趣味で「ご当地マグネット」を集めている。収集対象にしているのは、観光地の風景などをレリーフ(浮き彫り)の技法で半立体的に表現したタイプ。

とくにヨーロッパの観光地では、どんな小さな露店や売店にも必ずある定番のお土産だ。過去記事ではお気に入りをいくつか紹介させていただいた。

コロナ禍をきっかけに最近はもっぱら国内のものを集めているのだが、秋田県でびっくりするようなブツを入手した。見つけた瞬間はブルブルと手が震えた。ご当地マグネット界のパラダイムシフト、業界に激震が走る問題作と呼んでもいい。それは……


・ご当地マグネットとは

「ご当地マグネット」といっても別に定義があるわけではなく、要は500円程度のお土産用のマグネットなのだが、いくつかパターンがある。多いのは風景で、「TOKYO」「JAPAN」といった地名と一緒にデザインされている。

日本の古い街並をテーマにすると、やはり木材の茶色が多め。街道を表現したものはどれもシックなデザインだ。

中でも「妻籠宿」は珍しい縦型、楕円形、季節感のある桜の組み合わせ。奥に向かって街道や山の連なりが感じられる立体感もあり、芸術的で秀逸なデザインではないだろうか? お気に入りの一品だ。

「銀山温泉」は、彫刻ではなくシャドーアートのようにプリント済みのパーツを重ねて立体感を出している。緻密で狂いのないジャパンクオリティだが、塗装のむらや、造形失敗がなく、少し味気ないところもある。ときに子どもの粘土細工のような稚拙な作品に出会うこともご当地マグネットの醍醐味なのだ。


風景とは違ったパターンとして、特定の建築物をピンポイントで描いたものがある。写真左から反時計回りに「神戸・うろこの家」「北海道・網走監獄」「長崎・大浦天主堂」だ。


『ゴールデンカムイ』ファンのためひいき目に見てしまうが、網走刑務所(現在の「博物館 網走監獄」)はレンガ造りがわかる重厚なデザイン。小ぶりながら存在感がある。


ほかには、観光的なシンボルを地図に配置してその都道府県全体をデザインしたものや、「○○山○○m」と地形図のようにデザインしたパターンも。



最近「お」と思ったのが、“半立体” が特徴であるレリーフではなく、完全に立体物になっているもの。

これは北海道土産「木彫りの熊」そっくりの熊だが、かなり飛び出ているのがわかる。全身をまるっと造形しており、通常タイプの2倍ほどの厚さがある。

そんな「厚盛り」ムーブメントを知ってか知らずか、秋田県で見つけたのがこちらのマグネット(税込550円)。


国の天然記念物・秋田犬が「なまはげ」のかぶり物をして飛び出している。ほとんどのマグネットは1cmの厚さもないのに対し、この秋田犬は優に4cmはある。かなりの立体感だ。おまけに……


この顔!


もし実物大だったら子どもが泣くこと間違いなしの大迫力。「なまはげ」自体が、鬼の姿をした神様が「泣く子はいねが」と家々を回って大暴れする民俗行事なので、それを表現しているのだろう。鬼気迫るものを感じる表情だ。



しかし、本題はここからだ。秋田県の「道の駅 ふたつい」で見つけ、筆者がブルブルと手を震わせたもの。それは……


・秋田県で見つけたもの

これだ。


こちらも秋田犬のマグネット(税込660円)。レリーフではなく、完全に立体化されている。

草の上に立つ、りりしい全身像。地面があるとグッとジオラマ感が増していい。すっくと立った姿はスタイルがよく、毛色も美しい赤毛。

それでいて顔は人懐こそうで愛らしい。かなり精度のいいフィギュアと呼べるだろう。

秋田犬の特徴とされる「巻き尾」もしっかり造形。


このスタイルの全身像だと、貼りつける形はこうなるだろう。先ほどの熊と同じだ。

さてこのアイテム、たしかに「出来栄えがいい」とは言えるが、特別「ユニークか」「感動するか」と言われれば、そうでもないかもしれない。

単によくできた造形というのなら、他にいくらでも商品があるし、模型やフィギュアを買えばいい。ぶっちゃけ筆者も、ただ可愛い犬の全体像マグネットなら買わなかった。



大事なのはここからだ。よく聞いて欲しい。


この商品、マグネット位置がここ。


つまり設置方法はこう!


前向きに貼るために、めちゃくちゃ飛び出る!


他のマグネットたちと比べたら一目瞭然。立体的にもほどがある!

かつて、ここまで空気を読まない……いやいやいやいや立体的なご当地マグネットがあっただろうか。否。

たくさんのマグネットに囲まれても存在感は群を抜いている。冷蔵庫などに貼ることは絶対におすすめしない。歩いているうちに引っかけて落とすぞ。

それでいて正面から見るとめちゃくちゃカワイイ。なんだこの破壊力は。イッヌ、カワイイ、サイコウ!



ご当地マグネットの常識をくつがえす、パラダイムシフトが秋田の地から起こっている……!

まぁ、「AKITA」とか「ODATE」(大館=秋田犬の本場)とか地名が入っていないので、厳密にはご当地マグネットと呼べるかどうか微妙なところだが、前述の「うろこの家」だって「KOBE」って入ってないしね。

心の底から気に入った。加入したばかりの新人のくせに、諸先輩方を飛び越してセンターの座におどり出そうな勢いだ。

日本は海外に比べるとあまりご当地マグネットが一般的でないのだが、これからもっと型破りだったり、もっと大型だったりするマグネットが出てきてくれたら嬉しい。

なお、マグネットは絵ハガキなどと比べて遥かに重いお土産なので、数が重なるとカバンをもつ腕力をごりごりと削ってくる。欠けやすいので取り扱いも注意が必要だ。

意欲作に出会えて嬉しい反面、大型化すると持ち帰るのが大変になるなぁと思う今日この頃。


執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.