「渇望(かつぼう)」、その時の私(佐藤)はまさしくその言葉の通りに、心から望んでいた。甘いモノを……。1週間のコロナ療養期間、常に欲していたのが甘いモノである。できればふんだんにフルーツを盛ったスイーツを食べたいと思っていた。

そんな私の渇きを潤してくれたのが、丸福珈琲店の「プリン ア・ラ・モード」である。病み上がりに食べたあの至極の一品は、この先、生涯忘れることのない味だろう。プリン、おおプリン! プリン ア・ラ・モードよッ!!

・ア・ラ・モードだ!

施設での療養期間中、甘いモノが一切食べられなかったわけではない。東京・有楽町の感染拡大時療養施設は食事は充実していて、毎食満足のいく弁当が食べられる上に、ミニカップ麺やレトルトおかゆ。飴もお菓子も食べ放題だった。

実際、ビスコやアルフォートやミニルマンドなどが用意されていて、食ってはいたんだ。


好きだよ、これらも、もちろん好き。でもコレじゃない! 菓子ではなくスイーツが食べたいんだよ。できれば濃いコーヒーと一緒にね! そこで施設を退所した翌日に銀座へと向かった。銀座三越の丸福珈琲店ザ・パーラーには、極上のスイーツと濃いコーヒーがあると知っていたからだ。


メニューを見ると……、ある! 珈琲ゼリーがある! フルーツパフェがある! そしてプリン ア・ラ・モード(ドリンクセット税込2640円)がある!! ア・ラ・モードだ、プリン ア・ラ・モードを食うんだ!


・プリンと私

私にとってプリンは特別な存在だ。幼少の頃、祖母の家の近くの商店街がまだ賑やかだった頃、毎週土曜日の夜市に出かけるのが楽しみだった。

洋菓子店に立ち寄るのがお決まりで、母と祖母はあんみつを買い求め、私たち兄弟にはプリンを買ってくれた。当時暮らした家の近くには洋菓子店がなかったので、夜市のたびにそのお店に行くのが楽しみで仕方なかったんだ。

プリンは私の洋菓子の憧れであり、そして成長の原動力になっていた。大人になったらプリン食いまくる! そう、幼心に誓ったものだ……。


時を経て40代の後半に差し掛かり、胆石のために甘いモノを控えなければいけなくなった。けどよ、今日くらいいいだろ! コロナから快復して、1週間の療養生活を終えた今日は、プリン食う! 俺はプリンを、プリンア・ラ・モードを食うぜ!!


・幸せの箱舟

自らの情熱の強さに思わず目頭が熱くなってきたころ、幸せの箱舟が姿をあらわした


ガラスの器は甘いモノで満載だ。いくぶんはみ出して過積載(かせきさい)気味になってるじゃないか。フルーツが所狭しと詰め込まれて隣にはアイスクリーム。肩身の狭そうなプリンが愛おしい! しかし安心しろ、主役はお前だぞ、プリンよ!


さて、まずはフルーツをやっつけよう。療養施設には冷蔵庫がなかったので、新鮮な果物が食えなかったんだよなあ。よ~し何から行くか。最初に食べるのはキウイだ!

口に入れると酸味でアゴの下がキューッとする。唾液線が刺激されているのかな? スッペエ! でもウメエ!


続いてイチゴ。プチプチと弾けるような食感が心地よい。鮮やかな赤い果肉を口に含むたびに、身体の内側で何かが目覚める気がする。うお~! 来てる来てる! ビタミンパワー!!


続けてオレンジ、グレープフルーツと食べたところで味覚の感度は目いっぱい酸味に振り切れたので、ここでバナナをひと切れ頬張る。まろやかな食感と甘さで味覚は酸味から甘味へとシフトした。あま~い! これこれこういう甘さ、自然を感じる甘さが欲しかったんだよねえ


ここで一旦口休めにコーヒーに口をつける。丸福のコーヒーは濃いことで有名で、舐めるようにすするとドッシリとした重量感のある苦味を感じる。琥珀色の液体は喉元から流れ込んで、胃の底へと沈んでいくようだ。


・プリンとの対話

そして器の中央にたたずむプリン。脇役どもはすべて片づけたぞ、プリンよ。俺とお前だけ、2人の対話をしようじゃないか。なあ、プリンよ


私はプリンに固さを求めない主義だ。あくまでも柔らかめが好き、柔らかさこそがプリンの魅力だと考える。ゼラチンでカチカチになったプリンを見ると、なぜか切なくなってしまう。

がしかし! 柔らかければ良いというものでもない。だってプリンは飲み物ではないのだから、食べ物である一線は死守してほしい。さてはたして、ここのプリンは……。


口に含むと……、柔らかすぎず固すぎない。食べ物としてのギリギリの線で柔らかい! グッド! ここのラインなんですよ! そう、このくらいの柔らかさがプリンらしさを保てるかどうかの瀬戸際なんですよ! いいですね、いいですよ!

ということで、病み上がりに食べるスイーツとしては最高のものを頂けたのではないだろうか。私はコロナから快復したことと、そして極上のプリンに出会えたことを思い、天を仰いだ。ありがとうございます!

ちなみに「プリン ア・ラ・モード」の発祥は日本である(横浜ホテルニューグランド発祥)

・今回訪問した店舗の情報

店名 丸福珈琲店ザ・パーラー 銀座三越
住所 東京都中央区銀座4丁目6-16 銀座三越6F
時間 10:00~20:00
定休日 なし(施設に準ずる)

参考リンク:ホテルニューグランド
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24