
予備知識ゼロの状態で、初めてこの漫画の第1話を読んだ時、私(あひるねこ)はAIで描いているのかと思った。それくらい1コマごとの情報量が凄まじい。特に背景がとんでもないことになっている。
ところが調べてみると、作画は基本すべて手作業だという。マジかよ……!
今回紹介する『999号室』は、その画力だけでも一見の価値がある作品だ。もちろん魅力はそれだけではない。異様で不穏な物語でありながら、人間の普遍的なテーマが描かれている。
・錚々たるメンツが絶賛
約1カ月ぶりとなる「このマンガがめっちゃ好き!」。私が個人的に激推ししたい作品を語る不定期連載だ。
第2回でご紹介するのは、小学館「月刊! スピリッツ」にて連載中の『999号室』。
先日、二宮和也さんがXに「999号室おもろい。世界観凄い」と投稿したことでも大きな話題になった。
現在発売中のコミックス第1巻では、帯に浦沢直樹さん、浅野いにおさん、大童澄瞳さんという錚々たる作家がコメントを寄せており、その注目度の高さがうかがえる。
・第1話の衝撃
私は第1話を小学館のWeb漫画サイト「ビッコミ」で読んだ。その衝撃は今でも忘れられない。
何の前情報もなしに読み始めたのだが、巨大集合住宅の見開きにタイトルがドーンと現れる冒頭ページを見た瞬間、大げさではなく私の頭には『AKIRA』がよぎった。
集合住宅と呼ぶにはあまりにも巨大な、どこまで続いているのか想像もつかない建物。その内部を主人公は黙々と進んでいく。
説明らしい説明がほとんどないところも含めて、まるで『BLAME!』(弐瓶勉)の世界である。
最近の漫画は親切な作品が多い。「主人公はこういう能力です」「この世界にはこういうルールがあります」といった説明が、比較的早い段階で入る。
しかし『999号室』は違う。本当に何も教えてくれないのだ。
舞台は、ディストピア丸出しの国民放送が鳴り響く不気味な巨大集合住宅。コミックス収録の設定資料によると、モデルは香港の「九龍城砦」と、サウジアラビアで建設が進む巨大都市「ネオム」だという。
過去なのか未来なのか。そもそも地球なのかも定かではない魔境である。
そこに暮らしているのは、多腕の女や顔のない男など、一見するとホラー映画から飛び出してきたような異形の住人たちだ。
主人公の少年「1871号」は郵便配達員として、集合住宅の住人たちへ手紙を届けている。姿形は違えど、誰かから届く知らせを心待ちにしているという意味では、彼らも私たちと変わらない。
どうやら1871号は、労働によって得られるチケットを貯め、今より上位の居住区へ移ることを目標にしている……らしい。
本作についてわかっていることは、本当にそれくらいだ。あとは作中でほとんど説明されない。
・まさかの手作業
それでもページをめくる手が止まらない最大の理由は、圧倒的かつ超緻密な作画にある。
「AIを使って描いたのでは?」「今後は大手からもそういう漫画が増えていくのだろうか?」
第1話を読みながら私はそんなことを考えたのだが、「ビッコミ」に掲載されている作者・南賀なん先生からの「お知らせ」の中で、驚きの事実が語られていた。
『999号室』は基本的に人力で描いており、なんと背景の線の1本1本はすべて手作業で引いているというのだ。さらに今のところ、3Dや写真を下敷きに描くこともしていないという。
つまりAIどころか、本作はほぼアナログと変わらない膨大な作業量によって生み出されていたのである。
その結果、第1話(76ページ)の完成までに要した期間は丸4カ月。想像以上に制作の裏側は壮絶だったようだ。
・執念が生む迫力
このAI時代にあえて手作業にこだわり、このSNS時代にあえて手紙とコミュニケーションの物語を紡ぐ。
1871号と同じように、なかなか困難な道のりではあるが、それが現在もっとも注目を集める漫画の一つになっているという事実は、なんとも痛快である。
気になった人は、まずは「ビッコミ」で無料公開されている第1話だけでも読んでみてほしい。
集合住宅の階下に広がる真っ暗闇を覗き込むような、底知れぬ迫力にきっと息をのむはずだ。
参考リンク:ビッコミ『999号室』
執筆:あひるねこ
Photo:RocketNews24.
あひるねこ






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