現在北極点を目指して、無補給で単独徒歩に挑んでいる荻田泰永氏。今回の冒険で強い武器になるはずのフォールディングカヤックは、結局35日目に捨てることになってしまった。
一体なぜ、武器になるはずのカヤックを捨ててしまったのだろうか? 2014年4月14日に開かれた荻田氏の冒険を詳しく伝えるトークイベント「ExpeditionはLIVEだ。」で、その一部始終が明かされたのである。これから先も冒険を続けるために、荻田氏は厳しい選択を迫られたようである。
・当初の計画は果たされなかった
当初、南北にのびたリード(氷の裂け目)に遭遇した場合に、それにカヤックを浮かべて高速移動する予定であった。しかし望みのリードに出会うこともなく、また手放してしまったため、その計画は実行されることはなかった。
・同じ道のりを3回も往復
カヤックの重量は14kg。冒険開始時にカヤックを含めた2台のソリの総重量が118kgであった。1度に2台のソリを引いて前には進めないため、1台ずつ引きながら前進することになる。
つまり1kmを進むには1台(ソリ1)のソリを引いて1km進んだ後に、一旦もう1台のソリ(ソリ2)を取り戻って、ソリ1の地点まで進むことになる。同じ道のりを3回も行き来しないといけないのだ。
・冒険の前半で1台のソリを手放している
食料消費が進むにつれて、荷物は軽くなっていくのだが、それでも2台のソリを持って進むということは3回行き来するのに変わりがないのである。荻田氏は冒険の前半で1台のソリを手放していたのだ。
・カヤックを持っていることに苦悩する
しかし荻田氏は、それだけで状況が改善されないことに気付き、悩み始める。使う機会が一度も訪れないカヤックを、この先も持ち続けて良いのだろうか? 重量14kg分の食料を持ってきていれば、もう少しゆとりを持って、進行することができたのではないだろうか?
食料は日程分しか持ち合わせていない。したがって、少しでも前倒しして消費してしまえば、この先、底をつく可能性もあるだから、どんなに空腹でも我慢していなければならない。
・我慢の限界に達してカヤックを手放す
だが、その我慢も限界が来た。出番のない荷物(カヤック)を持って先を進むことに苦痛を感じるようになり、最後に手放す選択をした。冒険の半分の日程を過ぎて、期待していた南北のリードに出会う確率は流動的である。不確定な要素にこれ以上期待することができなくなったのである。
・時には涙声で嘆く
荻田氏は衛星電話で、時に涙声になりながら、「なんでその分(カヤックの重量分)の食料を持ってこなかったんだろう」と嘆いていたそうだ。たしかに、その分の食料があれば、日程にもゆとりが出たはずである。しかし何を嘆いても、もう後の話だ。
今はとにかく、自分の足で前に進んで行って欲しい。北極点を目指して。
情報提供: 荻田泰永 北極点事務局
Report: 佐藤英典
Photo: Rocketnews24
▼イベント中に突然、荻田泰永氏から衛星電話が入った。声の雰囲気から元気であることがうかがえる