回転寿司とは、日本のファストフードではないだろうか。フラリと入って、テキトーに寿司をツマミ、ほどほどにお腹が満たされたら、「ごちそうさん」と言って席を立つ。そのくらいの感覚で利用するものだと、私(佐藤)は思っている。
そんな私に、『回転寿司のプロ』を自負する男は、「わかってない」というのだ。彼が言うには、寿司に対する敬意が大事なのだとか。言っている意味がわからないので、一緒にお店に行って、さっそく板さんに注文しようとしたら「まだ早い!」とブチ切れられたのだ。ナニを怒っているのか?
・レーンを流れるネタについて
そもそも、2人で店に行くことになったのは、回転寿司のレーンに流れるネタについての話から始まった。私はいつも決まったチェーン店に行く。同じものを食べられる安心感があるからだ。一方プロは、行きつけのお店はなく、回転寿司を渡り歩いているとのこと。新規店舗を開拓することを、ライフワークにしているそうだ。
・プロ「一期一会」、「ネタと目が合う」
彼が言うには、回転寿司は “一期一会” なのだとか。その時その瞬間に、レーンに流れてくるネタとの出会いを「運命」だと感じるらしい。
プロ 「ネタと目が合うかどうかが肝心だ。目が合ったら、それは出会いだ。ボクの食べたい気持ちと、そのネタの食べられたい気持ちがピッタリ合ったら、手を伸ばして、そのネタを食べる」
……私にはその考えが高尚すぎて、何を言っているのかわからない……。
・板さんにいきなり話しかけたら……
さて、実際にお店に入り、席に着くなり私は板さんに注文。「とりあえず、アジとサバください」、そう言い切るか言い切らないかのところで、プロはブチ切れた!
プロ 「お前ふざけんなよ! まだ早えんだよッ!! レーンに並んだネタも見ずに、何を板さんに話しかけちゃってんだよ!! まずレーンを見ろよ。食べたいものがなかったら、レーンを見て、それから壁の『本日のおすすめ』を見て、メニューを見てから板さんに話かけるのが筋ってもんだろうがーーッ!!」
……厳しいプロの流儀だ。この発言を皮切りに、私の回転寿司の姿勢に対するダメ出しが始まった。
プロ 「だいたいお前みたいなヤツがいるから、レーンに回ってるネタが寂しい思いをするんだよ。考えてみたことがあんのかよ? 回り続ける寿司の気持ちを。手を伸ばしてもらえるその時を待ちわびているのに、一目も見てもらえずにスルーされて、いきなり板さんに声をかけられたりしたら、存在を無視されてるのと一緒だ。自分がされたらどう思うんだよ、お前!
そもそもお前みたいなヤツがいるから、お店も大変になるんだろ。レーンに並んでるネタは、メニューの見本じゃねえんだよ。食べられるために回ってるんだよ。そこんとこ間違うなよ!」
……何と言い返すべきなのか。私の個人的な意見としては、まわり続けているネタは、鮮度が下がっているように感じる。ものによっては、表面が乾燥してカピカピになっていたりして、正直手を伸ばす気になれない。しかし彼は……。
プロ 「カピカピでも食べてやるべきだとボクは思ってる。時には、あまりにもカピカピになりすぎて……可哀想で……。だからボクはその皿を取り、醤油で潤してやることもあるんだぞ! わかるか?」
……まあ、手を伸ばしてもらえないネタが、可哀想に感じるのはわかる。しかし、それをあえて食べようとは思えないのだが。
・「回らない寿司屋に行け」と……
たしかに彼が指摘するように、いきなり板さんに声をかけるのは考え直した方がいいのかもしれない。だけど、出来れば注文して握ってもらった寿司を食べたいと思ってしまう。その気持ちも彼に言わせれば、「それなら、回らない寿司屋に行けばいいだろ」とのことだ。皆さんはどう思うだろうか?
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24