
2018年1月19日、ミュージシャン・音楽プロデューサーとして活躍する小室哲哉さんが引退を発表した。近い将来引退するということではなく、「今日をもって引退します」と本人が記者会見で発言したのである。
会見場にいた報道陣は驚いたはずだ。私(佐藤)も会場で彼の発言を聞き、衝撃を受けた。しかし本当にショックを受けたのは、現在の彼の置かれた状況と引退の決意。搾り出すようなその言葉に、胸が締め付けられるような思いがした。
・一時代を築いた男
小室さんといえば、一時代を築き上げた音楽家だ。全盛期の90年代は、どこに行ってもTK(小室哲哉)サウンドがあふれ、チャートのほとんどがTKプロデュースの曲であることも珍しくなかった。すでに引退発表している安室奈美恵さんも、そんなTKファミリーのひとりであったことは説明するまでもない。
あの頃、小室さんのことを正直それほど好きではなかった私だが、何曲か歌うことができる。それくらいTKサウンドは世のなかを席巻していたのだ。
そんな彼がいわゆる「文春砲」を受けて、急きょ記者会見を行うこととなった。会場は、東京・南青山のエイベックス本社。「不倫疑惑報道の釈明を行うのではないか?」と見られており、会場に詰め掛けた報道陣も「いつものこと」といった感じ。見知った記者同士が談笑しているような和やかな雰囲気だった。だが……
ひとつ妙だなと思ったのは、会見の情報解禁時間が決められていたことだ。
13時からの会見なのに、「13時半まで速報などは流さないで欲しい」と、あらかじめ伝えられていたのである。時間でいえば、生のワイドショーが放送されている時間。テレビ局の人はそのお達しを不思議に思ったことだろう。
そうして迎えた会見開始時間の13時。時間通りに小室さんが会場に入ってくるのかと思ったら、10分遅れで入場してきた。その間、会場は誰も沈黙して重苦しい空気が漂っていた。
・小さく頼りない足取り
長い沈黙は不意に破られた。何の前触れもなく、スッと小室さんが入ってきたのである。まばゆいフラッシュの中、パシャパシャというシャッター音が鳴り響き、スーツ姿の彼の姿が見えた。とても小さく、頼りない足取り。一時代を築いた人には見えない。
一礼した後に、「本日はお集まりいただき……」と報道陣にねぎらいと感謝の言葉を述べる小室さん。そして「この度はご迷惑をおかけし……」と謝罪の言葉を述べた。挨拶もそこそこに質疑応答が始まるのかと思っていたら、次に続いた言葉は……
「今日をもって音楽業界を引退します」
まさか、そんな言葉を聞くことになるとは……。一体誰が想像しただろうか。活動休止や謹慎ではなく「引退する」という。それから着席した小室さんは、携えた紙を見ながらここに至るまでの経緯をゆっくりと語った。その言葉にも、どこかおぼつかないものがあった。
・KEIKOさんの音楽活動復帰は難しい
小室さんの話は、5億円詐欺事件にまでさかのぼる。この事件は、小室さんの楽曲に関する詐欺事件で、2009年に大阪地方裁判所より懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を受けている。多くの支援者や協力者の力を借りて2010年より音楽活動を再開し、現在まで活動を続けていた。
そして2011年に妻のKEIKOさんがクモ膜下出血で倒れ、5時間の大手術を受けている。KEIKOさんは現役を退き、病気療養とリハビリに専念。順調に回復に向かっていると、多くの人が思っているに違いない。いつか復帰することを期待している人もいるだろう。だが、それは難しいようだ。
・レコーディングにも臨んだが
小室さん自身、彼女の音楽活動復帰を望み、レコーディングに臨んだりしたようだが、KEIKOさんは音楽に関心を示さず、小室さんは「自分の子どものような存在」と語る。また「大人の女性としての会話は難しい」とも説明している。
音楽活動の復帰を望む小室さんにとって、KEIKOさんに音楽に対する関心がないことが、ことのほか辛いように見えた。
・自身も身体を壊して
また、小室さんは音楽活動復帰以来、現在まで仕事が絶えることはなかったそうだ。事件を起こした自分に仕事を与えてもらえることを小室さんは「有難いことだった」と振り返る。少しでも期待に応えたいと思い、仕事に専念していたのだが、彼の身体はさまざまな異変が起きていたそうだ。本人が語るには……
突発性難聴で片方の耳の聞こえは良くなく、会見を受けている現在でも耳鳴りがやまない。睡眠障害に陥り、満足な睡眠を取ることも出来ていなかった。2年前にはC型肝炎にかかり、今も療養を続けている。
「2人(小室さんとKEIKOさん)の生活を顧みればよかったけど、期待に応えたいという思いから、仕事に打ち込んでしまっていたと思います」
・信頼できる看護師
ボロボロになりながら医療関係者のサポートを得て、日々を何とかやりくりしている状態。そんな中で出会ったのが、不倫疑惑報道のあったA子さんだったという。誰よりも信頼できる看護師として、2017年8月末からA子さんを頼りにするようになったらしい。
時間や場所を問わず、対応してもらえることを非常に有難いと感じながらも、どこかで「精神的に甘えていた」と、A子さんへの依存を強めたことを明かす。
・才能の枯渇
もうひとつ、彼の心を大きく苛(さいな)むものがあった。それは、小室さん自身、自らの才能の限界を感じていたのだとか。次から次へと来る仕事に対して、期待に応えるもの自分は作ることができているだろうか? 60歳を目前にして、自分は時代に合ったものを作ることができているだろうか?
こうして不安・懸念・自信のなさが心をむしばむようになり、まともに睡眠を取ることもできず、精神のバランスを欠いていったと語る。
──会場に入ってきた小室さんが驚くほど小さく見えないのは、もしかしたら心のあらわれなのかもしれない。小さな声には生気が感じることができなかった。
「楽曲は僕のモノではなく、歌う人のモノだと思うんですよ。今の僕のようなふらついた考えではいけない」
・文春砲はある意味「きっかけ」
ちなみに、小室さんの頭の片隅にはかねてから「引退」があったという。今回の文春の報道はある意味「きっかけ」だったとも語っている。誰に相談することもなく、自らの才能の枯渇や身体の不調と戦いながら日々を重ねてきた小室さんは、この日、引退を決意したのだ。
約35年の音楽人生を退くことを、彼は「償い」と言った。
そして週刊文春の報道について。一部から批判もあるようだが、本人が「文春さんの報道は戒めだと思っている」「報道されたというより、報道して頂いた」と表現していたことが私には印象的だった。
・重い償い
第一線で活躍してきた小室哲哉さんが、「償い」として音楽業界を去る。できることなら音楽を通して世の中を明るくし、人に歌い継がれるような曲を作って欲しかった。2010年からの8年間、まさに身を粉にして仕事に打ち込んできたように……。それが、世に報いることになるのではないだろうか?
「元々ただ音楽が好きだった」、自らの原点を振り返るそう小室哲哉さん。いつかまた、自由に音楽と向き合って欲しい。
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
佐藤英典








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