飲食店やホテルや映画や商品などなど、私たちがなにかを選ぶとき、ユーザーレビューは欠かせない存在になっている。中にはレビュー操作や悪質レビューもあるから、頭から信じるのは危険だが、一読する人は多いと思う。
ところが評価をみてみると、「まあ及第点です」のような内容で満点の☆5をつけている人もいれば、「悪いところがない」のに☆3の人もいて基準がまちまち……ということで「日本トレンドリサーチ」が意識調査を行った。
すると「およそ1割弱の方は、満足でも不満でもないときに満点評価をつけている」のだそう。この傾向、日本人では少数派だが、おそらく欧米人ではもっとずっと高い割合になるはず。筆者はある海外旅行エピソードを思い出した。
・日本人は低評価ばかりつける?
海外でクルーズ旅行をしたときのこと。クルーズ船では一般的に、チップがあらかじめ乗船費用に含まれていたり、一括徴収したりするので、1人1人のクルーに手渡しする習慣はない。
1泊につき○ドルなどと金額が明示されることも多く、「サービスの満足度に応じてチップを渡す」という習慣は形骸化している。
そのぶん「顧客満足度アンケート」がとても重視されている。乗客は、レストラン担当の働きぶりがどうだったか、キャビン担当はどうだったか、事細かくアンケートに回答する。
評価に直結するので、クルーもアンケートを相当意識しているし、担当してくれたクルーを応援したい気持ちもあるから、ほとんどの乗客は真摯に回答すると思う。
ところが、そこで大きなすれ違いが生じるのだという!
可もなく不可もないサービスを受けたとき、筆者も含む日本人の多くは、「普通」という意味で☆3をつける(5点満点の場合)んじゃないだろうか。「特筆すべきことがない」「悪くない」というくらいのニュートラルな意味合いだ。
もし想定以上のサービスをしてもらって感動したり、優れたところがあれば、☆4や☆5をつける。これは「加点方式」といわれる考え方だ。
しかし多くの外国人、とりわけ欧米人は「減点方式」で回答するという。とくに問題のない、ごく標準的なサービスを受けた場合、満点をつける。なにか不満があった場合には☆4……☆3……と減点していく。
レジャーとしてのクルーズは欧米発祥なので、船内の思考や文化も欧米式。日本人がよくつける☆3というのは「問題があった」「不満がある」という意味になるそう。この評価をみた船側はびっくり。
そこで日本語スタッフが乗船オリエンテーションで注意喚起したり、プリント配布で説明するようになったのだが……
・説明も難しい
要は「日本人は意図せず低評価をつけがちなので気をつけて」ということなのだが、これ、説明が難しい。
オリエンテーションの主催は、船側の日本語スタッフの場合もあれば、日本から同行する旅行会社の添乗員のこともある。中には本筋からそれて「クルーはみんな家族から離れて数カ月も洋上生活を送っていて……」などと感情論を持ち出す添乗員もいた。
それは職業人として当然の覚悟で乗船しているわけで、仕事のできとは関係がない。正直「高評価レビューに誘導するなんて、アンケートとしてどうなの?」と思ったこともある。
そうではなく、日本人が「普通」のつもりでつけた評価が、相手にはマイナス評価として伝わることがある、という解釈の違いの話なのだ。
その違いを理路整然と説明してくれる添乗員にあたり、主旨を理解してからは、海外で漫然と☆3をつけるのをやめるようになった。ちなみに最近世間を賑わせた「飛鳥Ⅱ」などは、日本に船籍のある日本船なので、ここに書いたことは当てはまらない。
・自分のものさし、相手のものさし
冒頭の「日本トレンドリサーチ」の意識調査では、やはり「十分あるいは十二分に満足できたとき」に☆5、「八割方の満足ができたとき」に☆3の評価をする人が多数派のようだ。
デフォルトで☆5をつける欧米式には、どことなく「You are OK」の肯定的な姿勢が感じられてよいが、「平均より優れている」「期待以上」であることを示せる日本の加点方式もメリットがあると思う。
どちらが正しいとか間違っているとかの話ではなく、クチコミサイトをみるときは「相手と自分の “ものさし” がまったく違っている可能性」を、常に頭に置いておく必要があるだろう。
参考リンク:日本トレンドリサーチ
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.