
今日4月20日は、それまでの飛脚(ひきゃく)に代わり、日本で郵便制度が始まったことにちなんだ「郵政記念日」。国内はもちろん、海外にまで無事に手紙が届くのは、近代郵便制度のたまものといえるだろう。
筆者はかつて世界中にペンパルをもち「海外文通」をしていた。いまのようにメールもSNSもない時代、手紙は海外の人と交流する唯一の手段だったといってもいい。そんな時代に経験した、インパクトのあるエピソードを5つご紹介したい。
・その1. 世界中をめぐった「フレンドシップブック」が帰ってくる
筆者が文通をしていた時代、家庭用パソコンはだいぶ普及していたものの、スマートフォンはまだなく、SNSなんてものも一部の限られた人のツールだった。そんな時代に海外の人と出会いたいと思ったら、どんな手段があるか。
少女雑誌の広告コーナーをご記憶の方もいるかもしれないが、文通希望者を仲介する「文通クラブ」「文通団体」に有料で入会するという方法があった。
1人でも知り合えたら、あとは簡単。文通が趣味の人は、複数のペンパルをもっていることが多いので「知り合いの知り合い」という形で輪が広がっていく。
その最たるものが「フレンドシップブック」だ。当時、FBといえばFacebookではなくFriendship book!
たとえば厚紙などをホッチキスでとめて冊子状のものを作る。そこに自分の住所氏名を書き込み、ペンパルに送る。受け取った人は自分の住所氏名を追加し、別のペンパルに送る。
自己紹介を書いてもいいし、「手紙待ってます」などと書いてもいいので、途中で手にした人は自由に手紙を送れる。
最後に「ページがなくなったな」と思った人は、最初の人、つまりFBを作った人に返送する。
数カ月、場合によっては数年かかり、途中で行方不明になることも多かったが、筆者のもとにも何冊か戻ってきた。世界中をめぐり、10人、20人という外国人の連絡先が書かれた冊子が自分のもとに戻ってくるのだ。なかなか感動する。
また、FBを介して見知らぬ人から手紙が届くことも多く、ねずみ算式にペンパルが増えていく。逆に自分がFBを受け取ったら、もちろん次の人に回すのが礼儀。ときに何冊ものFBが集まり、封筒がずっしりと重くなることもあった。アナログだが、楽しい習慣だった。
・その2. ペンパルと実際に会ったら地獄
もっとも長く文通が続き、気が合ったのが香港の女の子・スーチーだ。彼女は大の日本通で、アニメや漫画も大好き。多くの日本人と文通している行動派だった。
そんなスーチーが、妹と従姉妹を引き連れて日本旅行にやってきた。一緒に観光するため京都駅で待ち合わせたのだが……
香港出身で、英語ペラペラの3人組。一方、当時20歳前後の筆者は「読み書きはできるけど、しゃべれない」典型的日本人。早口でまくしたてる3人の会話に、筆者はまっっったくついていけなかった。
中学生でもわかるような簡単な英語でも、実際に発音されると聞き取れない。「信号が赤なのに、横断歩道に車が入ってくる(右・左折車)のはどうして?」など、普段考えたこともない質問にも上手く答えられない。
なにを聞かれてもアワアワするばかりで、あれほど情けなく、悔しい思いをしたことはない。
彼女の帰国後、どちらともなく文通は自然消滅してしまった。原因はわかっている。筆者が「自信をなくしてしまった」せいだ。いまでもちょっとピリリと胸が痛む思い出だ。
・その3. ブラジルからの手紙にショックを受ける
もっとも遠い距離で文通をしたのは少しだけ年上の、ブラジルのお姉さんだった。写真を送ってくれたが、モデルみたいなナイスバディに豊かな黒髪、たくさんのピアスと、同世代とは思えない大人っぽさだった。
そんな彼女の最初の手紙の書き出しが、いまでも忘れられない。
「昨日、弟が銃で撃たれて亡くなりました」
自分の日本語訳が間違っているのかと、何度も何度も読み直したが、やはりそう書いてあったと思う。
「銃で人が亡くなる」という事態が普通に起こる日常。そしてその翌日にペンパルに手紙を書いている日常。それがこの地球上で日本と続いているということが、筆者には信じられない思いだった。
・その4. ちょっとヤバい人もいる
基本的には楽しい文通生活だったが、中にはちょっと「おや?」と思う人もいる。
FB経由で手紙を送ってきた、イギリス在住の男性だった。イギリスといえば筆者にとっては「英国貴族の国」「魔法と妖精と古城の国」として憧れの地で、文通を断る理由なんてない! はずだったのだが……
当時40代後半、筆者からするとかなり年上の独身男性で、母親と2人暮らしだという。成人した男性が実家に住み続けるというのは、個人主義のイギリスでは珍しいケースだったのではないかと思う。
007シリーズの大ファンだといい、熱狂的な思いを便せん何枚にも綴ってくれたのだが……そこには相手が作品に興味があるかどうかなどお構いなしの、一方的な空気を感じた。
さらに彼は写真を同封してくれた。写真を送り合うのは珍しいことではなく、彼の写真もごく普通の白人中年男性が写っていたのだが、お返しに「君の写真も欲しい」としきりに求めるようになった。続けて「日本に行きたい」とも……。
筆者は少々ためらった。文通しているということは「住所が知られている」ということで、その気になれば訪ねてくることもできる。
ある日、玄関のチャイムが鳴って彼が立っている、という事態だって考えられる。偽名や偽人格でも交流できるSNSとの大きな違いだ。
筆者は何度か返事は書いたのだが、自然消滅のふりをしてフェードアウトしていった。ちょっとコミュニケーションが下手なだけで、親の介護などを担っている普通のオジサンだったのかもしれないが、写真は送らなかった。いま、どこでどうしているだろうか。
・その5. 手づくりの食べ物が届いた
コロナ禍のいまでは考えられないが、香港のペンパルからは手づくりのお菓子を送ってもらったこともある。おそらく季節行事で食べる「月餅」の類だったと思うが、タッパーに詰められた、ちょっと粉っぽい素朴なまんじゅうだった。
外国の家庭のお菓子というだけで珍しかったし、もちろん食べた。それでお腹を壊すようなこともなかった。
よく腐らずに届いたなとか、虫が入ったりしないんだろうかとか、検疫ってないんだろうかとか、いろいろ疑問はあるが、とにかく世界全体がいまよりも少しシンプルだったように感じる。
・消えゆく文化
辞書をひきながら手書きで文章を綴り、切手を貼ってポストに投函する。相手に届くのは数週間後。何千キロも離れた人と、インターネットで瞬時につながる現代では考えられないコミュニケーションツールである。
それでも、ペンパルたちと交わした言葉は数十年経ったいまも、リアルに心に残っている。韓国の女子高生の手紙からは「受験戦争が厳しい」ということがヒシヒシと伝わってきたし、スーチーが好きだった漫画『ご近所物語』は筆者も大好きだ。
筆者だって「より便利で迅速なもの」に飛びつくから、「手書きが1番」なんていう気はさらさらないが、ほんの少し温かく、また懐かしく、あの子たちどうしているかなぁ、と思い出すのである。
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
冨樫さや









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