声を当てることで、キャラクターに命を吹き込む声優。本来、裏方の仕事だが、アニメが全盛期を迎えている現代において、アイドルのように表だった活動をしている人も少なくない。

だが、そんな声優の本職・アフレコ現場はいまいち謎に包まれている。一体、どういうやり方でどんな雰囲気で仕事しているのか? 気になったので、声優になって『プリズン・ブレイク』の吹き替え現場に忍び込んでみたところ……なんじゃこりゃあ! マイケル・スコフィールド以上に逃げてェェェエエエ!!

・海外ドラマの金字塔

『プリズン・ブレイク』と言えば、海外ドラマの代名詞である。主人公のマイケル・スコフィールドが緻密な計算の末に脱獄する様子は、痛快で『24 -TWENTY FOUR -』と共に海外ドラマブームを作った。そして、2017年4月10日からシリーズ最新作「シーズン5」放送が開始。日本語吹替版を収録したブルーレイ&DVDが8月11日にリリースされる。

・しがないタクシー運転手

今回、声優を装って録音現場に潜入する私(中澤)は、さながら刑務所に潜入するマイケルだ。ちなみに、私の役は第8話で登場するタクシー運転手。送られてきた台本を見てみると、セリフは以下の通りだった。

「調べてみます。(調べる)無理ですね。船は積んでないもんで、たどり着けません。この座標はミシガン湖のど真ん中だ」

──短いセリフだが、主要人物のウィップとも絡みがある。現場の真実を伝えるための潜入で、足を引っ張るわけにはいかない。計画とは綿密な計算と準備の上にこそ成り立つのである。というわけで、事前に送られてきた台本と DVD で予習予習。しかし、ここで早くも誤算が発生した

・よどみなく話すことの難しさ

3文くらいなのに、映像の中の役者のタイミングに合わせてスラスラ話すのが難しすぎる。これプラス、声色も作って演技なんてできる気がしない。とりあえず、4時間くらい iPhone で「話す → 録音 → 聞く」をひたすら繰り返す。この座標はミシガン湖のど真ん中だ! ミシガン湖のど真ん中だ?

テイク100でようやく、棒読み感が少し消えてきた。まだ2回に1回は詰まってしまうが、セリフも大分覚えられたし、あとは自分を信じよう。マイケルも言ってた。「(できると)信じ込まないといけない」と。それにしても、たった3文のセリフがこんなに難しいなんて──そして、無情にも当日の朝はやって来た。

・プロヤヴァイ

スタジオに行くと、メインの面々が吹き替え録音の真っ最中だった。見学させてもらったところ……なんじゃこりゃあ!?

スタジオの真ん中に立てられた4つのマイクを囲むように、壁際に20人くらいズラッと並ぶ声優陣。そして、モニター画面で進行するドラマに合わせて、セリフを言う人がマイクの前に移動して話していく。その動きは流動的でアイドルのフォーメーションみたいだ。

それでいて、セリフの感情や声色がマジで『プリズン・ブレイク』の世界。まるで、マイケルやスクレが本当に日本語で話しているようにスラスラ進んでいく。目の前で録音されてると思えない……臨場感が半端じゃねェェェエエエ!!

これくらいのスピードで録音できないと、絶対に終わらない物量であるのは確かだが、たった3文に四苦八苦している私としてはにわかに信じられない光景だった。

・近づく出番

そして、刻一刻と近づいてくる私の出番。さすがに、同時録音ではないものの神々の技を見た後だと、全く「普通」の水準にも達していないことがわかる。マイケル・スコフィールド以上に逃げたい……。そんな中、ついに神々の同時録音が終わった。

スタジオに入ると、空気が圧縮されたかのような張り詰めた雰囲気がある。その独特の緊張感はまさに聖域。ちくしょー! くるならきやがれ!!

精一杯演じた。同時録音ではみんな簡単そうにこなしていたので、「できるかも……」という気になっていたが、やはりモニターに合わせながら演技するのは相当難しい。その上、独特の緊張感である。同時録音になると、プレッシャーも私の比ではないだろう。改めて、声優が普段見てる世界が垣間見えた気がした

・身に沁みるプロの凄み

録音して、スタッフさんからアドバイスをもらいつつ、また録音を繰り返しなんとか終了。途中から、画面に合わせる意識を捨てて、自分のタイミングだけを信じて話すとウマくいった気がしたが、他の声優さんはあの長尺のやり取りをどうやって合わせているんだろうか。改めて声優ってスゲェ……。

そんな最前線プロ声優陣と私の吹き替えの模様については、動画を参照していただければ幸いである。声優の本領・アフレコの現場は、才能と努力と緊張感失くして成り立たないプロ中のプロの世界だった。なお、私が出演するのはストーリーが加速していくエピソード8。今から8月11日リリースのブルーレイ&DVDが楽しみだ。

参照元:プリズン・ブレイク
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

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