本日11月26日は「いい風呂の日」だ。遠出した際にスーパー銭湯に行くのが生きがいの私(中澤)的には祭日と言っても過言ではない。お風呂だワッショーイ!
というわけで、特集! 風呂博士にいい温泉を聞いてみよう!! 30年温泉を研究している温泉研究者・後藤康彰(ごとうやすあき)さんに、これまで入った中で良かった温泉を聞いてみた!
・風呂フェッサー
医学博士であり、温泉療法などを研究する一般財団法人・日本健康開発財団の主席研究員である後藤さん。国内外2000湯以上を巡った温泉マニアで、好きが高じて医学博士を取ったという。
またの名を「風呂フェッサー」。まさしく、ガチの風呂博士だ。というわけで、温泉を愛し温泉に愛された後藤さんに、これまで巡ってきた中で印象に残っている温泉を聞いてみたところ、以下の9泉をあげてくれたぞ。
・蔵王善七の湯 / 蔵王温泉・山形
後藤康彰さん的ポイント「刺激を求める温泉ファンにオススメしたのが蔵王善七の湯です。強酸性の硫黄泉である蔵王温泉。温泉街に近づくと腐った卵のような硫化水素臭が漂い、川原湯・上湯・下湯の3つの共同浴場は42~45℃と相当な熱湯です。湯ざわりはぴりぴりと刺激的で、浴後もぴりぴり感が続くことも少なくありません。
13代目湯守、岡崎善七さんの善七の湯は、源泉100%かけ流しな上、加水・加温なしにこだわる老舗旅館です。貸切露天風呂の湯温はそれぞれ調整されているので、好きな温度で楽しめるのも良いですね。街歩きなら TAKAYU 温泉パーラーで『温泉卓球』を。
普通のラケットだけでなく、風呂おけ・スリッパ・タンバリン・しゃもじにチリトリ、金魚すくい網を振り回して仲間と勝負するのも刺激的。小腹がすいたら蔵王発祥ともされるジンギスカン食って蕎麦で〆るを是非」
・仙郷楼 / 大涌谷温泉・神奈川箱根
後藤康彰さん的ポイント「温泉法では、“地中からゆう出する温水、鉱水”だけでなく、“水蒸気その他のガス”が含まれていることをご存じでしたか? 箱根・大涌谷では火山性蒸気と地下水をぶつけて造成していて、仙石原や強羅に送り込まれています。そんな火山性ガスがもうもうと立ちのぼる大涌谷のお約束は温泉池で茹でられて、硫化鉄で真っ黒になる黒卵。
1つ食べると7年寿命が延びるのだとか。訪問のたびに3つは食べている僕は毎回21年寿命を延ばす勘定になりますね。仙石原の仙郷楼は、酸性-カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉を100%かけ流しで提供していて、白く濁った湯は適度な刺激がありながらなめらかな湯ざわりが印象的です」
・千人風呂・金谷旅館 / 蓮台寺温泉・静岡伊豆
後藤康彰さん的ポイント「ゆったりとお風呂に入りたい方は金谷旅館なんていかがでしょう? 長さ15メートル×幅5メートル、(最深部1メートル)の千人風呂は、総檜風呂としては日本最大級です。しかも、このボリュームの浴槽が源泉かけ流し!
湯はアルカリ性単純温泉でやさしい湯ざわりです。こんなに広いとついつい泳いでみてしまいたくなるのが人情。混雑時は NG ですが、のぼせない程度に泳いでみるのも千人風呂の楽しみ方の1つです。男女脱衣室は分かれていますが、女性も鍵がかかる専用入り口をくぐって、混浴で楽しむことも可能です(バスタオル・湯あみ着もOK)。
敷地内の天文台はご主人が趣味で設置したもので、タイミングが良ければ、月や星空を見せてもらえることもありますよ」
・伊豆の踊り子の宿福田家 / 湯ヶ野温泉・静岡伊豆
後藤康彰さん的ポイント「温泉と言えば文豪。文学好きの方は湯ヶ野温泉もオススメですね。『伊豆の踊子』の舞台となった温泉で、川端康成氏が学生時代に逗留した際の出来事が、物語のエピソードになったとされています。裸の踊子が河畔の露天風呂に飛び込むのをみかけた部屋、それが福田家さんの2階の『踊り子1号』です。
名物は本館地下に位置する名物・榧(かや)風呂で、さっぱりした湯ざわりの硫酸塩泉をかけ流しで楽しめます。昨年、踊り子1号に宿泊する機会をいただきました。名物のお部屋なので外からバシバシと写真を撮られるので、フォトジェニックでないおじさんは日が暮れるまではお風呂でゆっくり。
物書きのはしくれとして、何か良い文章がかけるのではないかと広縁に腰かけてPCでなく鉛筆を持ってみましたが、筆はまったく進まず(汗)。福田家4代目女将の稲葉照子さんは川端氏を車に乗せて伊豆と東京を行き来した方で、お会いできれば面白エピソードを聞かせていただけます」
・梅薫楼 / 梅ヶ島温泉・静岡
後藤康彰さん的ポイント「とろとろと溶けたい方は『梅ヶ島温泉』でふやけるのも良いでしょう。静岡駅から安倍川最上流にさかのぼること車で約70分、対向車が来るとすれ違うのも難しい細い山道を進むと現れるのが、温泉マニアに愛される秘湯『梅ヶ島温泉』です。
源泉は湯之神社pH9.6のアルカリ性・硫黄泉はとろとろですが、是非、源泉そのままな梅薫楼の小さな檜風呂『金の湯』をお試しいただきたい。
ふわっと硫化水素が香るぬるめの源泉は、浸かると肌に1㎝ほどのベールを全身にまとったような湯ざわり感覚で、とにかくとろっとろ。いつまでも入っていたくなること間違いありません。ランチは湯之神社そばの湯元屋で、静岡おでんや鹿のタタキ、猪串、こんにゃく刺しも楽しめます」
・ラムネ温泉(大丸旅館別館)、七里田温泉下ん湯 / 長湯温泉・大分
後藤康彰さん的ポイント「日本では珍しい炭素泉の代表格として、長湯温泉もあげておきたいですね。ラムネ温泉の露天風呂、七里田温泉の下ん湯など多量の炭酸が溶け込んでいる浴槽では、湯に浸かるとみるみる全身がシャンパンのような泡に包まれていきます。
私のひそかな楽しみ方は、数分で全身が泡まみれになった状態で、一気に泡を拭い去ること。シュワシュワと音を立てながら泡が浮かんでくるのを眺めるのは大人も子供も楽しいはず。
ぬるいのにカラダがポカポカあたたまってくるのは、炭酸が血流を改善する作用です。家庭にも普及している炭酸系の入浴剤や、スーパー銭湯で大人気の人工炭酸泉は、長湯温泉がモデルとなって開発された経緯があります。
『飲んで効き 長湯して利く長湯のお湯は 心臓胃腸に血の薬』と詠まれる通り、飲泉できる施設も多いのが特徴です。療養泉としての遊離二酸化炭素泉の定義は1㎏中に1000mg以上。長湯温泉には重炭酸が多く含まれる炭酸水素塩泉が多いのも特徴です 」
・薬師湯 / 温泉津温泉・島根
後藤康彰さん的ポイント「薬師湯オーナーの内藤陽子さんは、千と千尋の神隠し以来、“湯婆婆”として笑顔とおもてなしの精神で温泉ファンを迎えてくれる温泉津温泉のシンボル的存在です。浴室には小判型の浴槽が鎮座していて、地下2~3に湧出して、鯰の形の湯口から注ぎ込まれる源泉はまさに産まれたてで鮮度抜群。じわじわと沁みいるような印象です。
浴室全体に溶岩の流れのように付着する湯の花が描く模様は、神秘的ですらあります。全長800mの『うねるような』と表現される町並みは、江戸時代の町割りがそのまま残されていて、大正時代あたりにタイムスリップした感覚を呼び起こします。
国の重要伝統的建築物群(町並み保存)、石見銀山遺跡とその文化的景観の一部として世界遺産に指定されているのもうなずけます」
・地獄温泉青風荘 / 地獄温泉・熊本南阿蘇
後藤康彰さん的ポイント「南阿蘇を熊本地震と豪雨・土石流が襲ったのは2016年。壊滅的被害を受けた地獄温泉にあって、足元湧出の混浴露天風呂・すずめの湯はかろうじて被害を免れました。2019年に日帰り入浴、2020年には宿泊部門も再開を遂げています。
オーナーの河津さん3兄弟は、復興に際し湯治の原点に立ち返り、老若男女誰もが平等に楽しめるよう“地獄湯治の掟(令和版)”を定めています。
『湯が湧くところに人々は集まりそこではみな平等である。守ればみな入浴可、守れないもの入浴おあずけ』すずめの湯は着衣入浴形式に混浴変更。足元湧出の酸性硫黄泉の横には冷泉も新たに設置して、温冷交替浴を楽しむこともできます」
・鉄輪むし湯 / 鉄輪温泉・大分別府
後藤康彰さん的ポイント「別府には全国の源泉の10分の1にあたる約3000の源泉がありますが、鉄輪エリアはずぬけて湯けむりが立ち上る温泉情緒が抜群な湯治エリアです。ぜひ試していただきたいのは鉄輪むし湯。
温泉で蒸されたセキショウを敷き詰めた石室に横たわる、いわば和式の蒸気サウナで、1セット8分の間に、蒸気と香りでスッキリできること請け合いです。温泉蒸気の地獄窯で食材を蒸しあげる『地獄蒸し』も鉄輪名物で、カラダの内側からもきれいになれるかもしれません」
──以上、国内外2000湯以上を巡ったマニアの印象に残った良い温泉9選であった。湯ざわりや成分だけではなく、街や人、食の話に至るまでそこに行く意味を考えさせられた。温泉に行く理由って温泉だけが目的じゃないのかもしれない。
気づけばすっかり冬。芯まで冷える寒さの今こそ、温泉に行ってその魅力を存分に感じたい。いや~、温泉の季節ですな。びばのんのん。
執筆:中澤星児
温泉画像提供:後藤康彰
Photo:Rocketnews24.
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