今から二十数年前、私(筆者)がまだ中学生の頃、家ではテレビとは別に「ラジオ」がそれなりに活躍していた。リビングにはもちろん、私の部屋にもお年玉で買ったソニーのCDコンポが置いてあり、寝る前は必ずラジオを聞いていたものだ。
私が夢中になったラジオ番組は、平日22時から翌1時までの3時間、ニッポン放送系列で放送されていた「伊集院光のOh! デカナイト」(以下Ohデカ)である。とにかくOhデカが聞きたくて聞きたくて……! 今にもくっつきそうな目をこすりながら、必死にラジオに耳を傾けていた。
・超人気番組
当時の「Ohデカ」は私の通っていた中学校だけでなく、日本全国の中学生から絶大な人気を誇っていた。同番組の名物「ベースボールクイズ」のイベントでは、西武球場が満員になったことを今でも覚えている。私は行けなかったのだが、クラスの友人が参加したので間違いない。
ラジオのたった一つの番組のイベントで西武球場が満員になるとは、冷静に考えると とてつもないことである。要するに、Ohデカは「西武球場でライブを行うアーティスト」並の人気があったと言っていいだろう。
・睡魔との戦い
そんな大人気番組だから、クラスでもOhデカの話題がよく出る。Ohデカはトレンドそのものであり、Ohデカを聞き逃した翌日は全く話題についていけないことも しょっちゅうであった。それなのに……! 私にはどうしてもOhデカを聞き逃してしまう理由があった……。何故なら私はそれまで「21時には完全就寝」していたのである。
私からすれば、「毎日22時からラジオを聞く」ということは、「毎日22時から睡魔と戦う」ということでもあった。生まれてからの約12年間ほぼ毎日21時に眠っていた体は、いかにOhデカが面白くても簡単には言うことを聞かない。
・タイガーバーム戦法
睡魔に打ち勝つために、当時は全然美味しいと思えなかったブラックコーヒーもがぶ飲みした。落ちそうになったら手の甲に噛りつき、痛みで睡魔を撃退しようとしたこともあった。だが一番思い出深く効果もあったのは、「タイガーバーム戦法」である。
タイガーバームとはもちろん、軟膏のタイガーバームのこと。“爽やか” を遥かに超えた激烈なメンソール成分は、時に睡魔をかき消すほどの効果があった。目の下に塗ると、「涙ってこんなにあるんだ」と思うほど涙が出てきたし、鼻の下に塗ると、「脳と鼻がつながった!」と勘違いするほどメンソールが脳を直撃した。
・たまにはラジオでも……
ある晩、あまりのタイガーバーム臭に異変を感じた母が「あんた何やってんの!!」と怒鳴りながらなだれ込んで来たことがあった。タイガーバームを塗りたくった顔を上げられず、布団に顔を埋めたまま「あっち行けよ!」とわめいていた私は、今思えばタイガーバームの妖精以外の何物でもない。
そこまでして聞きたかったOhデカ……。今どきの中学生は寝るまでの数時間、何をして過ごしているのだろうか? 私もすっかりご無沙汰だが、たまにはラジオでも聞いてみようかなぁ。
執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.