インドやネパール、バングラデシュにスリランカ……などなど、独自のカレー文化が栄えている国ではスプーンを使わずに “手で食べる” のが一般的だ。右手の指を器用に使い、コネコネとこねて、すくって、口に運ぶ。決して左手は使わない。
この独特な食べ方に慣れていない旅行者は、おのずと「スプーンはありますか?」と店員さんにお願いをする。素手でカレーを食べるのには抵抗もあるし、やり方もよく分からないのだから仕方がない。だがしかし、素手で食べるべきカレーが出てきたら、郷に従って手で食べるべきだ。
理由はシンプル。手で食べたほうが圧倒的に美味く感じるからである。
記者(私)が素手食い作法をマスターしたのは、インドではなくバングラデシュの超どローカルなバングラ式カレー専門店。
店員さんにスプーンを要求し、さあスプーンで食べようかと思ったその時、目の前に座っていた初老のバングラ人男性が、私に向かって「ちがうちがう、そうじゃない」的なジェスチャーをし、身振り手振りだけで懇切丁寧に教えてくれたのだった。
「中指と薬指と親指を使って、こうして……こうやって、すくうのじゃ。チキンをほぐす時は、こうじゃ。決して左手は使ってはならぬぞ。この三本の指だけで、骨と肉を分離させるのじゃ。そうじゃ、そうじゃ……なかなかうまいではないか!」
言葉は発していないが、カレーじいさんのレクチャーは、上記セリフのような感じだった。「素手でカレーを触るなんて、やけどするのでは?」と思う人もいるだろう。だが、ぜんぜん大丈夫だ。こっちのカレーは熱くない。人肌ていどのぬくもりである。
そして、食べた。手はカレーでベチャベチャだが、生まれてはじめて素手でカレーを食べてみた。すると……
うっめええええええええええええええっぇぇ!!!
美味いのである。圧倒的に、うまいのである。スプーンで食べていたときの数百万倍は美味いのである。本当である。マジである。なぜ今まで素手で食べてこなかったのか……と深く後悔するレベルである。一体どうして、スプーンと素手で、こうも味が違うのであろうか。
その答えを言葉にして教えてくれたのは、バングラデシュ人ではなく、ネパールで出会ったビジネスマンだった。旅行会社やレストランも経営している、日本語の達者なネパール人ビジネスマンである。彼はスプーンと素手の違いについて、流暢な日本語でこう説明してくれた。
「手で食べるべきカレーをスプーンで食べるのは日本のおにぎりをスプーンで食べるようなものだよ」
……なるほど……。なるほどである。完全なる「なるほど」である! これ以上ないほどに分かりやすい例えであり、まさにこの通りなのだ。
スプーンで食べても素手でたべても、おにぎりの味は変わらないかもしれない。だが、おにぎりは素手で食べたほうが絶対に美味い。絶対に、だ。それと同じように、むこうのカレーも素手で食べたほうが絶対に美味いのである。是非ともチャレンジしていただきたい。
Report:GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
▼この写真のお店は私を外国人と見るやスプーンを付けてくれた。2006年ダッカにて。
▼一方こちらはインド。レストランではないが、家でカレーを手で食べてるぞ。