昭和47年(1972年)から39年間、ラーメン1杯100円を貫き通しているラーメン店「勝龍軒」。その「勝龍軒」のカウンターには奇妙なガラスのビンが置かれている。ビンの中には福沢諭吉の旧1万円札と伊藤博文の千円札のレプリカがビンの内側から貼り付けられている。その2枚のレプリカ札以外は全部本物のお金だ。板垣退助の100円札、韓国の1000ウォン札、100円玉、10円玉、国外の硬貨まで入っている。

このビンは今から23年前、ある高校生グループによって置かれたものだ。日本で最初に消費税が導入されようとするとき、「勝龍軒」のおかみさんは悩んでいた。

「ラーメンの値段をこのまま100円にしようか、消費税を加えて103円にしようか、それともこの際110円にしようか」と。

この話題は常連の間で広がり、ある高校生グループがガラスのビンを持って店にやってきた。そのグループの1人が「おばちゃん、たのむけんラーメン値上げせんどいて。今度バイト代が入ったら、消費税分をまとめてこのビンの中に入れとくけん」と言ってカウンターにビンを置いていった。

以来、100円ラーメンの値上げを阻止したこの「消費税のビン」は23年の間、店のカウンターの上に鎮座している。ビンには何も書かれていないので気づかない人の方が多いという。23年前の出来事を知っている人だけ帰りがけにそっと小銭を入れていくのだ。

今では常連客に留学生も多くなり、日本で使えない自国の硬貨を入れる留学生もいるのでビンの中は多国籍の貯金箱のようになっている。

さて、この日は「勝龍軒」の最高級メニュー、250円の「冷めん」を注文した。例年、秋深まれば無くなるメニューなので「そろそろ冷めんは終わりにしようかな」とおかみさんはいう。ラーメンと同じ麺を茹でた後、流水で冷まし、さらに冷蔵庫に準備していた冷水にさらす。ラーメンの麺が弾力のあるツルツル冷麺に早変わり。のどごし良く、見た目よりはるかにうまい。

今年最後の冷めんを食べ終わり精算を済ませた後、ポケットから20円を取り出してそっと「消費税のビン」に入れた。なんの変哲もないビンの秘めたる事実を知り、消費税よりちょっと多めの20円を入れて「なにか今日はいいことをした」ような気がするのだ。

寄稿:QBC九州ビジネスチャンネル