2023年12月14日から、Netflixで配信が開始された実写版『幽☆遊☆白書』(以下 幽白)。
私は初め、別の作業をしながらBGM代わりに流していたのだが、開始からほどなくして “おっ?” となり、すぐに本格視聴モードに移行。
5話だけでそんなに長くないのだが、16、17日の週末2日間の空き時間を全て費やして一気に見てしまった! これは、すごくいい仕事がなされているぞ!
・実写は無理っしょw
ぶっちゃけ言うと、私はあらゆる漫画・アニメの実写化に対し、あまり肯定的になれない。
全ての実写化作品を閲覧しているわけではないが、少なくとも私の好きなジャンル(主にバトル系の少年漫画)においては、最終的に高評価よりも低評価の方が多くなってしまった作品が多く目につく印象があるからだ。
そしてほとんどの場合、私個人も低評価が多めとなった作品については低い評価を抱いている。ゆえに実写化作品を視聴する時は、否定的なスタンスから入ってしまう状態にある。
そういうわけで、幽白の実写化についても、また実写化黒歴史の量産かよ……と思っていた。そして否定的印象は、各種ビジュアルが公開された時に、さらに加速した。
この学ランとセーラー服の色は、アニメ版の緑色か? それはコスプレ感不可避で糞決定だろオイ……と。
しかしいつものごとくネトフリからの “次にオススメするのはこちら!” メールのラッシュで何となく気になり、作業用BGMとして流して様子をみることにしたのだ。
・微笑みの爆弾
しかし開始からほどなくして、すぐに意識を映像に向かわせる事態が発生する。1話開始から程なくしてアニメ版のOP「微笑みの爆弾」が、トラックのラジオから流れるシーンがあるのだ。
これが、原作漫画の連載およびアニメ放映時に小学生をやっていた私にとっては、強力な誘引剤として機能した。懐かしいなオイ! 毎週聞いてたよなぁこの曲。
若い方にはピンと来ないかもしれないので最近の例を挙げると、カロリーメイトのCMだ。JK2人が主役だが、ちょうど高校生が幼かった頃のプリキュアの曲のアレンジ版を流すことで、その世代に対し強くアピールすることに成功した。
人は基本的に、幼いころによく聞いていた楽曲を成長してから耳にすると、つい注目してしまうものなのだろう。
話を幽白に戻す。懐かしい曲に釣られて画面を見ると、トラック運転手のおっさんに魔回虫がとりついて暴走し始めた。
そして、トラックの進路にいる子供を助けんとした幽助が轢かれて死亡。細部は異なれど、幽助が轢死して全てが始まるのは原作通りだ。
その轢かれ方は異常に力が入っており、日本の映像作品史上トップレベルに轢死を確信させる出来で素晴らしい!
「微笑みの爆弾」での誘引からの、超クオリティ轢死で完全に私の心は鷲掴みにされた。これは良い実写化かもしれないぞ……?
・キャスティング
そこから作業を中断し、本腰を入れて視聴開始。幽助役を務める北村匠海さんによる、イキった不良特有のナチュラルにオラついた表情や態度は解像度が高い。特に遺影の表情は最高だ。
私が子供の頃は、まだ実際に短ラン(長ラン派閥もあった)を着たオールバックやリーゼントスタイルの不良中高生が実在した。
彼らはだいたいどこでもタバコ吸って酒を飲み、雀荘で賭博に励んだりゲーセンにたむろしたり、その辺で喧嘩や窃盗などに勤しんでいたものだ。そういう、いにしえの不良がちゃんと表現されている……!
最近は実写でも漫画・アニメでも、高校生であればどれだけ不良でもタバコを吸う描写などはやらない。私はこれについて、創作に対し不誠実な自主規制だと思っている。まあ、事情もわかるのだが。
実写版幽白は幽助が中2ではなく高校生へと設定が変わっているが、ちゃんと不良をやっている。この辺はネトフリ配給のおかげというのもあるのかもしれない。
上杉柊平さんの桑原も、最初はちょっとシュっとしすぎちゃうかなと思ったが、見ていくとこれはかなり上手く桑原になっているぞと。
そして、戸愚呂チームが全員完成度が高い。難易度の高さは相当だったであろうに、これより上手く戸愚呂兄弟を実写化する術など無いだろう。
稲垣吾郎さんによる左京も、配役を見た時はなんで稲垣さんが左京なんや……と思っていた。しかしブレない美学と狂った願望を持つ左京という男の、アヤシイ雰囲気を見事に醸し出している。
ビジュアルの再現度が高い鴉の、実写版「トリートメントはしているか?」はキモさが増していて良すぎる。
チームではないが、悪役サイドの垂金権造などもはや本人。素晴らしいキャスティングと、素晴らしい演技だ。
・カラーグレーディング
続いて強い関心を抱かされたのが、カラーグレーディングのクオリティの高さだ。役職としてはカラリストとなる。
冷静に考えて、幽助の学校の緑の学ランとセーラー服(現実でも緑のセーラー服はときおり見るが……)や、青髪パープル着物のぼたん、桑原の青学ランに、蔵馬の赤い諸々などはけっこうなコスプレのはずだ。
しかし見ているとそんなにコスプレ感がない。かなり上手く違和感が消されている。どうやっているのか?
私は全く動画の素人だが、1つはカラーグレーディングの巧みさにあると確信している。
カラーグレーディングとは、動画(写真でも同じ)に色彩補正を加えて、映っているものの雰囲気や表現をコントロールする技術のことだ。
実写版の幽白では、多くのシーンで青~緑か、黄色~オレンジが強めにかけられている。また、昨今のカメラの性能に対し、そんなに細部まで見えすぎないようにもしている気がする。
その辺の編集が登場キャラの奇抜なビジュアルや衣装から生じるコスプレ感を、ものすごく軽減しているのではなかろうか。物理的なフィルターをカメラや照明に取り付けた可能性もあるが、それだけでは無理だと思う。
シーンごとのグレーディングの判断があまりにも匠の技すぎて、思わずカラグレ担当者を調べてしまった。
カラリストとしてクレジットされているのは山下哲司さん。彼無しに、このクオリティはありえなかったに違いない。
しかしカラーグレーディングは万能ではない。現場での撮影と照明による色や明るさのコントロールも素晴らしくないと、やれることに限界があるだろう。
つまり全てを管理しているであろう監督はもちろんだが、撮影でクレジットされている山田康介さん、照明でクレジットされている渡部嘉さんらの技も、実写版幽白のクオリティには不可欠だったと思われる。
・アクションのキレ
1話から最終の5話まで、アクションのキレが凄まじいのも好印象だ。幽助らや戸愚呂チームの面々だけでなく、序盤のモブ不良すらもキレッキレだ。
これはアクションの担当者が凄まじいに違いないと思い、またしても名前が気になってクレジットを見たところ、大内貴仁さんだった。
ドニー・イェン主演の映画でアクション監督を務めたり、実写化の成功作の1つである『るろうに剣心 京都大火 / 伝説の最期』でスタントコーディネーターを務めた方だ。
他にも特殊メイクやVFXなど、総じてスタッフの質が高いのは間違いない。クオリティの高さから自然と裏方(役者らを表とした場合)のスタッフの名前が気になってしまった。各分野で腕利きを揃えた凄いチームだったのだろう。
ということで、実写版『幽☆遊☆白書』。これは文句なしに、最も上手く漫画の実写化に成功したうちの1つだと思う。続きも作れそうな終わり方だったので、もっと視聴されて続編の制作に繋がらないかなと期待している。
参考リンク:Netflix
執筆:江川資具
Netflixシリーズ実写版『幽☆遊☆白書』12月14日(木)より独占配信中