異国の地というのは何かと不安もあるものだ。街を歩いていて困っている外国人がいたらなるべく手助けするようにしている私(中澤)。これはイギリスを旅している時に、都会でも田舎でも色んな人に助けられたからである。

これまで困っていて声をかけてくる外国人はほぼ全員が道を聞くものであった。1人だけコンビニでマダムが「これって魚?」と聞いてきたことがあったくらいで基本迷子。しかし、今回、声をかけてきた外国人の口から飛び出した相談はそういうものと深刻さが違った。え? ヤバくね……?

・声をかけてきた外国人

それは朝10時頃のことだった。人通り少なめの渋谷を爽やかな気持ちで散歩していたところ、英語で声をかけられた。ぼーっとしていたので、「Excuse me」だったか「Hi」だったか覚えてないけど、とりあえず私に言ってることは分かったので振り向くとそこには欧米人っぽい男性が立っていた

リュックを背負ったひょろっとした中肉中背で、サングラスをかけているが、厳つい雰囲気じゃなくスポーティーである。面長で無精髭はあれど伸び放題ではない。まあ、バックパッカーという感じである。道でも聞かれるのかな? そう思って応対したところ、聞かれたのは道ではなく……

宿だった。いや、厳密に言うと、本人が本当に聞きたいのは宿ですらないかもしれない。なぜなら、話の内容は「とにかく安く泊まれる場所はないか?」というものだったからである。「カラオケとかなんでもいいからとにかく安く」とのこと。

・ヤバイ

そんなこと言われたって、ここは渋谷だ。カラオケだって一晩いたらそこそこの値段はするだろう。ただ、ひょっとしたらマンガ喫茶とかなら、カラオケよりは安くつく店もあるかもしれない。知らんけど。

そこで「マンガ喫茶とか」と答えたところ、「マンガ喫茶はいくらするんだ? これで泊まれるか? 今これだけしか金がないんだ」と左手を差し出す彼。その手には660円ほどが握られていた。嘘だろ? 山賊にでも会ったのかよ

さすがに激安と言っても一泊1000円代はすると思う。むしろ、今まで日本でどうやって雨風を凌いできたんだ。そして、明日以降どうやって生きていくんだ。今日以上にこれからがヤバすぎるだろ



・お互いに詰んでる

そこでその不安をそのまま聞いてみたところ、「明日になったらなんとかなる」とのこと。平日朝に渋谷をブラブラしてる持ち金660円の白人が明日になればなんとかなるってどういう状況だよ!? それはそれでヤバイ想像しか出てこねえよ!

さて置き、なんとか助けられないかなあと反射的にスマホを取り出して検索したが、遅々として進まない画面。そう言えばドコモの最安プラン「irumo0.5GB」にしたんだった。しかも、現在、ガッツリ通信制限中。詰んだ

・本心

私がもたもたしている間に「君はここに住んでいるのか?」と話を振って来る彼。「そうだよ。でも最近来たばっかりで詳しくないんだよね」と適当に答えたところで1つの疑問が頭をもたげた。ひょっとして、「俺の家に泊まるか?」って言葉を期待してる? 少なくとも持ち金660円はそうしないと解決できないレベルであることは確かだ。

私も家をなくしかけたことがあるからこういう人にはできるだけ力になりたいとは思っている。しかし、逆に考えてみよう。私がヨーロッパに行って金がなくなって、英語が拙いから日本語で向こうの人に話しかけて、「じゃあ家に泊まるか?」ってなるだろうか。

それもうテレビの企画だろ。「泊めて」ってごり押したら泊めてくれる人もいるかもしれないレベルのヤツである。というわけで、その件は向こうが「泊めてくれ」とハッキリ言葉にしたら考えることにして、改めて「ごめん、ちょっと分からんわ」と返事をした。



・時代か

で、結局彼は「I have no money」と繰り返すだけで、「泊めてくれ」とかは言ってこなかったので、そのままバイバイした。せめて今日がなんとかなることを祈る。

日本人のホームレスだったらこれに似た絡み方をされた経験は何度もあるが、欧米人というのは初めてだった私。渋谷は確かに外国人が多い。朝なんて街を歩いてる人の半分くらい外国人というレベルだけど……時代を感じずにはいられなかった。

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
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