1人焼肉、1人カラオケ、1人鍋……いま日本ではかつてないほどに「1人を楽しむ」文化が盛り上がっている。その一方で、「独身の日」にちなんだ意識調査(インテージ調べ)では、1人ではやらないアクティビティに「海水浴・ディズニーランド・ボウリング」と並んで「キャンプ」が入っている。確かにキャンプやBBQは人数が多ければ多いほど楽しくなる遊びの代表格。ところが、今年はなんとソロキャンプが流行るらしい!
“趣味人専用書店” を名乗る『書泉』のスタッフが2020年に流行る趣味を大予想。「書泉トレンド趣味大賞」として “ソロキャンプ” を選出し、その普及に貢献した『ふたりソロキャンプ』(イブニングKC)の著者・出端祐大氏を表彰したという。これはさっそく体験してみたらいいんじゃない? ということで人生初のソロキャンプに行ってみた! 1人だからこその魅力、困ったこと、持っていってよかったもの、失敗したものなどありのままレポートしてみたい。
・キャンプ場到着
今回やって来たのは「若洲公園キャンプ場(東京都江東区)」。こんな都心にキャンプ場があるとは知らなかったが、東京湾を臨み、対岸には(直接は見えないが)東京ディズニーリゾートと素晴らしいロケーションだ。羽田空港も近く、上空を頻繁に飛行機が飛んでいく。いいところじゃないか!
売店「若洲アウトドアセンター」では、器材のレンタルや販売、「手ぶらでキャンプ」「手ぶらでバーベキュー」のサービスも行っている。ただし最低利用人数があり、ソロキャンプ向けのセットレンタルは行っていなかった(単品ならレンタル可能)。
・初テント設営
テントは一式レンタルした。筆者は生まれてから一度もテントなんて所有したことがないし、設営経験もない。付属のマニュアルを見ながら手探りでやってみる。
ポールを連結して伸ばし
所定のスリーブに入れて
立ち上げる!
あれ? めっちゃ簡単だった……。当初の見込みではここで悪戦苦闘して親切なキャンパーに助けてもらって恋が始まったり始まらなかったりネタ的に美味しくなる予定だったのに。
マニュアルには「かなり力が要りますので可能なら男性2人推奨」と書いてある。平均的な日本人女性に比べて筆者は決して怪力ではないはずだが……テントの進化と、レンタルで繰り返し使われて生地やポールが柔らかくなっているためだろう。たぶん。
この日は快晴の小春日和で、風がまったくなかったのもよかった。中は清潔で、1人で寝るには十分な広さ。ランタンを吊り下げるフックがあったり、小物入れがあったりと工夫が凝らされていた。
・炭おこし
今回、ほとんどのキャンプ用具はレンタルしたのだが、自宅から持ってきた秘蔵の品もいくつかある。そのうちの1つがCAPTAIN STAGの小さな焚火台だ。「火を育てる」というのに憧れて、何度かオートキャンプで焚火をしたのだ。でも炭は使ったことがない。キャンピングカーでは文明の利器、卓上コンロを持ち歩いているからだ。
Google先生に聞くと、空気の通り道を作るように中央を空けて積むといいらしいのでやってみたが……これだと着火剤が孤立してしまうので軽く炭でフタをしてみた。
なんか違う? しばらく待っていたら着火剤は跡形もなく燃え尽き、炭は表面だけ真っ白になって終わった……。
と思ったら、火が点いてるー!! これは成功! 着火剤すごい!
・3時のおやつ
実はおやつにぴったりの、よいものを持って来ている。じゃじゃん、ポップコーンである。一定の世代以上の人は子どもの頃にきっと食べたことがあるはず。家庭のガスコンロなら、直火で数分もあぶればパンパンに膨らんでくる。
……のだが、何分経っても一向にポンポンいわない。バターの海で硬いコーンがちゃぷちゃぷしているだけである。なぜに? Google先生、ご教示を!
おおう、炭は投入する量によって火力調整するものらしい。つまり温度が低すぎたんだな。近寄るとポカポカ暖かいので、十分に燃えているものだと思っていた。炭を増やし、網の上に載せてみたら、ようやく少し膨らんできた!
ちょっと焦げたけど出来た! 所要時間30分! かかり過ぎ!
・『ふたりソロキャンプ』読んでみる
「書泉トレンド趣味大賞」受賞のきっかけとなったコミックス『ふたりソロキャンプ』を読んでみた。ソロキャンプの孤独を愛する中年男性と、キャンプ初心者の天然娘のコメディだ。キャンプの知識や、自然美もしっかりと描写されていてタメになる。はじめは自分のペースを乱されて嫌がる主人公だが、破天荒なヒロインの作る激うまキャンプ飯にほだされていって……という王道の展開。
ふたりだけどソロ、ソロだけどふたり、いいじゃないこの距離感! 現実には起きないけどね!
・肉を焼く
日も傾いてきたので、夕飯にしよう。買っちゃいましたよ、和牛ステーキ! 調理器具もないし、ソロだと食べられる量が限られるから、もう肉を焼くしかないね?
ただ焼く! 岩塩を振って焼く! 遠赤外線効果なのか、速攻で焼けた。
美味!
ソーセージも美味!
最後の締めにうどん!
先ほどの失敗を忘れ、いつまでも煮立たないうどんを網にかけ続けるという愚行もあったが、美味しくいただいた。沸騰させたいときは炭を追加! 忘れないように!
・夜が更けてきた
ふと気がつくと、周りのキャンプ客が最初の半分くらいになっている。ここ若洲公園キャンプ場は夜21時までデイキャンプ可能で、その人たちが帰ったのだ。急に心細くなってきた。広い公園にテントが全部で5張りくらいだろうか。
ただ、東京の夜は暗くない。空にはひっきりなしに飛行機が飛び、キャンプ場のすぐ後ろのビルからはトラックの出入りの音がする。「バックします、ご注意ください」のアラートが間近で聞こえるし、目の前の東京ゲートブリッジに続く高架道路にも車が走る。加えて公園内に点々と灯る焚火を見ると、「大丈夫」という気持ちと「もう帰りたい」という気持ちが交互に訪れる。
1人はちょっと寂しい。困ったときに助け合える人がいないのは心細い。トラブルが起きても自分で解決するしかない。自分を信じていなければ、とても過ごせない時間だ。何からも影響を受けない自分自身に立ち返るために、人はソロキャンプをするのだろうか?
・防犯対策?
そろそろ寝るとしよう。ところで、テントの戸締りってどうするんだ? カラビナでもつける? キャンプ好きな人に悪い人はいない前提?
ググってみると、留守中や就寝中に高価なキャンプギアが盗まれないようにする対策、というのは出てくるけど、自分が中にいるときの防犯対策についてはほとんど情報がない。もし女性でソロキャンなら、ここは重要だと思う。変質者や強盗が入ってくる可能性がないとは言えないし、深夜のキャンプ場で、タイマンで犯罪者に勝てる自信のある女性はおそらく少ない。
野生動物に気をつけるのは男女共通だが、女性は犯罪被害に遭わないことも心がけた方がいいだろう。近くに他のキャンパーがいるなら防犯ブザー、あるいはテントを施錠する方法、テントを切り裂いて入ってこられたときのための撃退グッズなど、検討の余地がたくさんあると思う。まぁ、寝るけど。
深夜……トイレに行きたくなってきた……
怖っ……
──うん、やめとこう……
・夜が明けた!
快晴だ! 尿意にも勝った! キャンプ場に隣接する釣り場から、なんと富士山が見えた。自分だけの力で一晩過ごし、「やり遂げた感」がすごい。もうどこでも生きていけるような気がする。
もう火がないので、売店で買っておいたナチョスを食べながら反省会を行うぞ! 今回のキャンプで学んだことは以下の通りだ!
・持ってきて失敗!
今回、持ってきて失敗した〜という道具が「ジェットボイル」だ。秒速でお湯が沸かせるバーナーで、アウトドアをする人には超有名な定番ギアだろう。普段から車中泊で愛用しているので持参したのだが、問題だったのがガスカートリッジ。
東京までの飛行機では預け入れ・手荷物ともにガスカートリッジはNG。宅急便も過去に事故があったとのことで、航空便・陸送ともに受け付けてくれなかった。Amazonで買ってキャンプ先に届ける、現地で調達するなどの方法もあるが、ジェットボイルは超燃費がいいバーナーなので、1回のキャンプではほとんど減らない。ゆえに必ず帰りにガスの処理に困ってしまうことになる。残念ながら、燃料のないジェットボイルは荷物を圧迫しただけだった。
・持ってきて正解!
今回は冬キャンプだったので、防寒具には気を遣った。中でもホッカイロは身体に貼ってからシュラフに入ると熱源になってかなりいい!
それとイヤーマフは、本来は屋外で使うつもりだったのだが、就寝中にも着けていたら思わぬ効果があった。若洲公園はすぐそばにリサイクルセンターなどの工場があり、一晩中トラックの出入りや作業音が絶えることがない。耳栓だと防犯が気になるところなので、適度に外部の音を遮断できるイヤーマフはよかった。寝返り打てないけど。
・持ってくればよかったもの
ずばり本。キャンプの夜は早い。夕食が済んで火の始末をすると、あとはほとんどやることがない。しかも1人だから話し相手もいない。
もちろんスマホはあるが、寒いせいかすぐに充電が心許なくなる。MacBookから給電することでしのいだけれど、翌朝まで保たないんじゃないかと冷や冷やした。なので、充電が関係ないアナログの本があれば、冬の夜長を快適に過ごすことができたんじゃないかと思う。
それと、ソロキャンプに限らないが東京都心では土地勘がないと生鮮食品を買うのが難しい! 「まいばすけっと」のような都市型スーパーは肉や魚などの生鮮品は取り扱わないところも多いようだ。これは自宅近辺とか、行きつけの店で買ってから来るのが鉄則だなぁ。勉強になった。
・ソロキャンプ楽しい!
自分で設営したテントで寝るの楽しい! 炭火で焼いた肉は超美味い! 翌朝の朝日きれい過ぎる! 無事に過ごせた達成感ハンパない!
一方で、1人ゆえの寂しさ、心細さはやっぱりある。何かあっても人を頼れないし、自分で考えて、自分で決めて、何かトラブルが起きたら自分で責任を引き受ける。大げさかもしれないが、「自分」が試される場だった。思えば普段は何かよくないことが起こると人のせいにしてばかりだったなぁ。なんか人生考えた。
今回は夜でも賑やかな都心のキャンプ場だったけど、これが大自然の中だったらもっと根源的な感動がありそう。人は自分をリセットしにキャンプに来るのかも。やってみてよかった。もし興味のある人、特に女子の皆さんは防犯に気をつけてチャレンジしてみて欲しい!
参考リンク:若洲公園キャンプ場、書泉トレンド趣味大賞、インテージ
Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
▼江東区立若洲公園内にキャンプ場がある
▼大自然、というわけにはいかない
▼すぐそばに東京ゲートブリッジ
▼ひっきりなしに飛行機が行き交う
▼よく手入れされた炊事場
▼トイレも十分きれいだった
▼レンタル品一式に加え、シュラフは追加で持参した
▼丁寧な設営マニュアル付き
▼テントは「Grand Hut 2」