コロナ発生後の2021年夏以降、私はのべ16カ国を訪れ、その多くでPCR検査を受けた。理由はもちろん移動や帰国に必要だったから。しかし2022年10月、ついに日本入国にも陰性証明は不要となり、事実上 “普通に海外へ行ける暮らし” が戻ってきた。

外国で陰性証明を取得するために、私は数々のピンチを経験してきた。思い出すだけでゾッとする場面もあった。でも今になってみると……どれも素晴らしいメモリーなのである。もちろんコロナは不幸だが、コロナ禍の海外旅行がアドベンチャーだったことも事実なのだ。

もうあのスリルは味わえないのか……と少し残念な気持ちになったので調べたところ、現在も少数ではあるが “入国に陰性証明が必要な国” があるらしい。これは……行くしかないか?

・行った

在香港日本国総領事館のホームページによると、2023年3月10日現在、香港への入国には「出発予定時刻48時間前以内のPCR検査、あるいは出発予定時刻24時間前以内の迅速抗原検査の陰性証明」が必要とのこと。かくして私は滞在先のバンコクから香港へ飛ぶことを決めた。

バンコクのPCR検査については以前の記事でご紹介したことがある。現在バンコクでPCR検査の費用は1000バーツ前後(約4000円)が底値。去年より安くなっているとはいえ、払わなくてすむなら払いたくない金額だ。

その点『迅速抗原検査』なら、わずか50〜100バーツ(約200〜400円)ですむ。迅速抗原検査は簡単に言えばセルフ検査のこと(医療機関で行うパターンも)。自分で鼻に綿棒をつっこむアレだ。バンコクの薬局で検査キットを念のため2つ購入。しめて120バーツ(約468円)。

ところで気になるのは「セルフ検査の信憑性をどう証明するのか?」という点である。在香港日本国総領事館のホームページには「迅速抗原検査を各自で実施した場合は、同キット本体にお名前(ローマ字)、検査日時を記し、写真をとって保存する必要があります」と書かれている。


……これ、マジ大丈夫なのか?

 


こんなもん極端な話 “陰性結果をねつ造する” ことも余裕で可能なように思う。せめて「検査官の目の前で抗原検査を行う」なら分かるが……なにか素人には分からない判断基準があるのだろうか? 広東語が話せない私の言うことを、香港空港の人は信じてくれるのか?



・蘇るトラウマ

で、悩んだ結果……私はPCR検査を受けた。

私の心に永遠に刻まれしトラウマ……それはイタリアでPCR検査を受け、空港で搭乗拒否されたこと。「ルール上は問題ないのに係員が正しいルールを把握していないために拒否される」という事態が、海外では割と頻繁に起こり得るのだ。

もし搭乗や入国を拒否されてしまった場合、私は検査費用をケチったことを激しく後悔するだろう。 “万が一” の可能性も潰しておくことにしたのである。

そして搭乗日(3月9日)。チケットカウンターではとくに何も求められなかった。かつては陰性証明書を提出しないと発券してもらえなかったが、時代は変わったものである。おそらく香港のイミグレでチェックがあるのだろう。

搭乗時も何も起こらず。

 

香港国際空港へ到着しイミグレへ向かう。

 

「ウエルカム トゥ 香港」と書かれているが、まだウエルカムと決まったわけじゃないので優しくしないでほしい。

バッグの中にはPCRの陰性証明書、抗原検査の陰性画像、そして今すぐ使える新品の検査キットもあり、まさに万全の臨戦体勢である。入国カードを記入し、いざイミグレへ……!




何のチェックもないまま街へ放り出されたァ!!!

 


・雑すぎた香港入国

陰性証明書を出すタイミングがないまま到着ロビーへ出てしまったため、私はあわてて係の人に「見て! 私の陰性証明、見て!!!」と詰め寄った。すると係の人はどこか冷めたような目で、しかしキッパリとこう言ったのだった……「必要ない」と。

な、なにそれ? 私だけが偶然チェックをすり抜けた?? いや、周囲の誰も陰性証明を提出している様子はなかった。じゃ、香港の入国ルールって、一体何だったんですか? 説明を求めたいが広東語が話せないので術はない。

こうして私はPCR検査代1000バーツ、抗原検査キット代120バーツ、細かいようだがペン代19バーツを「ドブに捨てたも同然」となったのだった。まぁ入国拒否より全然いいが、これによって一番ソンをしているのは他ならぬ香港である。何か事情があるのだろうが……謎だ。

抜き打ちでチェックをしている可能性もあるので、完全に無検査で香港へ行くのは無謀。とはいえ現状「PCR検査まではしなくていいかも?」って感は否めないところである。おそらく近い将来このルールは撤廃される予感がするので、香港旅行を予定している人はもう少しだけ待ったほうが無難なのかもしれない。

……というのが表向きの結論で、個人的には今回のデタラメな一件に大変満足している次第だ。「入国規制が曖昧な国へ行ってみたら “事実上の無規制” だった」……これをアドベンチャーと言わずしてなんと言うのか?

参考リンク:在香港日本国総領事館
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.