突然だが、あなたは貯めに貯めた全財産が一夜にして消えたとしたらどうするだろうか? 私(中澤)だったらもう楽になりたいと思ってしまうかもしれない。

リーマンショックでリアルに全財産を溶かした高橋輝典(たかはしてるのり)さんも自殺を考えたという。「あの時死ななくて良かった」と言う高橋さん。何が高橋さんを死の誘惑から踏みとどまらせたのか?

・リーマンショックとは

2008年、アメリカの投資銀行大手『リーマン・ブラザーズ』が倒産したことから端を発したリーマンショック。その余波は世界中を巻き込み、日本でも株価下落や金融危機の嵐が吹き荒れた。

その爪痕は大手上場企業のチャートに今も残っているわけだが、高橋輝典さんはまさに当時バリバリのトレーダーだったという。当時のことをこう語ってくれた。

高橋輝典「農家の長男だったんですが、自分の人生について先が見えてしまったみたいなつまらなさを感じていました。このまま農家を継いで人生それでいいのかな? って。

それで株やFXに手を出していたんですね。タネ銭を稼ぐために仕事も掛け持ちして夜遅くまで必死にバイトして、チャートを作って研究して。毎日3時間くらいしか寝る時間がない生活を送っていました。

努力したこともあって資産が1000万円を超えた時は嬉しかったですね。もうこれ一本でやっていこうと腹が決まったというか。絶対大丈夫な無敵感がありました。でも、ある日、夜のバイトから帰ってきたらその資産が全て溶けていました


──お気持ちお察しします。


高橋輝典「呆然としました。今までの時間全てが無になったような気がして。ちょっと希望を持った時だっただけに、死のうかと何度も考えました。目の前が真っ暗になって人生が終わったように感じてしまって」

・自殺しなかった理由

希望が絶望に変わるのは辛いものだ。まして、1000万円もの大金を一夜にして失うという経験をする人なんてそう多くはないだろう。当時本気で死を考えたとのことだが、逆に踏みとどまらせたものは何だったのか


高橋輝典「僕は釧路高専に通ってたんですけど、自分の中で大きかったのは高専時代の彼女のことです。実は、付き合って3カ月で彼女が死んでしまったんですね。自殺ではなく病気で。

『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』を一緒に観に行く約束をしていたのに公開には間に合わなくて。何も考えられず1人で観に行った時の映画館の雰囲気は今も鮮明に覚えています。それが人生観に大きな影響を与えていて。

生きたくても生きられない人っていっぱいいると思うんです。その中で、曲がりなりにも生きられている僕が自分で生を手放すようなことはしたくない。それからも何度も死を考えたことはありますが、その度に彼女の存在が頭をよぎりますね」

・破産しかけること3回

リーマンショック以降も何度も死を考えたという高橋さん。破産しかけたことが3回あるというから、その言葉は伊達ではない。

1度目は21歳のリーマンショック、2度目は27歳で会社員から独立した時に事業を興そうとして、3度目は興した事業の運転資金であるキャッシュローンが回らなかったそうだ。

そんな高橋さんは現在は、WEB制作会社である株式会社エンコネクトの代表取締役として年商5億を稼いでいる。傍目からはジェットコースターのような人生にも感じるが、本人いわく「目の前のトラブルを必死に解決し続けてきただけ」とのこと。「あの時死ななくて良かった」と笑う。

・お金が元で自殺しようとする人

最後に、お金関係で自殺しようとする人に伝えたいことはあるか聞いてみたところ、以下の答えが返ってきた。


高橋輝典「そうですね……伝えたい……というほど偉そうなことは言えないですが……。飛び込んだ方が楽だなって気持ちは分からなくもないです。僕も何度も感じてきましたから。

でも、僕の実感で言うと、少なくともお金くらいで死ぬのはもったいないです。失敗しても、成功するまでトライし続ければ失敗じゃありませんから。刹那的に絶望を感じても、生きてさえいれば必ず生きてて良かったと思える日が来ますよ」

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

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