いきなりだが先日、地元の同級生から「居酒屋に田代まさしが来るらしい」と飲み会に誘われた。指定されたのはディナーショーが行われるホテル……ではなく、駅前の小さな居酒屋。こんなところにあのマーシーが来るのだろうか?

半信半疑で居酒屋に足を運んでみると……なんとマジで田代まさしさん本人が登場。芸能界の頂点もどん底も知り尽くした男。薬物や盗撮など、やってはいけないことをくり返してきた芸能人としての姿は誰もが知っているだろう。

しかし、目の前に現れた田代まさしさんは想像していた人物とはまるで違った……あの夜は、まるで夢を見ているようだった。

・マジかよ

会場となったのは、片田舎の小さな居酒屋だ。カウンター、テーブル席、座敷席を合わせても30人ほどのキャパだろう。店内は見事に満席で、ざわめきの中に妙な緊張感が漂っていた。こんな場所に、かつてのトップ芸能人がやってくるのだろうか……


やってきたのである。


・本人登場

コーラスグループ「シャネルズ」でヒットを連発し、志村けんさんに才能を見出され、コメディアンとしても大成功を収めた田代まさしさん。かつて「ギャグの王様」「ダジャレ帝王」と呼ばれたザ・キングが目の前に……

一時期ネット上で病的に痩せた姿が話題になっていたが、そこにいたのは明るく元気な「マーシー」だった。

イベントの詳細はネタバレになるので伏せておくが、マシンガンのごとく繰り出される自虐ネタ、全盛期を思わせるキレッキレのノリツッコミに店内は笑いの渦に。有名な話を1つだけ挙げるなら──

マーシーは定期的に血糖値を測るために血液検査を受けている。けれども、血管が出にくい体質で看護師さんが毎回苦戦するのだとか

何度も何度も針を刺されるうちに「僕のほうが上手だからやりましょうか?」と冗談を飛ばして怒られた……そんな小ネタを連発して観客を笑わせていた。さらに自慢の歌声や「変なおじさん」も披露し、居酒屋は完全にショーホールと化していた。

約1時間半のショーが終わると、物販とサイン会がスタート。観客ひとりひとりに声をかける姿は気さくそのもので、居酒屋の空気はすっかり同窓会のような温かさに包まれていた


・こころの処方箋

そこで話題に上がったのが、マーシーの10年ぶりとなる著書『こころの処方箋』である。後日、個人的に送ってもらい読んでみたのだが……これが想像以上にヤバかった。本物のマーシーと見た後だから余計に刺さるのか、深いのか、マーシー節全開で面白い

冒頭で述べたように、芸能界の頂点とどん底が本人の飾らない言葉でリアルに綴られている。過去の失敗や辛い経験を語りつつ、マーシーの支えになった偉人たちの言葉が数多く紹介されているのだ。

志村けんさんとの出会い、クールズの佐藤秀光さんとの交流、薬物依存症患者の回復施設「ダルク」を創設した近藤恒夫さんの存在……刑務所の中で直筆イラストと共に書きためたという背景も含めて、読み物としての迫力がある。

「ブルース・リーの『考えるな、感じろ』が頭にずっとあったせいで、僕はのちに『感じすぎて』きました、すみません」といった冗談も含めて、ページをめくるたびにマーシーの声で語りかけられているような、居酒屋でショーの続きを体験しているような感覚になった

読み終えたとき、私も前向きな気持ちになっていた。『こころの処方箋』は単なる芸能界の暴露本や懺悔録ではない。

笑いあり、反省あり、そして生きるヒントまで詰まった一冊である。あの夜の居酒屋で感じた夢のような時間と重なり合い、これからの田代まさしさんがどんな姿を見せてくれるのか興味を持った……素直に応援したいし続きを見届けたい。



参考リンク:Amazon「こころの処方箋」
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.

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