JR東海の案内で、私は静岡県に来ている。「もれなく富士山」という富士山をフィーチャーしたキャンペーンのプレスツアーだ。
いま目指しているのは全国に無数にある浅間神社の総本社、富士山本宮浅間大社である。うちの近所にも浅間神社が5社くらいあるが、そういえば総本社を意識したことは無かった。
富士山を信仰していることと富士山頂に奥宮があることくらいしか知らないのだが、富士山は世界的にも日本の象徴。やはり日本人なら1度は参拝しておくべきだろう。どんな所か楽しみだ。
・川へ
ということでやってきました、超有名な鳥居! この鳥居と富士山が並んだ姿は昔からTVや雑誌など、色んな所で見る。
天気が良ければ右側に富士山が見えるのだ。この日は空がこんなに青いのに、富士山だけピンポイントで雲に覆われていた。
それではさっそく社殿の方へ……と思ったら、そっちには行かず、真横を流れる川に連れてこられた。随分と水が綺麗な川だが、ここで何をするのだろうか?
キャンペーンで浅間大社およびその周辺がフィーチャーされたものは3つある。そのうち、今回は「美の願い体験」というのをやるという。
・木花之佐久夜毘売命
私は浅間大社の信仰対象が山としての富士山だけだと思っていたが、神格化した富士山の1つたる浅間大神=木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやひめのみこと 以下サクヤヒメ)として、サクヤヒメを主祭神としているのだそう。
それは知らなんだ。日本神話のとおりなら、サクヤヒメは神武天皇の曽おばあ様である。つまり悠仁親王はサクヤヒメの子の、子の、子の……をたぶん129回くらいやった先の子孫ということになる。
そしてサクヤヒメはすごい美女だそう。ところによっては日本神話で一番の美女だとさ紹介していたりする。まあ名前からして美女感が凄いもんな。なんか花とかめっちゃ咲きそうだし、これほど美女を確信させる名前はそう無い。
彼女に関する神話は面白い。ある日、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと 以下ニニギ)に求婚されたサクヤヒメ。これを喜んだ父親の大山津見神は、姉の石長比売とセットでサクヤヒメをニニギの元へ嫁がせる。
しかしニニギはそんなに美女じゃなかったらしい石長比売を送り返し、サクヤヒメとだけ結婚してしまう。いやまあ、元からニニギが見初めたのはサクヤヒメだけだったので、ニニギに非はない。
それでも石長比売が不憫すぎるだろ……! 早まった大山津見神がすべて悪い。古事記によると、この時にニニギが石長比売も娶(めと)っていれば、天皇家は短命(神に比べて)にならず済んだらしい。
コノハナサクヤヒメはただ美女なだけでなく、ガッツもある。ちょうど昨今話題の托卵疑惑を晴らすため自ら産屋に放火。火の中で出産を成功させたのだ。
真にニニギが孕ませた子なら、火に焼かれながらでも産まれるはずという理論からのムーヴである。この故事から、安産や火難に対し御利益のある女神として今に至る。
今回のJR東海のキャンペーンはサクヤヒメの美女の部分にあやかり、何か美に関する願いをしてみてはどうかというものだ。
日本の神々って、わりと気軽に担当分野を増やされていくよな。サクヤヒメさんにはこれから “美” 関連も担当していただきますね。もしこれが定着して、浅間大社=美容とか美貌の御利益みたいなことになったら、その発端はJR東海である。
・御朱印
このキャンペーンは1800円で専用の願い用紙と御朱印の台紙、そしてケースを貰える。木製のけっこう立派なやつだ。
セットに付属の願い用紙に願いを書き、指定されたスポットに浮かべると、女神からのメッセージが浮かび上がる仕組み。
そのスポットのための紹介ということで、まずは社殿ではなく川に来たというわけだ。川の他にもいくつかスポットがあり、そちらでもいいという。
少し先に行った湧玉池もその一つ。凄いぞ! 国指定特別天然記念物だ!!
富士山からの湧き水だそうで、さっきの川はここから流れているもよう。水が綺麗なわけだ。湧きたてじゃないか。透明度もヤバい。
桜色が良い感じなデザインで、木製のケースには後で紹介する御朱印も納めることができる。せっかくの機会なのでやってみると良いだろう。
・御朱印
こうしてサクヤヒメと戯れた後、いよいよ社殿の方へ。
ここで初穂料の500円を納めて御朱印を貰えばフィニッシュだ。
・インバウンド
そんな感じで浅間大社をエンジョイしていたら、気付いたことがある。昨今ではどこに行っても溢れかえっているインバウンド客が、結構少ない気がするのだ。
社寺と言えば奈良、京都だが、いうまでもなく外国人観光客のラッシュが凄い。東京でも浅草寺など外国人率99%ですし詰め状態だからな。それに対し、ここは非常に落ち着いている……! 今日は数人としかすれ違っていない。
日本と言えば富士山。富士山と言えば浅間大社と考えれば意外すぎる少なさだ。池も川もとても綺麗で風情があってよく、落ち着いた時間を過ごせる。
そして何より、この周辺は何かと眺めが良い。先ほどの川は神田川といい、川沿いには公園があるが、今の時期は良い感じに紅葉が始まっている。
神田川の水は見るからに澄んでおり、見ていて気持ちがよく
湧玉池の水面はまるで鏡のよう。この一帯は社殿、池、川、そして公園の全てが良い感じに整っていて美しい。
社殿を撮っていたら、明らかにここを散歩コースにしている近隣住民と思しきおじさんが現われ「あっちからだと、富士山と一緒に撮れていいんだ」「今日は見えないけどね(笑)」と。
それな! この朱色が鮮やかな社殿と富士山が並べば、その美しさに勝るものなどそうあるまい。さすがは主祭神が美しさに定評のある女神なだけはある。
著名な社寺仏閣で、このように静かで穏やかな時間を過ごせたのは、だいぶ久しぶりだ。もちろんにぎやかなのもそれはそれでいいのだが、時には静かに過ごしたいというのもある。
もしかして浅間大社は、海外の観光ガイドで、そんなにビッグに扱われていないのだろうか。富士山本宮浅間大社は今もっとも日本人的に落ち着いて観光できる穴場の1つ説。
参考リンク:もれなく富士山、富士山本宮浅間大社
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
▼浅間大社で御朱印を頂くとクリップも頂けるのだが、それがとても精巧で美しい。7種類あるそう。
私のは銀色の長方形のもの。富士山部分は淡い桜色で、背景の空はグラデーションがかかった青っぽい感じ。凝っている。
▼浅間大社と言えば、やはり浅間造。2階建ての珍しい建築様式で、全国でも数社しかない。
私には浅間造について疑問があった。2階はどうなっているのか? 今回は神職の方にご案内頂けたため聞いたところ、快く答えてくれた。
なんと、2階もちゃんと2階になっているという。外見からだと複数の階層を持つ門や殿、塔は他にもあるが、実は見た目だけなケースも少なくない。
富士山本宮浅間大社の2階は、内部的にもちゃんと階段で上に上がれる構造となっているという。ただし、上がれるのは高い位の神職の方だけで、案内して下さった方は、上がれるようになるまでまだまだかかりそうとのこと。
▼南極の石。
▼近くのお宮横丁には色々と食べられるお店がある。