
2019年6月、福岡名物「博多通りもん」の名が、朗報とともに日本全土を通り抜けた。「最も売れている製菓あんこ饅頭ブランド」として、ギネス世界記録に認定されたのだ。年間生産数は6400万個、去年の売り上げは75億円以上にものぼり、その驚異的な数値には「饅頭ヤバい」の念を禁じえない。
そんな「通りもん」だが、名前を知っていても食べたことはないという方も意外に多いのではなかろうか。かく言う筆者も「通りもん」は未体験だ。今回ギネス認定の報を受け、「そんなにすげぇなら食いてぇ」という想いに駆られたので、初実食を試みることにした。
・複雑な想いの果てに
折しも創業90周年を迎えた老舗和菓子メーカー「明月堂」の人気No.1商品、それが「博多通りもん」である。福岡土産の定番として親しまれているが、裏を返せば、物産展やネット販売などを除くと、福岡市とその近郊でしか手に入らない微レア商品でもある。
入手方法が限られているのは、「博多らしさを大切にしたい」という明月堂のこだわりゆえだ。こだわりを貫いたうえでのギネス達成と考えると激しくシブい。
ともかくそんなわけで、東京に住む筆者は「明月堂」楽天市場店で「通りもん」を購入し、実物との対面を果たした。
だが、この期に及んで筆者の心模様は複雑だった。ギネス認定の美味しさに期待する一方で、美味しさが判明した時の 「こんなにヤバウマなお菓子を長年スルーしていたなんて」ショックに耐えられるか、不安で仕方なかったのである。
「美味しいんだろうなぁ、楽しみだなぁ」と「まあまあな味であってくれ」が奇妙に渦巻く中、「通りもん」の箱を開ける。
外箱にも個別包装の袋にも、人の踊る姿のイラストが描かれていた。これは「通りもん」の由来となった「博多どんたく」という博多名物の祭りにちなんだものだ。人々が祭りの最中に三味線を弾き、笛や太鼓を鳴らして練り歩く様子を、博多弁で「通りもん」と呼ぶのである。
歴史と伝統に裏打ちされた商品というわけだ……しかし、だからといって美味しいと決まったわけではない……でも、きっとメチャクチャ美味しいんだろうな……。
袋に入った「通りもん」を怪訝(けげん)な目でにらみつつ、舌なめずりはする。食べる前から心身の調子がおかしなことになっているが、この先どうなってしまうのか。
袋を取ると、つやつやと輝くような美しい薄皮がお目見えした。しかしそれが美味しさにつながるとは限らない。
饅頭を半分に割ったなら、たっぷりと詰まった白あんが顔を出して食欲をそそる。よだれが分泌される。実に美味しそうだが、まだわからない。微妙な味かもしれない。いやもういい、食べればわかる。
一口食べて、目をつむって味を噛みしめる。口の中に広がったのは、上品な白あんの味。そして、そこへ織り込まれたバターや練乳、生クリームの味だ。複数の甘さが一息に味覚へ流れ込んでくる。
それでいて甘すぎず、あっさりとしすぎてもいない。ほどよい和洋折衷の味わいは、外交の玄関口となって舶来品を受け入れた、在りし日の博多の風景を思わせるようでもある。
ふんわり柔らかな皮の食感と、白あんのとろけるような口溶けも特徴的だ。よりいっそうこちらを味の深みに引きずり込んでくれる。偶然などではない、研究し尽くされた調和を饅頭全体から感じる。
つまり……まあ、したがって……
メッッッッッッチャ美味いッス……。
何だよこれ……メッチャクッチャ美味しい……。いろいろこざかしい理屈をこねたが、そんなの関係なくただただ美味しい……。
いくらでも食べられる中毒性があるし、万人に通用する味だと思う。さすがはギネス認定品。人気のお土産というのもうなずける。これを人に渡せば、大抵のことは上手く行くに違いない。
心の中に「美味しい」が吹き荒れる。それと同時に、案の定「どうして今まで食べてこなかったんだ」という悔しさも湧いてきた。どうして……なぜ私は……。周りの人もこの美味しさを教えてくれればよかったのに。初等教育で教えてくれこんなの。
いや……単に私の知見が狭かっただけだ。もっと言えば交友関係も狭かっただけ……うぅ、切ねぇ……。
切なさで泣きそうになるが、饅頭を食べる速度は増す一方。「食べたい」気持ちが負の感情に勝っている。喉に押し込む勢いで口に運ぶ。
あぁ、美味しい……「通りもん」すごい……でもやっぱり、少し切ねぇ……。
・とにかく出会えてよかった
とまぁ、うだうだ言ってしまったが、初めての「通りもん」はとにかく絶品だった。自制しなければ箱に入っている饅頭全てを食べ尽くしてしまいそうなほどだった。最終的には「出会えてよかった」と思えたので、未実食の方はぜひこの機会に「通りもん」を味わってみてほしい。
「通りもん」に限らず、この日本には自分の知らない絶品がいくつも存在しているのだろう。筆者もこれを機に知見を深めていきたいと思った次第だ。「人生という祭りを楽しめ」と、「通りもん」が教えてくれた気がする。
西本大紀













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