカン・カルテルのドンを演じたスティーヴンもキューバ出身だ。3歳の時にキューバから米フロリダ州へ移住した彼は、大学卒業後ニューヨークへ渡り、演技学校へ通い始めて俳優を志す。
・『スカーフェイス』のマニー・リベラ役だった!!
テレビドラマの端役を経て、スティーヴンがブレイクするきっかけとなった作品は、ブライアン・デ・パルマ監督の最高傑作『スカーフェイス』だ。アル・パチーノ演じるキューバからアメリカへ渡った青年トニー・モンタナが、暗黒街のボスとなり自滅していく姿を描いた作品で、スティーヴンはトニーの相方マニー・リベラ役を演じた。
スティーヴンについてリサーチした際、正直なところ、彼がマニー役を演じていたと知って驚いた。何しろ32年前に製作された映画なので、全く現在の面影がないからである。トニーと一緒にキューバから渡米し裏世界で頭角を現すマニーの人生は、アメリカで俳優として成功した、キューバ移民のスティーヴンの人生とオーバーラップするところがある。
・ウォルターが『スカーフェイス』を見るシーンには深い意味が!?
以前、『ブレイキング・バッド』の不倫男テッドの素顔に迫った際、彼が首を折るシーンで、果物のオレンジが効果的に使われている点に触れた。映画『ゴッドファーザー』シリーズでも“暴力と死” を象徴するオレンジが数多く登場するが、どうやら『ブレイキング・バッド』の製作スタッフは、それとなくマフィア映画の最高傑作へ敬意を払っているようなのだ。
というのもシーズン5の第3話で、ウォルターと息子ジュニアがテレビで『スカーフェイス』を見る場面が登場する。テレビ画面にスティーヴン扮するマニーは映らないが、製作チームが両作のクロスオーバーを狙っていた可能性もある。そして、暗黒街で伸し上がり自滅するトニーは、ウォルターの行く末を象徴していると言えなくもない。
・スペイン語の会合シーンに隠された秘密
ドン・エラディオは豪邸のプールサイドで、ガス・フリングに酒に毒を盛られて殺害されてしまう。そのエピソードの前に登場するフラッシュバック場面で、エラディオとヘクター・サラマンカ、ガスと相棒のマックスが、同じプールサイドでスペイン語で会合するシーンがある。
しかし、4人ともスペイン語が母国語ではないため、かなりたどたどしいアメリカ訛りがキツいスペイン語を話している。よって、スペイン語を母国語とする人が見たら、かなりイタいことになっているらしい。
日本人の視聴者には分からないが、ヒスパニック系が多いアメリカでは、その点が気になるファンが結構いたのではないだろうか。そして、ドン・エラディオがらみのNGとして、ウォルターの相棒ジェシーがエラディオに紹介される時、ジェシーの顔にあるアザの形がカットごとに “B” から “O”、次に “B” へと変わるとシーンがあると指摘されている。
参照元:IMDb[1][2][3]、Breaking Bad Wiki(英語)
執筆:Nekolas
イラスト: マミヤ狂四郎
▼エラディオがガスによってプールサイドで毒殺されるシーン
https://www.youtube.com/watch?v=kmkyq6UNt_8
▼ウォルターとジュニアが『スカーフェイス』を見ているシーン
▼フラッシュバックのプールサイドで行われた会合シーン
▼『スカーフェイス』の予告編
▼『ブレイキング・バッド』シーズン1の予告編
▼ぬりえもあるよ!