日々多くの新商品が生まれては消えていくカプセルトイの世界には、時として「これ誰が買うんだよ」という奇跡の商品が誕生することがある。

そして世界の美術界では、善意の……あるいは精一杯の修復のつもりが「修復前よりも悪い」状態になってしまい、逆に大注目されるという奇跡がときおりニュースを賑わせる。

このたび、株式会社レインボーから「修復に失敗した美術品キーホルダー」が爆誕。その詳細をご紹介したい。


・「なんでやねん?! 修復失敗アクリルBC」(300円)

商品は2020年11月中旬から順次入荷。全4種(各300円)で対象年齢は7歳以上だ。まぁ、これを欲しがってマシンの前でダダをこねる未就学児はいないと思うが……。

横4cm × 縦5cmくらいのアクリル板に、ボールチェーンがついている。ペラペラ曲がるビニールではなく、厚さのあるアクリル板で、作りはしっかりしている。その両面に美術品のビフォー・アフターがプリントされているのだが、実際に商品を見てみよう。


・この人を見よ

まずは “世界一有名な修復失敗” といえるだろうスペインのフレスコ画「この人を見よ」。もとは画家エリアス・ガルシア・マルティネスによる作品だといい、磔刑前のイエス・キリストの姿が教会の壁に描かれていた。1910年の作とあってだいぶ彩色がはがれ、古めかしい印象となっている。

これに心を痛めた地元の高齢女性セシリア・ヒメネスさんが、善意から独自に修復をほどこしたのが2012年のこと。キーホルダーを裏返すと……


修復後の姿が登場! 髪の毛は毛皮のフードをかぶっているように爆発し、小首を傾げて虚空を見つめる瞳はなんだか動物的に見える。


この姿はインターネットを通じて世界中に広がり、BBCでは「毛むくじゃらのサル」と酷評。「このサルを見よ」「モンキー・キリスト」などと揶揄(やゆ)されたとか。

ところが、修復後のむしろ味のある姿が人気を博し観光客が激増。「もとに戻さないで」という署名活動まで行われたのは過去記事で報じたとおり。たしかに大胆にデフォルメされた姿が前衛的に見えなくもない……かもしれない。そんな「この人を見よ」の修復前・修復後の両方を手元に置いておける貴重な逸品だ。


・聖ジョージの彫刻

続いてもスペインの教会から。2018年、礼拝堂にまつられていた木製彫刻の「清掃」を依頼したところ、勝手に「修復」されたというもの。ローマ軍の兵士であり、ドラゴン退治の伝説をもつ聖人であることから、甲冑をつけた勇ましい姿で彫られている。制作は16世紀ということで、やはり色あせている。はたしてキーホルダーの裏面は……


ものすごい肌色でべた塗りされている!! 修復前よりもはっきりした顔立ちになり、美少年になったような!? これには関係者も怒り心頭で、スペイン政府が処罰を検討するなど騒動になった。


・無原罪の御宿り

さらにスペインから最近の事例。っていうかスペイン多いな。

バロック時代の画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョが聖母マリアを描いた「無原罪の御宿り」の複製画。

聖母マリアはすべての人間がもつ「原罪」を背負わず生まれてきており、特別な加護を受けている……という意味なのだそう。マリアの汚れのない美しさ、清らかさを表現しているだけあって、画面からは神々しさがただよう。フェルメールやレンブラントを連想するような透明感のある柔らかいタッチで、宗教的象徴に不謹慎かもしれないが、ものすごい美少女。

所有者はコレクターだそうで、最良の状態で絵を管理したいと思ったのだろう。家具修復業者に修復を依頼したところ……


最初に修復されたテイク1が上段! おそらく納得がいかなかったのだろう、もう1度修復してもらったテイク2が下段!! どっちもダメだろ!

修復はもちろん有償で依頼しており、コレクターの心中は察するに余りある……。冒頭で紹介したような善意の行為ではなく、少々悪質だといえるだろう。

このタイプに限り、2度の修復の両方がデザインされたお得なキーホルダーになっている。


・15世紀のマリア像

最後にスペイン……って、またスペイン!? あえてスペインの事例にフォーカスしたのか、それとも修復失敗の事例を集めていたら全部スペインになってしまったのか真相はわからない。

もとは15世紀に作られた木彫りの聖母子像。着色はされておらず、木目を活かしたシンプルな造形だ。2018年、司祭から許可を受けて地元住民が修復に取り組んだという姿がこちら……


まさかのアニメ塗り……!!


まぶしいくらいにカラフルな原色。いや、信仰はその地域の人のものだ。周囲からも理解を得られたという話だから、着色すること自体はいいとして、色のチョイス……!


・多くの疑問が……

なぜスペインに集中しているのか、修復を手がけた人は途中で「まずい」と立ち止まる瞬間があったのか、地元の人はどう思っているのか、疑問はつきない。

しかし最大の疑問は「なぜこのガチャを作ろうと思ったのか」だ。思わず全種類出るまで回してしまったじゃないか。世界は広い。まだまだ解けない謎がある。


参考リンク:BBCニュース[1][2]
Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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