
驚くべきことに、奈良には1000年以上も前に作られた土や粘土の仏像(塑像)がいくつも残っている。湿度が高く災害の多いこの国で、木造や銅像と比べ強度に劣る塑像が残っているのは冷静に考えたら凄いことだ。
それ等のなかで国内最大のものが、奈良の岡寺にある如意輪観音坐像。全高は約5メートルにも及ぶそうで、かなり近くから見られるという。
・いざいざ奈良
この情報を私のもとに持ち込んできたのはJR東海。春から「いざいざ奈良」大和四寺編が始まっており、そのプレスツアーに誘われたのだ。これ幸いと見に行くことに。
ということでやってきた岡寺。よく見ると仁王門には龍蓋寺と書かれているが、こちらが建立当初の名前だったそうだ。
むしろ「岡寺」の方が地名に由来した通称だったが、今では宗教法人としての名も「岡寺」にしたとか。「龍蓋寺」という名は、境内の池に龍が封じられているという伝説に関連している。
・花手水
中に入ると……おっ、なんか映えてるぞ。これインスタとかX(Twitter)で見たことあるやつだ……!
岡寺では、手水舎や境内の池を花で埋め尽くす催しを定期的に開催しており、好評を博している。私もこの場所がバズっているのを、毎年SNSで見る気がする。あれは岡寺だったのか!
国内最古級の1つにして最も巨大な塑像を見にやってきたが、期せずしてSNSの定番バズスポットの正体を知ってしまった。岡寺のインスタでは過去のイベント中の境内の様子を見ることができる。今年も4月27日から5月6日までやるそうだ!
・本堂
手水舎を過ぎて階段を上ると、そこには大きい本堂が。岡寺は7世紀末頃に創建されたと考えられる非常に古い寺だが、この本堂は1805年に再建されたものだそう。
内部はこうなっている。素晴らしく立派な造り! この奥に見えているのが、目当ての本尊 如意輪観音坐像だ。
巨大なだけあって細部までよく見える。見るからに土でできており、よくこれが1300年も状態を維持できたものだと感動せずにはいられない。
非常に繊細で脆いため、埃を払う等の日常的な清掃にすらも困難が伴うという。また、壊すことなく移動させる方法も現状はなさそうということで、耐震のための工事もできないとか。
信じがたいほど近くから見させていただいたが、「いざいざ奈良」のプランで皆さんも同じ体験ができるぞ! これが現存することの凄さが心底わかるので、本当にお勧めだ。
・岡寺の謎
さて、この如意輪観音坐像は約1300年前からあり、物理的に移動させるハードルは非常に高い。そしてこの本堂は、本尊からすればついこの間(1805年)再建されたばかり。
どうやって本堂を建てたのか聞いたところ、本尊は地面の上に置かれた石の土台の上に乗っており、その周りに本堂を建築したという。床を見ると、確かに床板が土台の縁にぴったり合うようカットされていた。
困難を伴う工事だったようで、本堂の完成まで30年以上を要したそうだ。では、そもそも再建前の本堂はどうなったのか?
取材時にも本堂について色々と質問をさせていただいたのだが、お寺に詳しい記録は無いということだった。まあしかし、各種調査の結果などは、外部の専門機関が持っていることもある。
持ち帰って東京国立博物館の資料館や、奈良文化財研究所の実績報告書を漁れば何か出てくるだろう……くらいに思っていたのだが、岡寺の本堂の江戸時代より前の情報は、この1ヵ月では見つけられなかった。
参考までに、私が発見したなかで最も具体的な記述のあった資料として、明日香村文化財調査研究紀要-第6号-「飛鳥古京から明日香へ-明日香地域における歴史的風土の形成過程-」を紹介しておこう。
それによると、最初の本堂は本尊と同時期から存在したはずだと考えられているが、過去の発掘調査では関連するものは発見できていないという。
そして1216年に記された「諸寺建立次第」には本尊と三重塔の記載しかないもよう。また、1283年には興福寺と多武峰間の抗争によって、岡寺周辺が焼失したことが「勘仲記」に記されているという。
他にも周辺の土地そのものの歴史から何かわからないかと色々文献をあたったが、やはり兵火や嵐による一帯の被害の情報くらいしか出てこなかった。結局のところ、過去の本堂の記録が無いことしかわからなかったわけだ。
仮に「諸寺建立次第」が記された鎌倉時代中ほどの時点で、本堂が何らかの理由で損失していた場合、江戸時代に再建されるまでの600年ほどの間、これほど巨大で繊細な塑像がどのように損壊を逃れてきたのか……謎は深まるばかりだ。
ということで、奈良の岡寺。国内最大の塑像を見に行ったら、期せずしてSNSでバズりがちなスポットの正体を知り、さらに謎に満ちた岡寺の歴史に踏み入ることとなってしまった。
こういうのもまた、歴史ある寺をめぐる楽しみの1つだろう。「いざいざ奈良」では、先に紹介したプランの他に、如意輪観音座像の拝観券とアクスタがセットになったプランも販売中! ゴールデンウィーク中は、境内の水面が天竺牡丹の花で埋め尽くされる。この機を逃すな!
参考リンク:岡寺、いざいざ奈良、明日香村
執筆・撮影:江川資具
Photo:岡寺、JR東海
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▼本尊脇侍の不動明王座像と愛染明王座像にも注目。
像の背後の壁にも注目。2017年に発見された、建物の建地割図だ! つまり本堂の設計図である。不動明王側と愛染明王側で違う図となっている。採用されたものと、採用されなかった設計図の1つだと考えられるそう。
▼龍蓋寺の由来となった池。本堂と本尊の歴史を探る過程で知ったが、かつてこの池は本堂そばまで広がる大きなものだったことが調査で分かっている。
▼三重宝塔。1472年に倒壊したが、1986年に再建された。倒壊時は応仁の乱で再建できなかったそう。琴が吊るされている点に注目。
▼案内して下さった、川俣副住職。
▼シリーズお馴染みの鈴木亮平さんが出演するCM。
▼鈴木亮平さんが感想を語る巡礼動画。
江川資具
















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