ウチの父の仕事は “海外から商品を買い付けて日本で売ること” である。先日 “海外で偶然スケジュールが合う” というカッコイイ事態に見舞われた我ら父娘。場所はタイの首都バンコクだ。「せっかくなので食事でも」となったはいいが、事件は翌日の早朝に起きた。

ドンドン! とホテルのドアを激しくノックする音で私は目覚めた。恐る恐るドアを開ければ顔面蒼白の父。父が「ちょっとええかな……」と切り出す話はロクでもないと相場が決まっているのだが、今回ばかりは少し深刻度が異なるようだ。一体どうしたというのか?

・父を襲うIT化の波

と、その前に少しだけ、ここへ至る経緯をご説明しておこう。父は筋金入りの旅人で、私が生まれるずっと以前から海外を飛び回っていた人物だ。日本ではあまりパッとしない彼だが、海外における頼もしさったらない。我が父ながらそこだけは尊敬する。

……が、それもコロナが発生するまでの話。ご存知のとおりコロナ禍における海外渡航は、ワクチンパスポートや各種アプリなど様々な事前準備が必要である。今回のタイ行きは父にとって実に2年ぶりの海外。ネット弱者な父に代わり、私はタイランドパス(現在タイへ行くのに必要)の申請などをサポートした。

そんなワケで、先ほど「偶然スケジュールが合った」とお伝えしたのだが、真実は少し違う。父が日本へ帰国するための最大の試練……それが “海外でのPCR検査” 。私は父のPCR検査に同行するため、あらかじめ予定をすり合わせておいた、というのがコトの真相だ。


・検査当日

父の帰国2日前。我々はバンコクでも特に日本人が多いと言われるエリアにある、PCRセンターへ向かった。なぜ正確な場所を明記しないかについては後述。

私が昨年エジプトでPCR検査を受けた記事でもお伝えしたが、現在日本へ入国するには原則として『日本式フォーマット』なる、面倒極まりない用紙にハンコを押してもらう必要がある。ここが本日最大のヤマ場となるはずだったのだが……

なんと! 受付で「日本人だ」と告げるやいなや、無言でサイン入りの日本式フォーマットを手渡されたではないか。もちろんこの時、まだ検査は行っていない。要するに「自分で勝手に結果を記入してね」という意味であり、悪用しようと思えばいくらでもできちゃう状態だ。

考えようによっては皮肉ともとれるバンコクPCR会場の現状にビックリしつつも、父の検査はとどこおりなく終了。結果は翌日メールで届くのだそうな(価格は1500バーツ / 約5816円)。

なおコレは日本人が極端に多いバンコクだから起こり得た事態であり、他の国では「日本式フォーマットなんて誰も知らない」と思っておくのが賢明だぞ。


・そして悲劇が……

で……冒頭お伝えした翌日早朝である。顔面蒼白の父は重い口を開き、そして厳かにこう言った。


「お父さん、陽性だったわ」と…………。


父いわく検査結果が届いたのは検査当日の深夜。そこには確かに「COVID-19 POSITIVE(陽性)」と記されていたのだそうだ。

その時の部屋の空気の重さたるや壮絶だった。なんたって父の帰国日は翌日なのである。今から再検査を受けたとて、結果が覆る可能性は極めて低いだろう。チケットは変更できるとして、問題はビザだ。それから隔離期間はどこで過ごせばいいんだ? 病院は?

そもそも父は60代の高齢者だが、それって結構ヤバいんじゃないのか? ってか父が陽性ってことは……ワシもほぼ確実に陽性やん!!! ワクチン打って、猛暑の中をマスクで過ごして……それで陽性って、そんな非情な話、ある!?

ブツブツと何かを呟きながら、必死でグーグル検索を繰り返す娘。父も申し訳なく思ったのか、慣れない手つきでスマホをいじっている様子だ。そして私がついに日本大使館へ電話しようとしたその刹那。突然「あっ!!!!?」と大きな声を上げる父。そして彼は、少しハニかみながら、確かにこう言った。


「お父さん、やっぱ陰性かもしれん」と…………。


・娘、無言

結論から申し上げると、父の検査結果はゴリゴリの陰性。父いわく「うっかりメールを読み間違えちゃった」らしいのだが、実際のメールに書かれていた内容は以下のとおり。


“検査結果は下記に記されています。もし「NOT DETECTED(検出されず)」と書かれていれば、あなたはNEGATIVE(陰性)。「DETECTED(検出された)」と書かれていれば、あなたはPOSITIVE(陽性)です。”


つまるところ父は、文章の最後にある「POSITIVE」という単語だけに反応してしまった。そしてその先にある実際の検査結果を読まずして「自分は陽性だ」と大騒ぎしてしまった……というのが、今回の顛末らしいのである。マジか父……マジなのか。


本人の名誉のため一応弁明させていただくと、父は本来こんな低レベルなミスを犯すほど英語力に乏しい人物ではない。少なくとも外国人相手に1人で商談をまとめ上げるくらいの実力はある。それが一体なぜ、中2英語レベルの初歩的ミスを犯してしまったのか?

それは恐らく、ひとえにインターネットに対する苦手意識。裸でインドに放り出されれば誰よりたくましく生き抜くであろう父も、スマホの前では赤子同然なのであった。「いや〜ゴメンゴメン!」とハニかみながら帰国の途についた父。次回の旅がいつになるのかは知らんが、たぶん私はまたサポートすることになるだろう。

……とまぁ、そんなことがあったからみんな、海外でPCR検査を受ける際はくれぐれも結果を最後まで読むこと! あと想像以上に親は年老いている場合があるので、なるべく労ってあげてくれよな〜!

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.