皆さんは雑誌「ムー」をご存知だろうか。世界の謎と不思議に挑戦するスーパーミステリーマガジンである。去年、その「ムー」編集部から史上初の児童書が出版された際、筆者はレビュー記事を書かせてもらった。

そしてこのたび、2023年2月24日に、なぜか「児童向けムー」の第2弾が発売されたらしい。なぜかというか、児童に好評だったのかもしれないが、だとするなら最近の児童の「ムー」適性の高さには恐れ入るし、「Z世代」の後に続くのは「ムー世代」なのかもしれない。

ともあれ、大人ながら第1弾を興味深く読ませてもらった身としては、第2弾にも手を出さずにはいられない。「ムー認定! 最驚!! 未確認生物UMAビジュアル大事典」と題されたその本を、以降よりレビューしていきたい。

・相変わらず恐ろしい

第1弾は都市伝説にフォーカスした内容だったが、今回はUMA特集。UMAとは、題名にもある通り未確認生物のことである。

「ムー」編集部と長年タッグを組んできたUMA研究の第一人者・並木伸一郎氏の監修のもと、ネッシーやイエティ、モンゴリアン・デスワーム、ツチノコといった様々なUMAを、本書は200ページ以上に渡って紹介している。

特徴的なのは、第1弾に引き続き児童書らしくイラストや漫画付きで丁寧に解説がなされている点であり、加えて同じく第1弾に引き続き、そのイラストや漫画が児童書の範疇を越えて怖すぎる点である。

例えば、個人的に衝撃を受けたのはネッシーだ。イギリスのネス湖に住まうと言われるネッシーは世界的知名度を誇っており、UMA界の象徴的存在であり、ゆえにマスコット的な扱いを受けることが多い。筆者の中では勝手に可愛らしいイメージが醸成されていた。

だが本書におけるネッシーは、しっかり化け物である。きちんと人間を食らいそうな見た目をしているし、こちらの幻想を入念に洗い流してくれる。要するに怖すぎる。象徴的存在としての威風さえ感じる。

あるいはそういったギャップも抜きにして、単純に最もイラストがおぞましかったという意味では、モンゴルのゴビ砂漠に潜む巨大なミミズのようなUMA、モンゴリアン・デスワームを挙げたい。

ネッシーほどではないにせよ有名なUMAだ。ゆえに名前を聞いたことはあったが、改めてビジュアルを見せつけられると、心にくるものがある。怖すぎる。

児童が目にしたら、その後の人生に暗い影が落ちないか心配になる。筆者は三十路を越えているので何とか耐えられたが、二十代だったらどうだったかわからない。

こんな調子で、大人さえ涙目になる迫力とともに多数のUMAが収録されているわけだが、しかしこれもまた第1弾と同様に、読み終えた時に「怖い」だけで終わらないのが本書である。つまり、面白いのだ。

あまり「怖い」とばかり連呼していてはネガティブキャンペーンにもなりかねないので、ここからは趣向を変えて、筆者が特に興味深く読めた項目をいくつか挙げていくとしよう。


・バサジュアン

まず最初に、スペインのピレネー山脈で目撃された、バサジュアンと呼ばれるUMAだ。この伝説の獣人は、少なくとも1400年代には現地の住民に知られていた。全身毛深く、たてがみは膝まで届き、ヒツジやヤギなどの家畜を従え、2本足で森の中を歩いていたという。

驚くべきは、かつてバサジュアンは人間と交流があり、そればかりか人間に農業技術や鉄細工の作り方などを教えたという点だ。森の守り神や精霊に近い存在なのかもしれない。

そしてさらに驚くべきは、それほどに神秘的かつ超越的な存在でありながら、バサジュアンの出す声が怒ったネコのようであると言われていることだ。可愛い。ギャップがあざとい。スペインはもっとバサジュアンを推すべきではないか。


・ニンキナンカ

次に紹介するのは、アフリカ・ガンビア共和国の国立公園内にて目撃された、ニンキナンカと呼ばれるUMAだ。名前は「悪魔の竜」という意味で、体長は9~50メートル、頭には3本のツノ、長い首、背中に翼を持ち、全身はきらめく巨大な鱗で覆われているそうだ。

一説では口から炎を吐くとも言われ、ニンキナンカを直接目にした者は死んでしまうという言い伝えもある。まさしく魔竜の名にふさわしい存在だ。

ニンキナンカの項目には、ある1つの逸話が書き添えてある。2003年、国立公園の自然保護官が沼地でニンキナンカを目撃し、1時間近く観察したらしい。彼はイスラム教の聖者からもらった植物の実を食べたおかげで、ニンキナンカを見ても死なずに済んだそうだ。

ニンキナンカの魔竜ぶりが完全に霞むエピソードである。イスラム教の聖者がすごいのか、植物の実がすごいのか、自然保護官がすごいのかは定かでないが、ここからわかるのは、UMAが全く太刀打ちできない存在ではなく、付け入る余地が確かにあるということだ。


・トランコ

付け入る余地と言えば、トランコと呼ばれるUMAを知っておくべきだろう。1924年、南アフリカのマーゲート海岸の沖合で、2頭のシャチと激しく戦う怪物の姿が地元の人々に目撃された。

その怪物こそが海獣トランコであり、ゾウのように1.5メートルもの長い鼻とエビのような尻尾を有し、白く長い毛が全身に生え、体長は15メートルほどもあったという。

トランコは長い鼻を振り回してシャチに叩きつけていたが、3時間に及ぶ戦いの果てに敗北した。シャチが強すぎる。強いのは知っているし、クジラさえ相手取ることもあるとは聞いていたが、UMA相手にも完全勝利を収めるのはいくら何でも強すぎる。

いや、そもそもUMAとて、突き詰めれば1個の生物なのだ。我々や、我々が良く知る周囲の生き物と同じように、決して完全無欠などではないということだ。


・クラーケン

最後に紹介するのは、ノルウェーやデンマークなどヨーロッパ各地の船乗りたちが恐れた伝説の海獣、クラーケンだ。

クラーケンが記録に登場するのは、1755年頃から。巨大なイカやタコのような姿をしており、サイズは最大で2.5キロにも及ぶ。島に見間違えられることもあったらしく、クラーケンが現れると高さ9~12メートルもの大波が巻き起こったという。

クラーケンに関して興味深いのは、餌の捕食方法である。クラーケンは排泄物から特別な香りを出して魚をおびき寄せて食べるらしい。突出した非凡なフィジカルを全く活かすことのない、この捕食方法の独特さは何なのか。筆舌に尽くしがたい。

筆者はこの事実を知った時、えも言われぬ衝動にとらわれた。クラーケンの排泄物を嗅いでみたい。決して他人には言えない、おそらく叶うことのない、秘めた願い。一度でいいからクラーケンの排泄物を嗅いでみたい。まさか自分がこんな思いを抱くことになるとは。


・相変わらず面白い

さて、ここまで紹介すれば、UMAがただ「怖い」だけの存在ではないことがわかって頂けたかと思う。時に友好的であり、たとえ強大であろうと弱みはあり、何やら珍妙な特徴を有していたりもする。知れば知るほどに、魅力的な一面に気付かされる。

確かに恐怖は煽られるのだが、しかしやはり面白いし、ハマる。相変わらず大人であっても読みごたえのあるシリーズだ。むろん子供にも、そして当記事を読んで頂いた皆さんにも、興味があればぜひ触れてみてほしいと思う。第3弾の発売にも期待したい。

いや、期待する前に、この第2弾について「なぜか発売された」などと書いてしまったことを詫びねばなるまい。許してほしい。まあ何というか、筆者とて生き物であり、弱みはあるということだ。

執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.