福岡市南区の野間というところに「勝龍軒」というラーメン店がある。昭和47年(1972年)から39年間、ラーメン1杯100円を貫き通しているという。

「どうせ、インスタントラーメンのようなラーメンだろう」と思って、この100円ラーメンを注文してみると、何と、チャーシュー、ネギ、キクラゲは麺が見えないほど盛りだくさんに入っている本格的なラーメンではないか。麺はしっかりコシがあるシコシコの普通麺、博多特有のこってり豚骨スープよりは少しあっさりした塩豚骨スープが麺によく馴染んでいて、実にウマイ。

「これで100円?商売が成り立つんですか?」と聞きたくなるが、そんな不粋な質問はやめにして、店奥の壁に並んだ奇妙な2つの壁掛け時計について聞いてみた。右側の時計は現在の時刻を刻んでいるのだが、左側の時計は2時30分55秒で止まったままだ。

「ああっ、あの時計はココがオープンしてすぐ止まってしまったの。直そうとしたけど直らなかったのよ。取替えようと思っていたときに、学生時代に毎日のようにココに来ていたチャゲ&飛鳥の飛鳥涼が、あの止まった時計を見て、『今日も明日も、20年後も、変わらぬ姿でボクを待っていてくれる』と詩人みたいなことを言ったものだから、はずせなくなってしまったのよ。」
とおかみさんはいう。

40年近くも止まったままの時計、今では「飛鳥の時計」としてみんなに親しまれているらしい。

ココの来店客は今も昔も地元の学生が多いという。40年前に学生だった人も、現役の学生も、近所の駄菓子屋にでも行くように100円玉を持って「勝龍軒」のラーメンを食べに来ているのだろう。50歳ぐらいの中年男性が、まるで中学生が母親に言うように「おかあさん、ごちそうさま」と言って、静かに100円玉を置いて、店を後にした。きっと、この人にとっては、片手では開きにくい店の引き戸が「時間の扉」だったのかもしれない。

「母の遺志を継いで、このままやれるところまでやりますよ」と、このお店をひとりで切り盛りしている2代目のおかみさんは明るく元気に語る。

シンプルな「勝龍軒」というのれんが掛かっているとき、「時間の扉」を開けてみよう。そこには2時30分55秒で止まったままの「飛鳥の時計」と、時間を超越した「おかあさん」が待っている。

寄稿:QBC 九州ビジネスチャンネル

▼「勝龍軒」のメニュー、ラーメンと替玉が同じ100円!

▼ 2時30分55秒で止まったままの「飛鳥の時計」

▼ はい、どうぞ。熱いので気をつけてね。

▼ いただきま〜す。

▼とてもシンプルなのれん