10月11日、今年のスポーツの日のその前日の日曜日、私(佐藤)は郷里の島根の隣、鳥取県の米子市にいた。日頃からポールダンスのイベント出演でお世話になっているお店「新宿御苑ROSSO198」の遠征イベントに参加していたからだ。

いずれは島根でもポールダンスをやりたいと思いながら、いまだその夢は叶っていないけど、今回の遠征イベントでその夢に1歩近づいた。終わってみれば大盛況なのだが、今回ポールダンスをやるために、ひそかに重責を負っていたのである。

私次第でポールダンスできなかったかも……。勝手のわからない場所で、何が起こるかわからない。そんな緊張感を久しぶりに味わった。

・錦を飾るじゃないけど

イベント出演が決まったのは、半年くらい前。たしか5月頃ではなかったか? と記憶している。ROSSOのオーナーが「今度鳥取でやるんだけど……」と仰るので、その言葉を聞き切る前に私は「出ます」と即答した。

山陰(鳥取・島根)でポールダンスできるチャンスなんかそうそうない。私の知る範囲では、両県にポールダンススタジオはないので、地元の人に見てもらうには絶好の機会なのだ。何より、やっぱり地方出身者としては、「錦を飾る」ではないけど、自分の成長した姿をお披露目したいんですよ。少なくとも私はね。


・ポールはどうするのか?

二つ返事で出演することを決めたけど、やるに当たって問題はある。そう、ポールをどうするか? だ。先に述べたように近隣にスタジオがない。少し離れると広島にあるそうなのだが、あいにく伝手がないので、頼みようもなかった。

ポールには大きく分けて2タイプあり、一般的に知られていてよくお店にあるのが、ツッパリタイプだ。洋服をかけるツッパリ棒を縦にしたタイプ。もうひとつが台付きの千枚通しみたいなタイプだ。こちらは天井のない屋外で使われるものである。

どちらかを持って行く(送る)ことになるのだが、会場の床から天井までの高さがわからなかった。お店は古く40年以上続くライブハウスで、お店の人によると図面がないとのこと。オマケに天井がボードだったらツッパリは使えない。天井が抜けちゃうからね。


困った、どうしよう……


送るだけ送って使えなかったら最悪。せめてステージの床から天井までの高さが知りたい。そこでお店の写真をお送り頂き、それをAIに見せて天井までの高さを計測させることにした。計測とはいっても実寸ではないので、当てにはならないけど参考になる。それによると「2.2メートル」とのことだった。


写真をよく見ると天井はボードと見て間違いない。ここでツッパリの選択肢は消える。そして2.2メートルという微妙な高さ。台付きのポール(ステージポール)でも、かなりきわどい数字。送るべきか、送らざるべきか……。

仮にポールを送らなかった場合、私には手札がない。最近は歌うようになったので、1曲披露するのは良いとして、その後は~……。漫談でもするか! おそらく日本で唯一、ドコモのiPhone行列で2度も1番になったのは私だけ。その経験を踏まえて「iPhone行列漫談」をすることを覚悟した。

いろいろ話せるんだよ、あんなことやこんなこと。今となっては絶対に言えない話がいくつかあるから、それならお客さんに喜んでもらえるかな? いやいや、諦めるのはまだ早い。最悪当日、現場でポールが立たないことをこの目で見届けてからでも、iPhone行列漫談は間に合うだろう。


そんなわけで、ROSSOのオーナーと協議して送ることを決定。イベントの3日前にいつも練習しているスタジオ「スパイラルモード」から送って頂いた。もう後戻りできない。


・I’m on my way…

イベント前日、私は前乗りで島根に帰省。今年2月に帰って以来なので、それほど久しぶりという感覚はないけど、やっぱり帰省はうれしいものだ。


郷里が遠方のロック好きの皆さんなら理解してくれると思う。帰省の時に、オジー・オズボーンの『Mama I’m Coming Home』やモトリー・クルーの『Home Sweet Home』を聞いたらダメだよな? な? 涙が出てきちゃってさあ、この歳になると涙腺が緩くなって、なんかあの頃のいろんなことを思い出しちゃってさあ、グッとくるんだよな? な?

でも、こうして時間をかけてでも帰りたい場所があるって、有難いことだなってつくづくに思う。空港に弟が迎えに来てくれていて、その日は実家に宿泊した。


・天井ギリギリ

翌日、集合予定時間よりもずいぶん早くにお店に行くことにした。というのは、発送したポールを受け取る必要があったからだ。集合は昼12時だけど、荷物の到着は12~14時。仮に12時に着いちゃったら、誰も受け取ることができないので、私だけ先に会場へ。

松江市から米子市までは車で約40分の距離。電車で行こうとしたら、弟が「送ってやる」というので、その言葉に甘えて2人で米子へ。


車中で撮影した弟とのツーショットをThreadsに投稿したら、どういう訳かバズって、「いいね」が1万件近く付いた(閲覧数21万)。その日は本番中もずーっと通知が止まらなくて、ビビりましたわ。


到着時刻は11時半。さすがに2時間半前の到着は早すぎたな。それでもいない間にポールが届くくらいなら、自分が待っている方がいい。

会場のハイハイピカドス、正確な創業年はわからないけど長く続く老舗ライブハウスだ。30歳まで松江にいたのに、私は1度も訪ねたことがなく、それゆえ店構えを知らなかった。地元にいるときには、松江でも米子でも何度もライブしているというのに。まさかポールで初めてお邪魔することになるとは。


この界隈は飲み屋街で、どちらかといえば繁華な通りは歩いて15分程度離れた米子駅の方になる。したがって、近隣に時間を潰すスポットはない。あったとしても、荷受けがあるからここから離れたら意味ないしなあ。ボーっとするか。


集合時間1時間前の13時になって、お店の方がいらっしゃった! やった、思ったより早く中を見られる。ってことでご挨拶をして中に入ると……。


思ってたよりもずっと天井高い! ARアプリで計測すると、AIの見立て通りに2.2メートルだった。これなら立つ! ポールを立てられる!!


ほどなくして荷物が届き、あとは組み立てるだけ。立つことはわかったが、立てられるかどうかは別の話だ……。というのは、私は今まで自力でポールを立てたことがなかった。いつも誰かに任せていたので、仕組みを熟知しているわけではない。

まだ戦いは終わりじゃない、むしろこれからだ! あらかじめ予習しておいた知識を全部呼び出して、1個1個パーツを確認しながら「これはココ! これはココ! 指さし確認ヨシ!」といった具合に、イチイチ確認しながら組み合わせて行った結果……。


テッテレ―! 無事に立ちました! さとちゃん、エライ! でも天井ギリギリ。

このタイプのポールは、屋外でやる場合、1.5メートルのポール2本を継ぎ足して3メートルで利用する。が、ここはそこまで天井がないので、1.5メートルに25センチのショートポールと12.5センチのショートポール × 2 を継ぎ足して、ちょうど2メートルの高さとした。

うかつに足を振り上げると天井を蹴ってしまうくらい低い。なので、演技中は油断しないように、細心の注意を払ってパフォーマンスすることになった。いずれにしても、何とかなる。iPhone行列漫談せずに済んだ! ……それはそれでちょっとやってみたかったけど……。


・途切れた線をもう1度

さて、そうして時間通りに開演し本番を迎え、ベリーダンス・バーレスクダンス・ポールダンス、共演者の皆さんがそれぞれの演目を披露し、滞りなく演技を終えた。

正直、イベントが始まるまでそこまで盛り上がることを期待していなかった。というのは、こういうショーに慣れ親しんだ人は、盛り上げ方・盛り上がり方を心得ているので、大抵場は良い雰囲気になる。

ショーに触れる機会が少ないと、照れてしまって声を出せなかったり、とっさに拍手できなかったりするもの。ところが米子のお客さんは全然違った。最初から大盛り上がりで、凄まじい一体感だった。

都内のイベントでもここまで盛り上がることあったかな? ってレベルで、場内は興奮の坩堝と化した。おかげで私も気持ちよくパフォーマンスさせて頂くことができた。


実はこの日の音響オペレーターの若い男性は、私が若き日にお世話になっていた、地元の音楽スタジオに所属しているそうだ。当時はスタジオしかなかったが、現在は何軒かライブハウスを経営されており、そのうちの1つで働いているとのこと。この日、スタジオの社長はお見えにならなかったけど、社長にはずいぶんお世話になった覚えがある。まさかこんな形で再びお世話になる日が来るとは。

またこの日、地元の親友と先輩が急用が入って来ることができなかった。ぜひとも2人にもポールダンスを見て欲しかったんだけど、その楽しみは松江でのイベント開催にとっておこう。

勝手に地元を離れたクセに、あの日、途切れた線がもう1度結ばれるような気がして。帰れる場所があるって、やっぱり有難い、うれしいことだね。


間もなくポールダンスを始めて丸10年、12月12日には10周年記念イベントを開催する予定だ。10年のその先も、身体がいうことを聞く限り、ポールダンスを続けたい。だって、ポールダンスが私をいろんな場所に連れていって、いろんな景色を見せてくれるのだから。


執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24