日本が世界に誇るびっくり飲食システム、回転寿司。料理が無人で運ばれて、おまけに店舗によっては自分の目の前でぴたっと料理が止まったり、抽選ゲームに参加できたりするんだから、もはやエンタメと言っていい。

いまはもう見慣れてしまった風景だが、ぐるぐる周回するレーンの登場は衝撃的だったはずだ。

しかしインパクトなら勝るとも劣らないものがある。東京の八王子に、特急レーンならぬ “船で料理が運ばれてくる” ユニークな飲食店があるのをご存じだろうか。


・「いろり焼と とうふ鍋 ひな鳥山」(東京都八王子市)

都心から車を走らせると、100台駐車可能な広大な駐車場とともに立派な招福門が迎えてくれる。「いろり焼と とうふ鍋 ひな鳥山」だ。

敷地内には公園のようにフロント、客席、お手洗い、神社といった施設が点在する。中でも巨大な水車には圧倒される。

雨でもないのに、どこにいてもザーッという水音が聞こえてくる。青々とした苔や、湿り気をおびた空気が外界とは隔絶された異空間のような雰囲気をかもし出している。昔話に出てくる里山の古民家といった趣(おもむき)だ。

フロントで受付を済ませ、庭園を歩いて座席へ向かう。ずらりと並んでいるのは離れのような個室。


なんと、すべての席は掘りごたつのプライベートルーム! ひとりでも個室を使えるなんて非っ常~にぜいたく。

おひとり様でもなんら問題なく入店でき、料理も1名分からオーダーできるが、メニューはすべてコース料理になっているのでその点だけ留意したい。

入室するとすぐに囲炉裏(いろり)に炭を入れてくれる。1時間以上のコース料理が提供されるにもかかわらず、スタッフの方と顔を合わせるのは案内時、炭入れ時、会計時のたった3回だけ。それ以外の時間はすべてセルフサービスである。


では、どうやって配膳するのか。コースによっては10品以上の料理が並ぶというのに……


部屋の奥にある一面のガラス窓にご注目いただきたい。


そっとスライドさせると……


水路が走っている! すべての座敷が水路に面し、つねに水が流れている。


飛び込んでくるのは目玉が飛び出るような光景だ。料理を乗せた船がっ……!!


流れてくるーーーー!!!!!


自室に料理が来るときには、小鳥のさえずりの効果音で知らせてくれる。焼き鳥を食べに来たのに小鳥の声が流れるとは少々意味深だが、船に気づかずやり過ごしたり、無駄に待ったりといった心配はない。

不思議なことに、料理は自室の前でぴたりと止まる。船底にレールやマグネットがあるのだろうかと一瞬思ったが、もっとアナログな仕組みだった。

各部屋の前にはストッパーがあり、必要なときだけ水圧で立ち上がって船が引っかかる。用事が済めばストッパーが倒れ、再び船が進むという実に合理的なシステム。

料理を降ろした船は、最奥まで進んでから見事にUターンして調理場へ戻っていった。


・ベーシックな「ひな鳥焼」コース

最初に届いた料理は、ミニサラダや田楽といった前菜たち。


チャッカマンも届くので、自分で固形燃料に火をつける。同店の名物メニュー「福福とうふ鍋」だ。


続いてメインの「囲炉裏焼きの具材」がやってきた。筆者は基本の「ひな鳥焼」コース(税込3820円)なので、ひな鳥串焼き4本と、つくね串焼き1本、野菜串焼き2本という構成。

1本1本がずっしりと重い! ジャンボサイズだ。

コースによってはソーセージ、エビ、タイ、アユなど多彩な串焼きがつく。追加オーダーも可能だ。その場合は、室内の内線電話から注文する。

囲炉裏には、ちょうどよい角度で串を渡せるよう工夫がなされている。


焦がさないように注意しながら、少しずつ串を回して焼いていく。この過程がものすごく楽しい。BBQやお好み焼きなどもそうだが、自分で火を通した食材をアッツアツで食べるときほど美味しいものはない。

はやる気持ちを抑え、ひとくちかじってみると一瞬で言葉をなくした。しっかり塩味をきかせたジューシーな鶏肉が、最っ高に旨い! 5種類のハーブを与えた自慢のひな鶏だそう。もちもちと弾力がありながらも軟らかく、鶏肉の旨味が染み出してくる。

タレはなくても十分だが、ひな鳥の風味を邪魔しないさらっとしたソースも美味だった。

そうこうしているうちに鍋もクツクツと煮立ってくる。豆腐も美味しかったのだが、驚いたのは残ったスープのほうだ。

自家製ダシに豆乳をブレンドして作っているという白濁スープは、まろやかでポタージュのように甘い! 普段、豆っぽいえぐみのある豆乳は苦手なのだが、ごくごくと全部飲んでしまった。実はいま「このスープを飲むためだけにもう一度訪問したい」とさえ思っている。

〆料理は茶そば、鍋焼きうどん、讃岐うどん、白飯から選べる。鍋焼きうどんにしたのだが、これが大正解。

水路から上がってくる冷気や、煙を逃がす換気扇のため部屋はやや肌寒く、温かい鍋焼きうどんが五臓六腑に染みた。

麺はもっちりと太い。甘みのあるダシに胡椒のようなピリリとする辛さが加わり、まるでラーメンのような個性的なスープだった。

広々とした個室を独り占めしているという開放感もあって、いつまでも長居したくなる。通常、〆の料理はコース開始から1時間半後をめどに届くというが、もし急いでいるなどの事情があれば内線電話で知らせるとよいとのこと。

会計時には席札をもってフロントのある建物に戻る。すべてが屋外移動なので冬場や天候不良時はつらいかもしれないが、筆者が訪ねた秋の日には散策気分も味わえて素晴らしかった。八王子のひんやりとした清浄な空気とともに滞在を楽しんだ。


・再訪を誓う

「ひな鳥山」は海外の観光地にあるような、物珍しさや話題性だけを狙ったレストランではなかった。船が水路を渡ってくるパフォーマンスも楽しいのだけれど、すべてがセルフサービスで進むコース料理は気軽でよかったし、なにより料理が美味しい。

仕事柄いろいろな飲食店に行くが、正直「話のタネに一度経験すればいいかな」というところと、「記事とは関係なく再訪したい」というところはきっぱりと分かれる。「ひな鳥山」は圧倒的に後者だ。

プライバシーが保たれ、配膳で会話が中断されることもないので家族の集まりにも最適だ。実際のところ慶事・法事に広く対応し、人数によっては送迎も可能だという。囲炉裏の火を囲んでお酒を飲んだら、きっと最高に楽しいと思う。


・今回ご紹介した飲食店の詳細データ

店名 いろり焼と とうふ鍋 ひな鳥山
住所 東京都八王子市上柚木1602-4
時間 11:00~22:00(最終受付20:30)
休日 水曜日
(祭日を除く)


執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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