今は家から1歩も出なくても、欲しい情報はほぼ何でも手に入れることができる。情報だけでなく、音楽やスポーツをはじめとするエンターテイメントを満喫することさえできるのだ。ただし、ライブ会場や球場で足を運ぶのと、ただ情報を手にするだけでは、受け取るものが大きく違う。
私(記者)は最近、東京・後楽園ホールで新日本プロレスの試合を直に見た。これはテレビでも映画でもネットでもない。久しく忘れていた「興奮する」という感情を呼び起こされて、思わず叫んでいる自分に驚いたくらい。黙っていられない、身体がうずく。これこそがエンターテイメントであると、肌身で体感したのである。
・G1 CLIMAX
私がこの日見たのは、新日本プロレスの「G1 CLIMAX 24」。G1 CLIMAXとは新日が主催するヘビー級選手のシングルマッチによる、リーグ戦およびトーナメント戦のことをいう。1991年に第1回が開催されて以降、毎年夏に開催されている。
・試合を観たことがなかった
恥ずかしながら、私は今までプロレスの試合を観たことがなかった。出身地の島根県には、プロレスの地方興行がなかなか来る機会が少なく、せいぜい年に2度来るか来ないかだった。もっぱらテレビで観るくらいでした、プロレスというものを知ることができなかったのである。
・格闘技の聖地
2014年8月1日、後楽園ホールでの試合。まず会場入りする段階で衝撃を受けた。後楽園ホールは言うまでもなく、格闘技の聖地である。1年のうちほぼ毎日のようにボクシングやプロレスなどの試合が行われている。ホールに入る前から、格闘技の興奮があの青い建物の周りに渦巻いているようであった。ここのリングに立つために、どれだけ多くの格闘家が血のにじむような努力を重ねてきたのだろうか。数多の選手の汗と涙が、ホールの隅々に至るまでしみついているようである。
・張りつめた空気に1000人が息を飲む
そして試合が始まると、1000人を超える人々の目はリングに釘付け。対峙する2人の選手の、一挙手一投足に会場はどよめき、興奮が波打っている。特に私の心をとらえたのは、波のような歓声とは打って変わって、関節技の応酬が続き、会場内にピンと張りつめた空気が漂うその瞬間である。誰もが息を飲み、「このあとどうなるのか」とその動向をつぶさに見つめるその瞬間、1000人を超える人々の心は、まるでひとつになっているように感じられた。
・選手と一緒に
試合開始当初は、どちらかを応援していたはずの観客。それがお互い譲らぬ試合運びに魅入られて、最後はどちらにも声援を送り始める。これこそドラマであり、プロレスの醍醐味ではないだろうか。それにしても、プロレスをこよなく愛する観客の声援が非常に興味深かった。
「教えてやれ!」
「厳しく厳しく!」
「そろそろ前に進めよう!」
「諦めんな!」
まるでセコンドに着いているかのような言葉の数々。誰もが選手と一緒に、試合に参加しているような感覚を味わっているのではないだろうか。気が付けば自分も興奮して立ち上がり、オオーー!! ととめどなく声が身体から溢れ出していた。テレビで観ていたものと、感じているものが全然違う。できることなら定期的に生で試合を観たいと真剣に思った。
もしも今まで生で試合を観たことがないという人は、損をしていると言ってもいい。たった一度で良いから、生で試合を観て欲しい。そして、自分の内側から興奮が呼び起こされる感覚を楽しんで欲しい。
参考リンク:新日本プロレスリング G1 CLIMAX
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
▼記者(私)が観戦した2014年8月1日の試合、真壁刀義選手と内藤哲也選手の対戦。片時も息をつけぬほど、張りつめた攻防が繰り返された
▼どちらが勝利してもおかしくない試合展開。最後は真壁選手が片エビ固めで内藤選手から3カウントを奪い勝利