時々私(佐藤)は、遠い昔に日本の景色を思い描くことがある。たとえば、江戸時代に自分が生きていたとしたら、どんな身分の人間だっただろうか? 武士でないことは間違いない。商人だろうか? 農民だろうか? 礼儀やマナーがなっていないから、「無礼者! そこに直れ!!」と怒鳴られたりしたに違いないだろう。

そんな私は最近、最新テクノロジーの集う祭典「東京モーターショー2019」の会場で、思わず江戸の昔を想起する光景に出くわした。無粋を承知であえて例えるなら『参勤交代』。もしかしてその昔、こんな光景が街中で繰り広げられていたのかもしれない……。

・極度の妄想癖

あらかじめ断っておくが、私が見たものは当然ながら参勤交代ではない。私には極度の妄想癖があり、現実を直視することが面倒くさくなると、大昔に思いを馳せたり、無限に広がる宇宙の名もなき星のことを考えてみたりする。


20代の前半の頃に、働くのが嫌で嫌で仕方なくなり、物事のスケールをデカくすると、目の前のことがどうでもよくなることに気付いてから、この癖は始まっている。そのことをあらかじめ了承して欲しい。したがって、この内容は私の極端な妄想の産物である。


・身動きできない

さて、私がモーターショーの会場を訪ねたのは、プレスデー2日目の2019年10月24日のことだ。東京ビッグサイトの東展示場が使用できない関係で、今年は西・南展示場と、東京テレポート駅近くの青海展示場に分かれて開催されている。


西展示場から無料シャトルバスで移動し、青海展示場のAホールに入ろうした時に、場内が妙な雰囲気に包まれていることに気が付いた。各社のブース内に人の姿がない。各ブースともに、スタッフが一カ所に集まっており、ところによっては整列している様子が見える。

何事かな? よくわからないままに1社のブースに入って、車両を撮影しようとしたところ、制止された。「すみません、5分ほどお待ちください」。テレビの撮影? カメラクルーらしき姿は見えないんだけど。


う~ん……。何だか釈然としない。何なの? 何があるの?

撮影できないままにその場に突っ立っていると、会場スタッフがやってきて、「道を開けてください」と両手を広げる。半ば、『どけてくれ』といでも言うような勢いだった。


何なんだよ! 何があるんだよ!! 教えてくれよッ!



状況がわからないまま、行動を制限された私は苛立ちが募り、不意に物事のスケールを拡大してしまった。そう「妄想モード」が発動したのだ。


私の妄想はこう言っている。


『何だ? 向こうから電気自動車みたいなのがやって来たぞ、2台も。その通り道を開けろとスタッフが注意をしている。進行方向を挟むようにして、人が並んで立っているじゃないか。良く見ると、並んでいるスーツ姿の人々は、電気自動車に向かってお辞儀している。う~ん、この光景から江戸の匂いがプンプンするなあ。

これはまさに、現代版参勤交代じゃないのか!?




『車列に続く人の数、ハンパねえ! 俺には聞こえるぞ、「したに~したに!」のその声が』


車列が過ぎていったところで、私は妄想から覚めた。それにしても一体あれは何だったのだろう。


・あの人は!?

後ほどスタッフに尋ねると、あの車列は、東京モーターショーを主催する「一般社団法人日本自動車工業会」の会長、豊田章男氏が乗っていたとのこと。と、とよ、とよだ氏だと!? みなさんご存じ、トヨタ自動車株式会社代表取締役社長兼執行役員社長である!

うわ~! 私は何を目撃したのか、さっぱりわかっていなかった~! 豊田会長が視察に来ているその場に居合わせたというのに、妄想にふけってしまったとは、なんてバカなんだ~!! 切腹もんのバカ野郎である。大事な場面を見逃すから、もう妄想やめます! おわり!!


参照元:東京モーターショー2019
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24