2023年3月3日、ついに日本で映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、通称 “エブエブ” が公開される。本年度のアカデミー賞の最多ノミネートを記録するなど、アメリカで超ロングヒットを飛ばした話題作だ。

ただし、この際そんなことはどうでもいい。問題は「エブエブはわざわざ観に行く価値がある映画なのか?」ということ。一足先にエブエブを試写会で鑑賞してきた私(サンジュン)が単刀直入に結論を申し上げよう。「観て後悔はしない。ただ単純に面白いとかは言えない」と──。

・反省の毎日

実は最近まで、私はエブエブの存在すら知らずにいた。いくらアメリカでヒットしていようと「日本ではそうでもない作品」はかなり多い。なんだかんだ言いながら、結局はリバイバル作品や超有名スターが出演する作品が日本ではもてはやされるのが実情だ。

だがしかし、今年に入ってインド映画「RRR」を鑑賞し、私は深く反省した……いや、恥じた。「なぜ俺はこんなに素晴らしい作品をスルーしていたのか?」と。有名も無名もメジャーもマイナーも関係ない。映画で大切なのは「おもしろいか否かだけ」と思い知らされた次第である。

以来、私は映画の広告代理店の人と会うと必ず「○○さんが心の底から面白いと思う作品があれば無条件で観に行きます」とお伝えしているところ。エブエブはまさに『RRR』の担当者が「エブエブも本気でオススメです」と推薦してきた作品であった。

もちろん、担当者が点数稼ぎで私にエブエブを薦めてきた可能性もゼロではない。……が、もし作品を観た私が「やりやがったな?」と感じたら記事を書くつもりもないし、今後その担当者の誘いには1年くらいは乗らないつもりだ。私は心が震えるような “ガチな作品” だけを求めている。

・破天荒なストーリー

前置きが長くなったが、エブエブは確かに誰かに伝えたくなるのもわかる衝撃作であった。言語化するのが非常に困難ではあるが、まずは以下であらすじをご紹介しよう。


「経営するコインランドリーの税金問題、父親の介護に反抗期の娘、優しいだけで頼りにならない夫と、盛りだくさんのトラブルを抱えたエヴリン。そんな中、夫に乗り移った “別の宇宙の夫” から、全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは自分だけだと伝えられる。

まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ! 無数の“別の宇宙のエヴリン”の力を得て、究極のしがないおばさん・エブリンが宇宙を救う!」


ストーリーから設定に至るまで、ここまで滅茶苦茶な作品があるだろうか? まさにカオスと呼ぶにふさわしい本作の主役・エブリンを演じるのは、香港映画の重鎮「ミシェル・ヨー」、御年60歳である。サモ・ハン・キンポーに見出され映画デビューした、あの「ミシェル・ヨー」だ。

またエブリンの夫・ウェイモンドを演じるのは、キー・ホイ・クァン。「インディージョーンズ 魔宮の伝説」や「グーニーズ」にアジア人の子役として出演していたあの「キー・ホイ・クァン」の復帰作としてもエブエブは話題を呼んでいる。


さてさてさて──。


ストーリーも滅茶苦茶ならば、配役も超1流ハリウッドスターだらけではない本作が、なぜアメリカで異常に高い評価を受けているのか? 1つだけ言えるのはエブエブは「RRR」にも通じる “熱” があったことだけは確かだ。

・どう評価すべきなのか

終始クレイジー極まりないエブエブであったが、それも決して “上辺だけのクレイジー” ではない。言うなれば「哲学的なクレイジー」や「信念のあるクレイジー」とでも言おうか? 薄っぺらくない芯のあるクレイジーさが、エブエブが高評価を得ている理由の1つなのだろう。

また正直に申し上げてしまうと、私は映画を観終わってから今に至るまで “エブエブの正体” を掴みあぐねている。難解ではないが頭で追うには非常に複雑な作品なので「1度観たくらいじゃ正確な評価は出来かねる」というのが正直なところだ。

そう、エブエブはマルチバースをテーマにしているため「自分がどこにいるのか?」を見失いまくる作品なのである。ゆえに頭が感情に追い付かないケースが多発し、改めて振り返ったときに「あれは何だったのか?」と正確な作品の評価が極めて難しい。でもいつの間にか泣いてるからよくわからん!


・それでもスゴイ作品だった

私はエブエブを凄い作品だと思っているし「観ても後悔はしないと思うよ!」と自信を持って言い切れる。ただ逆に1回観たくらいで「エブエブ最高だった!」という人は信用できん!! エブエブはそんなに単純かつシンプルな作品ではないのだ。

……とか言いながら、エブエブの核心は意外とシンプルだったりするからマジでカオス! 私もメチャメチャ映画を観ている方ではないものの、こんなにカオスな作品は滅多に無いことだけは確かだろう。エブエブはハリウッドが本気を出した超カオス映画であった。

出来るならエブエブは複数人で鑑賞し「あれはなんだったのか?」などと答え合わせをするといいハズ。もちろん、何度か劇場に足を運ぶのもいいだろう。カオスの極み『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、2023年3月3日にいよいよ日本で公開だ。

参考リンク:エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
執筆:P.K.サンジュン
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