四条大橋。京都の鴨川にかかる橋のうち、四条通にあるヤツだ。通りを東に向かえば祇園や八坂神社があるし、西に向かえばエディオンや高島屋が。

観光客も、ほぼ全員がすぐそばの祇園四条駅で降りて周辺を散策するだろう。そして「あれは何だろう」となるのが、橋の両サイドにあるクッソ目立つ3つの建物

1つは劇場「南座」と、元祖にしんそば「松葉」。残る二つは、「レストラン菊水」と「東華菜館 本店」だ。

・気になる

四条大橋に来れば、この3つの建物は確実に目にとまる。そして「気になるけど……また今度」みたいな感じで、好奇心をおさえてスルーしてしまうのが多数ではなかろうか。

なんなら、現地民とてスルーしたままな人もけっこう居そう。近くに住めば住むほど、案外行かなかったりするものな。

どの店も多くの人に認識されているが、気になったまま未体験な人も多いスポットな可能性。ということで、まずは「東華菜館 本店」に突撃してみることに。


・東華菜館

ということで、ある日の夜に来店。


昼間も何度か見たが、建物が違うもんな。絶対お高いお店だわ。公式HPによると、大正15年(1926年)に作ったらしい。わお、あと4年でちょうど100年じゃん。


特に予約も何もせずフラっと入ったところ、納涼床(川床)に案内された。昼間に撮った写真で場所を示すとこんな感じ。四条大橋からよく見えるスポットだ。


それじゃあとりあえず、この5千円のコースを……と思ったら、コース系は2人以上でなければ頼めないという。万年ソロ、スマホの電話帳が登録数0件を超えたことの無い私は、来世まで食べられないことが確定した。


仕方がないので、人気のメニューを聞いたところ、「チンジャオロース(2750円)」と「ハルマキ(1650円)」だという。ということで、この2品をオーダー。あとはドリンクでウーロン茶も。

ちなみにこの席からの眺めはこんな感じ。京都民が鴨川で寛ぐ様子を見下ろすことができる。


・雨

そして料理が到着……とほぼ同時に、まさかの急な雨! とはいえ、たいした勢いではない。鴨川ピープルも、多少の軽い悲鳴は聞こえたが、そのまま雨に打たれつつステイしている。

まあ人間もカメラも防塵防滴だしな。私は別に構わないが……と思ったが、他のお客さんは大いにかまう様子。


どうするのか見ていたら、各自料理を持って店内に退避し始めた。へぇ、急に雨に降られた納涼床ってこうなるのか。面白いなぁ!


などと慌てふためく人々を眺めていたら、私の元にも店員のお姉さんがやってきて、問答無用で料理を持っていかれてしまった。あ、店内に移動しなきゃ駄目なんですね。OKです。


どうやら外で食ってた客全員に、新たにテーブルを割り振っているもよう。入口付近で少し待機したのち、エレベーターで上の階に案内された。


・最古級エレベーター

しかし、これは実にラッキーだった。あのまま外で食事を終えていたら、この驚くべきエレベーターに乗る機会を得られなかっただろうから。


実は東華菜館 本店のエレベーターは京都府内で最古。日本全国で見ても、最古級なエレベーターのうちの一つ。写真を撮って良いか聞くと、どうぞどうぞと。


あらゆる箇所の仕様やデザインが現代のモノと違って面白い。


アメリカのOTIS社製。


このレバーをガチャっとやる。


聞くと、毎月2回のメンテナンスで維持しているという。このエレベーターに乗るだけでも東華菜館 本店に来る意味はあるだろう。


こうして通されたのは店内のテーブル。いやー、店内も雰囲気ある造りですわ。天井の柄とか灯りとか。壁やカーテンまで面白い。テーマパークに来たみたいだぜ


・料理がパネェ

まだ一口も食っていないのに、すでに通常の食レポ記事1本分程度の文字数を超えているが、ここからが本番だ! さっきチラっとお見せしただけだった料理のターン!

まずは「チンジャオロース(2750円)」。


筆者が普段食うチンジャオロースと言えば、バーミヤンのヤツみたいな感じのだ。満州の「美保野ポークの肉細切りピーマン」も実質はチンジャオロースだろうか。

とにかくピーマンと細切りの肉と、その他の野菜が何かしら入ったりしているアレだ。お値段はまず1000円しない。が、こいつは2750円。間違いなく人生で最も高価なチンジャオロースだが……はっきり言おう。その価値はある。

上の写真じゃわからないと思うが、まずこいつは肉がおかしい。40年の人生で食ってきたどんなチンジャオロースも、こんな肉じゃなかった。

どういうことか? 細切りなはずの肉が、太くてデカいのだ! わかりやすく筆者のスマホと比較したのがこちら。


マジかよ……チンジャオロースの肉ってのは、モヤシみたいな細さで、とりあえずタンパク質であることが最低限分かるような、そういうモノだろ? これじゃあまるで、一口サイズに切ったステーキじゃねぇか……!!

焼き加減も絶妙で、程よい柔らかさと弾力がある。野菜もジャッキジャキ! 噛んでる時のジャキジャキ音が四条大橋から太平洋を越えてゴールデンゲートブリッジまで届きそうなレベルだ!

今まで食ってきたチンジャオロースは何だったのか? これをチンジャオロースだと言われてしまったら、一般的なチンジャオロースなど、もはや肉無しモヤシ炒めに限りなく漸近する

感動しながら半分ほど食ったところで、肉の長さに規則性があることに気付いた。さっき上で「一口サイズに切ったステーキ」とか書いたが、あれは想定以上に的を得ていた可能性。

肉を並べてみるとこの通り。もしかしてこれ、通常はステーキになる肉を、1皿に2枚ほど使ってるんじゃないか?

こいつの正体は “細切り(庶民的には十分太い)ステーキ2枚とピーマン・セロリ炒め” なのでは……?


もはやチンジャオロース界の王である。ボリュームもそこそこというか、おそらく普通は分けて食べるものなのだと思う。ウマさと得られる経験値的に、2750円はむしろ安いと言ってもいいかもしれない。


・ハルマキ

続いてはもう一品。「ハルマキ(1650円)」だ。さて、筆者の知るハルマキと言えば、やはりバーミヤンで出てくるようなヤツだ。わかるだろ? あの筒状のヤツな。

が、東華菜館のハルマキはこうだ!


何だこれは? ハルマキを頼んだはずなのに、ビジュアルに知ってる要素が何一つないの来たぜ! まあチンジャオロースの時点で未知のクオリティだったけどな。

ちなみに1切れごとのサイズがそこそこデカい。やはり本来は複数人でシェアするものなのだろう。


皮の様子もなんか違う。ハルマキの皮ってこんな黄色かったっけ? 


まずは何もつけずに食べてみると、やっぱり知ってるハルマキじゃねぇッ!! ハルマキというか、表面はパリッとしつつも芯は程よく柔らかい極うす玉子焼き(クレープ生地とは味が違う)で巻いた、ハムと野菜の何か美味いヤツって感じ。

ググってみると、ハルマキ界には薄焼き卵で作るバージョンが存在するようだ。関西で見られるスタイルらしい。なるほど、ステイツと関東の生活しか知らぬ筆者は見たことが無かったわけだ。

まあしかし、関西のその辺にあるのであろう薄焼き卵型ハルマキとて、東華菜館のモノの前には消し炭にされるだろう。卵焼き部分の質だけ見ても、こいつのウマさは半端ないからだ!

今度はテーブルに備えられている醤油や辛子をつけて食ってみよう。すると、驚くほどの進化を見せるではないか。素でも美味いが、醤油や辛子が加わると完成度がさらにぶっちぎる!!

ハルマキってのは、極まるとこんなに完成度の高い料理になるんだな……。ご覧の通り、私がオーダーしたのはチンジャオロースとハルマキ、そしてウーロン茶のみ。


主食が無いが、しかしチンジャオロースとハルマキが全く物足りなさを感じさせない圧倒的パワーを持っている。それぞれの完成度が高すぎて、白米で邪魔したくない

なんかもう、すげぇなここ。京都に来た観光客の100%くらいが絶対に気になってる店だと思うが、その好奇心に素直に従った方がいい

もしかしたら京都でできる他の多くの素晴らしい体験全ての評価を、ここの料理が持っていく可能性まであるぞ! すげぇいいもん食ったなぁって感じがする。

気になったものの、好奇心をおさえてスルーした皆さんは、京都を楽しむうえで最大級のミステイクを犯したと言っても過言ではない。

うめぇうめぇと食っていたら、いよいよ無くなってしまった。そして最後に残ったカイワレ大根。こう言うパターンだと、9割方残されるヤツ。


しかし、ここまでがあまりにウマすぎたので、何一つ食えるものをこの皿の上に残していきなくない感が高まってしまい、こいつも完食。

ピリッとしていい感じのリフレッシュになる。ハルマキを何切れかに対し、カイワレを1本か2本のペースでつまんだらちょうど良さそうだ。

「チンジャオロース」に「ハルマキ」だけでもこうなのだ。きっとほかのメニューもヤバいに違いない。月1くらいで通って全制覇したい。京都に住んでいたら、迷わず実行していただろう。


・マスト

ということで、とりあえず突撃してみた四条大橋そばの気になる店が1つ「東華菜館 本店」。金額だけ見れば間違いなくお高い。しかし、対クオリティ&体験比では全く高くない

考えてみて欲しい。その辺の、よくわからないチェーンの居酒屋で、食ったかどうかすら記憶にクソほども残らない特別美味くもない何皿かのツマミを頼んだり、微妙に割高なビールなり、ストレートの時点でどう考えても加水されてる感に満ちたクソみたいなリカーを飲むなどしても1人5千円はいくだろう

なら、そのクソみたいな居酒屋通いを1回か2回減らし、「東華菜館 本店」で食事をした方が良い。ちなみにコースで提供される品は、一品料理とは違うコース専用の仕様だそう。

世の大半の人は一人くらい同伴者を見つけられるものと思うので、京都に来た際には四条大橋そばの「東華菜館 本店」で食ってみてくれ! マジでうめぇぞ!!

参考リンク:東華菜館
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.

▼一つ後悔がある。ウーロン茶を頼んだのは失敗だった。いや、ウーロン茶がマズいとかではない。ただ、絶対に紹興酒でキメた方が良いと思う。紹興酒は中華料理のウマさを加速させる。


▼窓から外を撮っても良いかと聞くと、快く開けてくれた。このスタイルの窓の取っ手も最近はすっかり見ない。


窓からの眺めはこんな感じ。四条大橋3大気になる建物の、残り2件が見える。


最初に案内された納涼床(川床)。これ言うと全ての京都民を敵に回しそうだけど、ぶっちゃけ納涼床って、その字面ほど涼しくないっすよね。風情はあるけど、夏場は風情を蚊がワンパンするし。鴨川は見えるけど、店内の窓際からも鴨川は見えるし。最古級エレベーターと店内の装飾と冷房の涼しさで、東華菜館本店は店内一択だと思う。