「香港の電気街である」という事前情報だけをたよりに深水埗(サムスイボウ)エリアを訪れたところ、そこは “アキバとアメ横とセンター街を足して、さらに30年前にタイムスリップしたようなとこ” だった。
今回ご紹介するのは深水埗のほんの一部分ではあるが、ディープ・アジアな雰囲気に私は大興奮。何か変わったモノが売っているんじゃないかと期待に胸をふくらませた。たとえば「海賊版のゲームソフト」とか「妙な漢方薬」とか!?
・変わったモノを求めて
さっそく私は深水埗の電気屋台群を探索開始。道の両端にどこまでも小さな露天が並んでいる。
リモコンばかりを大量に売る店や……
世界各国のSIMカードを扱う店……
どんなケーブルも揃う店……
中古レコード店に……
実演販売などなど、アジアっぽい顔ぶれが揃う。
・あやしいオジサンの露天
なお電気街と言っても、実際には電気と関係のない店も混在している。
フリマの延長線上みたいなのも多数。奥へ進むとガチのフリマも登場するのだが……
中でも私が心惹かれたのは、6〜70代とおぼしきオジサンが営む店だ。品揃えに1ミリの統一感もないところがイイ。だいたい相場はいくらくらいなのだろう?
ためしに私は『手書きのカセットテープ』を手に取り「いくら?」と尋ねてみた。2秒ほど「う〜ん」と考え込んだ後、おもむろに指を2本立てたオジサン。20ドル(約336円)? まさか200ってことはないわよね?
2ドル(約34円)だった。
私が2ドル支払うとオジサンは可愛らしい笑顔で「サンキュー」と言い、商品にシートをかぶせてどこかへ去って行った。しばらくして戻ると店は再開していたので、恐らくメシでも食っていたのだろう。香港の治安の良さが垣間見えるシーンだ。
・再生してみよう
さて帰国後、さっそくテープを再生しようとケースを開けると……
めちゃ×2 カビてるッ!
ちなみに中国語が少し話せる当サイトの原田記者に確認したところ、ケースに書かれた中国語は “曲名と歌手名” でほぼ間違いないらしい。それもアルバム丸ごととかではなく、1曲ずつダビングした可能性が高いとのことだ。
顔も知らない誰かが作ったベスト・アルバムが遠く海を超えて私の手元にある……なんとも言い知れぬロマンを感じるじゃないか。問題は「カビの影響でテープがオジャンになっていないか」ということだが、とりあえず再生してみる……おっ? イイ感じのバラードが流れてきたぞ!
ってか、この曲……
・『昴』ではないか?
ケースと中身が一致していると仮定して、ここの『羅文』なる人物の歌う『號角』という曲、谷村新司の名曲『昴』にクリソツ……っていうか、たぶん『昴』の中国語カバーなのであった。えらくムーディーで甘い歌声だぜ羅文。
調べたところ羅文は香港の歌手。20年前に57歳で亡くなっているらしい。
ご存知のとおり谷村新司は中華圏で絶大な人気を誇る。以前の記事で登場した谷村新司のコンサートへ行くために来日した中国人(北京在住)に確認したところ、香港の歌手はよく日本の曲をカバーするのだそうだ。ならば羅文が昴を歌っていたとて何ら不思議はない。
香港で謎のオジサンから買ったテープにたまたま『昴』が録音されていた……これをロマンと言わずして何と言うのか。ちなみにデッキを開けると、剥がれ落ちたカビでいっぱい。
が、おかげで再生した部分がかなり綺麗になっている! よく見るとテープに「メイドインジャパン」の文字があり、私はますますロマンを感じたのだった。皆さんも深水埗を訪れる機会があれば、オジサンの店を探してみてほしい!
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
▼仕入れ先が気になるオジサンの店
▼場所はだいたいこの辺だ