
近年、私(佐藤)は服装を褒められることが多くなった。いつでもというわけではないが、それ以前よりも自分なりに気をつかっているつもりなので、褒めて頂けるのはとてもうれしい。褒められればうれしくなって、ますますやる気が出るというものだ。
それがわかっていながら、私はあまり人の服装とかメイクを褒めない。いや、褒めないのではなくて、むしろ褒めたいのだ。だが、いざ言おうと思うとためらって言葉が出ず、わかれたあとで「言えばよかった」と後悔する。
なぜ、褒めることをためらって何も言えないのか? 結構切実な悩みになってしまったので、その原因について考えてみたいと思う。
・着るモノに頓着がなかった頃
かつての私、厳密にはポールダンスを始める前、43歳(2016年)までの私はズボラだった。ファッションに関心がないわけではなかったけど、着れるものを着ればいいと思っていた。衣類のほぼ全部がユニクロで、1度着出したら、ず~っとそればっかり。ボロになって買い替える。その程度の着こなししかしていなかったのである。
今から10年前の2015年当時、まだユニクロがそれほどオシャレではなかった頃、全身ユニクロで揃えていたそんな私のことを、ある男が小バカにしたことを今でも忘れることができない。
振り返れば、こだわりがなかったのでバカにされても仕方がない。当時の格好は決して褒められたものではないのだから。バカにされたことよりも気に入らなかったのは、その男は4年後の2019年、全身ユニクロになっていたのである。
人のことを鼻で笑っておきながら、よくその恰好で私の前に姿を見せることができたもんだ。あの一連の出来事は、生涯忘れることはないだろう……。
とにかくズボラだったので、風呂上りに髪を乾かさずに寝て、名状しがたいヘアスタイルになったこともあった。くせっ毛であることが要因ではあるけど、これもまた乾かさない自分が悪かった。髪質よりも、横着が引き起こした悲劇である。
この頃の写真はどれを見返しても、格好に頓着がない。そのいい加減さに自分でも驚くほどだ。雑にもほどがある。
・着飾る楽しみ
変わったのは、やはりポールダンスをやるようになってから。肉体的にスマートになって、着こなすことが楽しくなり、すたじお発表会等で人前に立つ頻度も高まり、オシャレにやる気が芽生えてきた。
それと同時に40代もなかばに差しかかったころから、「どうせ誰もこんなおっさんのことなんか見てないんだから、好きなものを好きなように着よう!」と決意し、身にまとういろいろなものを整え始めた。
ステージ衣装として買ったものも普段使いしたりして、「着飾る楽しみ」にようやく目覚めたのである。
その集大成とも言える姿が、革ジャンにベルボトム、ロンドンブーツという着こなしだ。
このベルボトムは、2022年にロンドンブーツをオーダーメイドしたときに購入したもの。しかし、なかなか着る機会がなく3年間寝かしたままになっていた。ベルボトムとロンドンブーツは着るのも履くのも負担が大きく、いちじるしく動きを制限されるため、気軽に着ることができない。ここぞ! という時に着たいと考えていたところ、ついにその機会が来た!
あるイベントに参加させて頂くことになり、先日ついに人前でお披露目したのである。
・褒めてもらっても何も言葉が出ない…
その会場で、多くの人にたくさんの褒め言葉をかけてくれた。
「カッコいいですね!」
「似合います!」
「ステキですね!」
着るモノにだらしなかったあの私が、浴びるほど褒められるようになるなんて。しかも自分の好きなスタイルで褒められるのだから、感動もひとしおというもの。天にも昇る気持ちだった。
しかしながら、私は「ありがとうございます!」というだけで、それ以上、何も言葉をお返しすることができなかった。こういう時は、なんて返せばいい? 褒めて頂く方々も皆さんステキで、「あなたこそステキです!」と言いたいのに、その言葉が出ない。
褒めてくださる方の多くは女性で、皆さんをどう褒めて良いかがわからないのである。情けない気持ちになった……。
喉元まで何か言おうと言葉が出かかってるのに、なぜか「言ってはいけない」という気持ちが芽生える。それが何のかわからない。お褒めを頂けば頂くほど、返す言葉に窮して、ついには軽い自己嫌悪に陥っていた。
『お前は自分が褒められるだけで、何ひとつ言葉を返すこともできないのか? 芸能人気取りかよ。どこにでもいるおっさんのクセに、偉くなったもんだな』
そんな風に自嘲してしまう。何も言えない自分が恥ずかしかった。
・褒めるのをためらった理由
後日、なぜ言葉が出なかったかについて考えた。理由はいくつか思い当たる。
理由の1つ目。「言ってはいけない」と思ったのは、昨今のハラスメントが脳裏をよぎったからだ。「かわいいですね」というだけで、ハラスメントになると聞いたことがある。たしかに相手を選ばず、接点の薄い相手にそのような言葉を投げかければ、たとえ褒め言葉であっても不気味だ。安易に容姿を褒めるのは、かえって失礼にもなる。それでも何かお返しする言葉はあったはず。
理由の2つ目、それは褒める経験が足りなかったこと。よく考えると、「日常的に誰かを褒めているか?」と自問と、ゼロとは言わないが、胸を張って「褒めてます」とは到底言えない。「ありがとう」とか「ごめんなさい」とはいうけど、褒めるための言葉を全然使っていない。
そこへいくと、女性は日常的に褒める言葉をよく使っていることがわかる。友達同士でも仕事仲間との間でも、会ったその場で「その服、いいね」とか「今日のメイク、ステキ」とスッと会話に入っている。
よく相手のことを見ているからこそ、自然に言葉が出てくるのだろう。そこから鑑みると、私は人を見ていない。ささやかな変化に気づかないのだ、それが仲間であったとしても、だから褒めるポイントを見出せない。褒め経験が足りないのだろう。
理由の3つ目、本当はコレが1番問題なんじゃないかと思ってる。
それは「褒めることが恥ずかしい」のである。
ちょっとしたことを言えばいいのに、言おうとした瞬間に、まるで告白でもするかのようなたどたどしさで褒めてしまいそう。さらにその先、私の褒め言葉を受け取った相手の反応を想像すると、怖くて言えない。
「そ、その服、ス、ステキですね……」
私を褒めてくださる皆さんは、もっともっと自然でさりげなく、そして受け取れるように伝えてくれる。それはまるで「言葉の花束」。受け取った私も明るく心地よくなれるブーケなのだ。
反面、私の伝え方はイビツな自作のオブジェみたいなものかもしれない。受け取っても扱いに困り、場合によっては引かれるかもしれない。あまり人を褒めたことがないもんだから、照れてしまってトンチンカンなことを言いそうな自分が怖い。
むやみに褒めたいわけではない。でもせめて、私に言葉の花束を贈ってくださった人には、同じように自然に心地よく言葉を返したい。51歳にもなって、そんな気の利いたことひとつできない自分が情けない。
これもまたポールダンスと同じように、日々練習して自然に使えるようになりたいので、まずは身近なところから、実践することから始めたいと思う。気味悪がられるかもしれないけど、まずは妻、そして編集部の仲間を褒めることから始めよう。
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
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佐藤英典





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