「お兄さん、前も来てたね」

──そう言われたとき、私は世間話が始まるものだと思っていた。「家はここから近いの?」とか、「最近暑いよね〜」とか。

ところが、なんだか雰囲気がおかしい。声をかけてくれた店員さんの表情が曇っているように見える。いつもは陽気な笑顔で明るく対応してくれる店員さんなのに……どうした?

・近所のインド料理屋

そこはインド料理屋。近所にある店で、初めて利用したのは3ヶ月ほど前。以来、カレーが食べたい気分のときはよくテイクアウトしている。店内でも食べられるのだが、私はもっぱらテイクアウト。

なぜかというと、娘(1才5ヶ月)の年齢的に外食するのが大変だから……というのもあるが、私だけでなく妻もその店のカレーがお気に入りだからってのが大きい。

自分だけが店で食べていたら、夫婦関係に亀裂が入るかも……というくらい美味いのだ。なので、私が在宅勤務の日はその店でカレーを2人分テイクアウトし、お昼に2人で食べることが多い。


で、そのテイクアウトカレーがまた安く、ノーマルのナンとカレーのセットが550円、ガーリックナンとカレーのセットが700円、ライスとカレーとサラダのセットが580円……というライン。味を知っている身からすると、めちゃくちゃ安い


まぁそりゃあ、安くて美味けりゃ誰だって好きになるよな〜という感じなのだが、私が店を好きになった理由は他にもある

それが、冒頭で述べた出来ごと。インド系と思われる店員さんが、私に向かって話しかけてくれたことから始まった。なんなら、その会話がきっかけで頻繁に利用することになったと言っていい。どんな内容だったのか、以下で再現して紹介しよう。


店員さん「お兄さん、前も来てたね」


「はい、そうです」


店員さん「お兄さん、前来たとき●●と■■と▲▲をテイクアウトしたでしょう?」


「よく覚えてますね」


店員さん「やっぱり、あのときのお兄さんだね。実は……」


「どうしたんですか?」


店員さん「申し訳ないです」


「え?」


店員さん「実は、前にお金を多く貰い過ぎちゃいまして……。あのとき、お釣りが少なかったのです。だから今お返しします。ごめんなさい」


──と言いながら数百円を私に手渡してくれたとき、私は感激するやら自分が情けないやら、なんとも複雑な気持ちになった。



本来ならば、お釣りをしっかり確認するのは客側の義務でもある。少なくとも私はそう思って生きてきたし、海外に行ったときは必ずお釣りを確認するようにしていた。なんなら、海外でお釣りをチェックせずにボラれまくっている観光客をちょっと軽蔑していた。

だけど……今はどうだ? 自分自身がユルユルだから、お釣りがおかしいことに気づけない体たらく。たしかに、前回「あれ?」と軽く思った記憶はあるのだが……なんというザルっぷり。

──と自分が情けなくなると同時に、正直に伝えてくれた店員さんに対しては感謝しかない。というか、むしろビビった

なぜなら、私が店に行くと店内はいつも人でいっぱい。それだけお客さんが来る店なのに、私のことを覚えてくれていたのだから。しかも、私が以前に店を訪れたのは2週間ほど前。空いた期間を考えれば、忘れちゃうのが自然とも言える。

もう1つ言うと、私が買うのはテイクアウト弁当2人分と追加のナンとかそんなもん。会計はいつも1500円前後なので、いわゆる小口の客だ。にもかかわらず、上のような対応をしてくれる誠実さに感動してしまったのである。

以来、私はますますその店のファンになったのだが……話はまだ終わらない



数週間後。思わぬ形で店の名前を目にすることになった。それは「カレーフェア」のWebサイト。といっても、普通のカレーフェアではなく、「行列のできる名店のカレーが駅のロッカーで受け取れる」という今どきスタイル。


で、その名店リストを眺めていると……


あ!


もうお察しだろう。私がお気に入りの店が「名店リスト」に入っていたのだ。なお、その店の名は『ジャイヒンド』という。


恥ずかしながら私は最近まで知らなかったのだが、実はかなりの有名店らしい。何度もテレビや雑誌で取り上げられ、以前は銀座や秋葉原にも店舗があったとか? 

それだけ有名だとファンも多いだろうから、私より店に詳しい人だって多いに違いない。そもそも私は店を利用し始めて日が浅いので、知っていることは限定的。

私が『ジャイヒンド』に関して知っていることといったら、カレーは何を食っても抜群に美味いってこと。ナンもライスも最高だから、2つのうち1つを選ぶのは至難ってこと。それだけ味のレベルが高いにもかかわらず、比較的安いってこと。

そして、超ナイスガイな店員さんがいるってことくらいだ。


・今回ご紹介した飲食店の詳細データ

店名 ジャイヒンド 笹塚店
住所 東京都渋谷区笹塚1-56-6クレセントプラザ笹塚2F
時間 11:00~15:00(L.O.14:30)、17:00~22:30(L.O.22:00)

参考リンク:カレーフェア トレくる by KEIO
執筆:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.
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▼カレーの種類はチキンバターマサラ、キーマ、マトン……などなど。日替わりを除いて、夫婦で全種類制覇した

▼これはチキンバターマサラ。ほんのりした甘みがクセになる

▼ライスはタイ米と日本の米を混ぜたような感じ。本格的でありながら、日本人の舌に合わせている印象

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