ネットが発達した現代では、様々な情報をワンクリックで入手することができる。体験したことがない世界のことを知れる万能感……それは便利な一方で、絶対に実体験には勝てない知識であることも事実だ。

そこで、実際にプロフェッショナルの現場を体験してお伝えするのがこの「密着しすぎレポ」である。今回は、「声優って声出すだけでしょ?」という人に伝えたい。映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の日本語吹き替え版でモブキャラに扮してアフレコしてみた

・インポッシブルなミッション

以前の記事で、『プリズン・ブレイク』や『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』でも吹き替えをやったことがある私(中澤)。その記事を読まれている方なら分かると思うが、声優としては素人中の素人である

そんな私になんと『ミッション:インポッシブル』最新作の吹き替えに参加するチャンスが巡ってきた。役は、イーサン・ハント(トム・クルーズ)とヒロインのホワイト・ウィドウ(ヴァネッサ・カービー)に殴りかかる男である。

・セリフがない

台本を見ると、殴りかかる男はセリフが書かれていなかった。監督いわく、「状況をリアルに想像してキャラを演じてください」とのこと。え……セリフなしでどうやって演じるの……

そのシーンを見せてもらうと、パーティー会場のようなところで乱闘のようになるイーサンとホワイト。私が、担当するキャラは、乱闘中に殴りかかりホワイト・ウィドウにナイフでバッサリ切られていた。その際のうめき声をアフレコするようである。

・リアルに想像してみた

顔面を切られた時ってどんな声が出るんだろう? 切られたことがないため分からない。さらに、この後男が死んでいてもおかしくないくらいかなりバッサリやられている。私なら、痛すぎて声なんて出ずに泡吹きながら失神しそうだ

しかし、「そこは演出なので、痛みが伝わるように声で表現してください」と監督。痛みが伝わる声なあ……

「あいたたたたたたたッ!」



──違う気がした。これだとつねられてるみたいである。じゃあ、こっちかな?

「いったーーーい! なんでそんなことすんの? 刃物はナシやろぉ……」


──うん。違いますね。たったひと言なのに、こんなに難しいとは……。

・声を録ることのプレッシャー

さらに、マスタールームで監督や関係者が真剣に聞いているというプレッシャーが半端じゃない。ふざけてるわけじゃないんです……。

声を出すことすら怖く感じるような静謐な空気感があるレコーディングルーム。しかし、ここで流れでレコーディングになってしまうと、声のタイミングが刻々と迫ってくる本番はもっと何も言えない。それは前述のアフレコ経験から知っていた。

・レコーディング開始

というわけで、映像内の人物が出している声も含めて色々検討した結果「ゔーッ!」という叫び声とうめき声の中間の声を出すことに。さっそくレコーディング開始!

「ゔーッ!」


監督「ちょっと弱いですね」

「ゔーッ!」


監督「タイミングは良いです。それで本当に自分が刺されたんじゃないかって痛みを想像しながらやってください」

「ゔーッ……!」


監督「声の切れ際もうちょっと苦しげに」

──たったひと言なのに、10テイクくらいかかってしまった。もはや、どんな演技となっているのか自分でも分からない。完全に監督頼みとなってしまったが、それだけに最高の「ゔーッ!」が録れた気がする。

・声優さん全員がイーサン・ハント

素人だと、ひと言でもこれだけ苦労するアフレコ。1回やってみたら、長尺のセリフを感情を込めてアフレコするなんて不可能に近いことが分かる。声優の仕事自体が「ミッション:インポッシブル」だ。

そんな『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』公開は2018年8月3日。ぜひボロ雑巾のように切り裂かれる私を見てくれよな!

参照元:ミッション:インポッシブル/フォールアウト
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

▼声優の仕事自体が「ミッション:インポッシブル」

▼私の演じたシーンは予告にも登場している