とどまるところを知らない『鬼滅の刃』人気。大正時代の日本が舞台ということで、和楽器、伝統文様、日本刀など和のモチーフがたくさん出てくるが、劇場版の少し先のエピソードに「秘密箱」というアイテムが登場したのをご記憶だろうか。
つい先日まで「鬼滅見てない」などとうそぶいていた筆者が、なぜそんなことを知っているのかというと、試しにTV版を見たらドハマりして原作を全巻買ったうえに劇場版もすでに2回見たからだ。
この秘密箱、実際の伝統工芸品として現代でも手に入る。しかも自宅で手作りできるキットがあったので作ってみたぞ。
・箱根丸山物産「秘密箱体験工作キット(小)」(税込2000円)
作中ではサブキャラクターとのちょっとした会話で「正しい手順で動かさなければ開かない箱」と言及され、炭治郎も「妹が持ってた」と懐かしそうに応じている。実物は4回くらいの操作で簡単に開くものから、100回以上の仕掛けを解かなければ開かない複雑なものまで多種多様。
キットを販売しているのは箱根にある寄木細工専門店「箱根丸山物産」。現地では直接学べる「体験工作」を行っているようだが、通信販売でもキットを購入できる。
木片はすでに切り出されており、サイコロのように6面を組み合わせるだけ。ゆえにパーツも6個しかない。簡単そうだ。
部品同士はすべて溝にスライドして固定する。クギも接着剤も使っていないのに、かっちり組み合わせることができる伝統技術だ。
実は説明書は小さな紙片1枚で、あまり詳しくないのだが、立方体にするだけなので勘でできるだろう。
と感覚的に進めていたら……
隙間あいとるー!!
誤差でズレている、というレベルではない。どうやってもピタッと四角形にならず、どこかが明らかに間違っているようだ。
ふりだしに戻る。
そもそも説明書を読み解くことが難しい。図解はあるのだが、1番から6番までのパーツが、実際にどの木片を指すのかがわからない。イラストを比較しても、当てはまる形のものが1つもないのだ。そして文字は小さく消えかけている。木片は白木なので、見ただけでは天地や左右もわからない。
手がかりになりそうなのは、最後に書かれていた「外し方」だ。
そう、秘密箱は接着剤などで固定しているわけではないので、完成後も繰り返し解体できる。そうやって「知恵の輪」のように遊ぶのだ。外し方から逆算していけば、最後の数工程はわかるはず。
その後も、同じパーツだと思っていたら、実は違いがあることに今さら気づいたり……
「最後の1面」がどうしてもハマらなかったり……
押しても引いてもズレていたり……
あーだこーだと悪戦苦闘しながら30分後……ついに、ついに立方体になった!!
組んで外して組んで外して……と終わりのない試行錯誤に発狂しそうになった。まさにパズルを解いているような感覚。簡単にできる、なんてとんでもなかった。これは……忍耐力を育てる修行……。
実際に体験して欲しいので詳しくは書かないが「ここを引いて、こっちをずらして、そっちを引いてから、こっちを逆に引き抜く」という4つの手順を踏まないと開かないぞ。すごい!
もちろん力ずくではダメ。なにも知らず「これ開けて」と手渡されたら、ほとんどの人は開けられないと思う。
最後にシール状になっている寄木を貼りつけ、ロウで磨いてツヤを出したらできあがりだ! 図柄は選べないが、繊細な細工が美しい。自分で布などを用意して貼ってもいいかもしれない。
・普通はこんなに苦労しないのでご安心を
今回筆者は大変な苦労をして組み上げたが、普通はそうではないのでご安心を。箱根丸山物産では「おうちで体験! 秘密箱体験工作」と題して、Zoomで作り方をレクチャー(予約制)してくれる。
日本人は遊び下手、などといわれることもあるが、こういった細工物に対する「シャレっ気」には相当なものがあると思う。海外にも熱心なコレクターがいるらしい。同店には秘密箱の進化形「からくり箱」なんてものもあるから、ぜひのぞいてみて欲しい。手工芸時代の日本の雰囲気にひたれるぞ。