一生高級ブランドの世話になることはないと思っていた。そんな大そうな身分じゃない。私(佐藤)はちょっと目立つだけのありふれたおっさんである。石を投げたら当たるくらい、どこにでもいる類の中年男性の1人に過ぎない。
そんな私がまさかグッチ(GUCCI)の世話になる日がくるとはね。自分でも驚きである。しかしながら、世話にならずにはいられない事情があった。それは愛用している腕時計の日付の合わせ方がわからなかったのだ。そこでグッチ銀座に行くことになった。
・グッチと私
実は私はここのお店にほんの少しだけ縁がある。というのは、今から18年前くらいのこと、銀座の飲食店で働いていたことがあった。銀座のシンボル、時計塔で有名な「和光」の高級フレンチで働いていたのだ。
お店があったのは和光別館の地下1階。フレンチはなくなり、今はグルメサロンになっている。その当時、一緒に働いていた人たちにはずいぶん良くして頂いた。決して楽な仕事ではなかったけど、良い経験をさせて頂いたと思っている。大切な思い出のひとつだ。
この建物の隣がグッチ銀座である。当時はまだ建設中で、それ以前はこの場所にマクドナルドがあったんだ。グッチがオープンするかしないかの頃に私は店を辞め、次の職へと移っていった……。
・門前払いされないか?
そんな私が今回グッチに行くのは、4年前に購入した腕時計の日付の合わせ方がわからなかったからだ。
説明書は読んだ。が! 日本語だけど何と書いてあるのかサッパリわからん。リューズ(時計の横のネジ)を引っ張って回せば何とかなると思ったけど、日付は動かない。1度電池交換した際に、時計屋さんに合わせてもらったんだけど、その時に合わせ方を聞いておけばよかった。チキショー!
こりゃグッチに乗り込むしかねえ! どないなってんね~ん!!
……と行きたいところだがら、いささか緊張する。だって、高級ブランドに行くんだもの、しかもこんな格好で。門前払いを食らったりしないかな?
この日はポールダンスの朝練後だったので、荷物がやたら多い。背中にはリュック、肩にはショルダーバッグ。Tシャツに七分丈のシャツ。そして下は学生ズボンという奇妙な出で立ちだ。追い返されても仕方がない。
覚悟を決めて、いざ!
・面倒くせえヤツ
入店するとドアマンが「いらっしゃいませ」とあたたかく迎えてくれた。よかった、門前払いを食らわずに済んだ。店に入っちまったらこっちのもんだ! すかさず私は腕時計を見せて
「この時計の日付の合わせ方がわからないんですけど、教えて頂けますか?」
というと、迎えてくれたドアマンの男性が驚くべきことを口にした。
「その時計はちょっと特殊なんですよ。私も使ってるんです。ほら、一緒ですね」
え? 同じ時計! 仲間じゃん!! 俺たち仲間~~! とハイタッチしたい衝動がこみ上げたがそれを抑えて、彼の話を聞いた。
「この時計は、短針を回して日付を合わせるんです」
え? マジっすか!! それまた衝撃!
「だから、30日の月(2・4・6・9・11月)は1日分、短針を回してやらないといけないんですね」
11万もしたのに、そんな面倒くさいことを約2カ月に1回やんなきゃいけないの!? なんてこった! そうとは知らずにズレた日付を眺めていたよ……。お前、面倒くせえヤツだな。
ってことで帰宅後に、4日分の短針を回す。
これを6月も9月も11月も。来年も再来年もその先もずーっとやっていくのか。持ち主の私に似て、クセの強い手間のかかるヤツだなあ~……。
でも、そういうヤツ、意外と好きやで!
ちなみにこの時計、ベルトのコマのピンが脱落するクセがあって、ピンがなくなる度に所有している予備のコマのピンで補っていたけど、その予備を使い果たしそうになっている。その点についても尋ねると、「コマは個別で販売しておりませんので、もしも予備がなくなったら修理に出して頂くことになります」とのことだった。
面倒くせえ! いちいち手間のかかるヤツだ。でも、好きやで!
ってことで、人生初のグッチ体験は大変勉強になった。再び高級ブランドのお世話になることはないと思うけど、ホスピタリティあふれる接客を受けるのは、なかなか良いもんですな。いずれまた行きたい。おわり……。
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24