私は過去にインスタグラム(Instagram)の「いいね」を買ったことがある。

その時は単にネタで買っただけなので「いいねをつける側」のことなんて気にも留めなかったが、一度でも「つける側」を体験してみると、がぜん “どのような構造になっているのか” が気になってくる。

それを知るため、あらためて「いいね」をカネで買ってみた

なお先日の「いいね付け闇バイト」に引き続き、今回も極秘潜入中につき、画像なしでお伝えしたい。

・日本人の「いいね」は高い

ネットを少し調べただけで、いろいろな会社(?)が「いいね」を販売していることがわかった。種類もさまざま、値段もさまざま。たとえば──。


とある会社は1000いいねが3000円。10000いいねになると割引価格の24000円になるが、とりあえず1000いいねを基本レートとして換算すると「1いいね3円」である。


一方、別の会社は1000いいねが1078円。なんと「1いいね1円」まで下がった。しかし「いいね」は「いいね」でも「どんないいね」なのかも分類されており、この1いいね1円の「いいね」は「外国人いいね」の価格。

同じ会社で「日本人いいね」の価格も表示されていたので確認してみると、1000いいねで13178円。

日本人1いいねの価格は13円となり、「外国人いいね」の約10倍以上の価値があるもよう。


他の会社の「日本人いいね」も調べてみたところ、1000いいねで8780円、つまり1いいね8.7円計算。さらに「日本人女性アカウント」からの「いいね」になると、1000いいねで9780円、1いいねのレートは9.7円。


2023年4月現在の各レートをまとめるとこうだ。


外国人いいね → 1〜3円
日本人いいね → 8.7〜13円
日本人女性いいね → 9.7円


もちろん、なぜ日本人いいねの価格が高いのかといえば、“一気に「いいね」が付いた時にバレにくいから” であると思われる。

また、なぜ日本人女性いいねの価格が高いのかといえば、“日本人女性に支持されているように見せたいアカウントのため” かと思われる。

私が過去に「いいね」を購入した2017年4月時点の段階では、「いいねの国籍や性別」などは選べなかったので、だいぶ「いいねマーケット」も進化しているのが見て取れる。



・2パターン買ってみた

どこで買おうかな……と各社のメニュー表を眺めていると、「いいね」の売り方も、まるでスタバの注文のように、こと細かい指定が可能であることがわかった。

たとえば「この投稿に1000いいねを付けてくれ」みたいな注文ができるのは無論、「このアカウントの投稿に、まんべんなく1000いいねを分散して付けてくれ」とオーダーすることも可。

ちなみに私はインスタの話だけをしているが、各社、TwitterもFacebookもYouTubeもTikTokも、同じような “ことこまかな販売” に対応している。


とりあえず私が購入したのは2パターン。まずはA社の「日本人アカウントからの1000いいね(8780円)」で、最新の20投稿に50いいねずつ分配するというパターンがひとつ。

もうひとつは、B社から「(※特に国籍は記述されておらず)Instagramアカウントから1000いいね(3000円)」を、大昔の投稿に全投入……といったパターンの2種類だ。

これなら、どちらの会社が動き出しても、「いいね」を付けてきた人を分類できる。お金を振り込み、しばしの待機。


──2日後、まず動き出したのは「日本人アカウントからの1000いいね」のA社だった。突如として、ボコボコ、ボコボコ……と、次々と「いいね」が付いていく。

また、「いいね」を付けてくれたアカウントは、見たところ正真正銘の日本人であると思われる。なお、特に指定もしていないのだが、なぜか9割が女性アカウントであった。


正確に “最新の20投稿に50いいねずつ” だったのかは微妙なところだが、たしかに、最新の20投稿には50ほどずつ “かさ増し” された数字が表示されていた。

なんというか、印象的には、ものすごく自然……。髪の毛に例えると、いきなりヅラを被り始めたというより、徐々に徐々に「増毛した」感がある増え方というか。


──だが、私の調査はここからが本番である。



・裏取り開始

次々と「いいね」が付いた直後から、私は「いいね」を付けてくれた日本人アカウントに対し、質問メッセージを次々とDMで送り込んだ。内容的には、


「いいね、ありがとうございます。ひとつご相談があります。おそらく “いいね付け” の指示があったと思うのですが、その指示の画像(スクショ)を送っていただけませんでしょうか? どんな感じで指示されているのかを確認したくて……」


といったもの。その数、総勢80人。だれか1人くらい返事してくれるだろうとの願いを込めて。


──しかし。


結果として、誰一人として返事をしてくれる人はいなかった。各自のアカウントを覗いてみると、さまざまな投稿をしているので「bot(ロボット)」ではないはずなのに、完全シカトを決め込まれたのである。

なんて冷たい人たちなのだろうと思った。その時は。


・一瞬で1000以上の「いいね」が付く

その翌日、これまた突如として私のiPhoneがビンビンビンビンと暴れ出した。そう、B社の「(※国籍不明の)Instagramアカウントから1000いいね(3000円)」が火を吹き始めたのである。

先日の「日本人いいね」がボコボコ、ボコボコ……だとしたら、今回のは「ドバーーーーーッ!」ってな感じ。まるで「いいね」が入っているバケツをひっくり返したかのような勢いだ。


その矛先は、今では誰も「いいね」を押してくれない、2年以上も前に投稿したとある写真。最初は「183いいね」だったのに対し、あっという間に「1232いいね」まで膨れ上がった。

1000どころか、1049もついた! こんなに一瞬で1000人以上を動かす指揮系統スンゲェなぁ……と一瞬は感心したものの、「ん?」となった。


あまりにも一瞬だったのだ。


それはまるで、「ボタン」を押すがごとく……。



・生々しすぎる “世界” を見た

何かがおかしい。というか、この「(※国籍不明の)Instagramアカウントから1000いいね(3000円)」は、どんな人たちが付けているのだろう……と、片っ端からアカウントを覗いてみたところ、なんというか多国籍!

プロフィール欄に国籍や国旗が書かれているもので言うなら、なぜか圧倒的にインド人が多かった。あとはバングラデシュ人も多い印象。

ほか、ジオタグや写真内に映る景色や言語で判断するなら、インドネシア、タイ、あとはイスラム圏のどこかの国。アフリカや南米も少々。


腰を抜かすほどビックリしたのは、その中に “どう考えてもケニアのマサイ族” もいたことである。マサイ族のコスプレではなく、完全なるマサイ族。これだけマサイ族とやりとりしてきた私ならわかる。親友のマサイ族・ルカじゃなくて良かったが、思わず「えー!」と声が出た。


なお、約半数以上は「非公開アカウント」や「投稿ゼロ」のアカウントだったが、そうでないものは「しっかりと写真や動画の投稿もされているアカウント」であった。

自撮りはもちろん、子供の写真、ダンスの動画に、街の写真。友達との写真、バイクに乗る写真、アイドルの写真、祭壇や神様の写真……。

それぞれの国の人々がインスタを楽しみながらリアルな私生活を投稿しており……ふだん見ることのない、あまりにも生々しすぎる “世界” がそこにはあった。

まるで、見知らぬ国のローカルエリアに迷い込んでしまったかのような……。



・被害者からの「いいね」

1000以上ついた「いいね」の中から、「非公開アカウント」や「投稿ゼロ」を除いた「生きているアカウント」をウォッチすること100人ぶん以上。

日本人アカウントの時と同じく、DMを受け付けているアカウントには、簡単な英語で「“いいね付け” の指示はありましたか?」みたいなメッセージを送りまくって……と、その時!

私は、あることに気がついた。


みんな、“時” が止まっていた。


なんと、ほぼ全員、最後の投稿が2022年3月〜4月あたりで止まっているのである。

なぜか申し合わせたかのように、最終投稿日が1年前の3〜4月だったのである。


それを見た私は、すぐに悟った。


このアカウントたちは、みんな、「乗っ取られたアカウント」であると。「生きているアカウント」ではなく、魂の抜けた、「ゾンビのようなアカウント」であると。


まるで漁師が海に網を投げるがごとく、2022年3月〜4月ごろに悪いやつらが一斉にインスタアカウントの乗っ取りをくわだて、運悪くそれに巻き込まれてしまった「乗っ取られアカウント」であると。


つまりは誰かが「一括」で操作しているアカウント。だからボタンを押すかのように「一瞬」だったのだと。


まさかと思い、先日メッセージを送ったけど無視された「日本人アカウント」の投稿写真の最終日付を確認すると、


2022年6月
2022年4月
2021年9月
2021年4月
2020年8月……


時期はバラバラだが、最新でも約1年前ほどの投稿が最後。おそらく、A社の日本人アカウントも乗っ取られ済みなのであろう。

だからこそ返事も来なかった。

彼女らは「冷たい人たち」なのではない。

もうすでにそこには「いなかった」。

それすなわち魂のない、抜け殻のアカウントだったのである。



・さらに深まる「いいね」の謎

こうなってくると、ますます私が参加した「いいね付け」の闇バイトが謎めいてくる。


日本語の怪しい彼女らは、正真正銘「生きている日本人」を捕まえ、実際に彼らにお金を払い、日本人のアカウントに「いいね」を付けさせている。それは間違いのない事実。


もしかして、「乗っ取った(死んでいる)アカウント」ではなく、「生きているアカウント」からの「いいね」が高値で売買されているマーケットがあったりするのだろうか?


もしくは、そんな「生きているアカウント」を持つ日本人の「スマホごと」乗っ取って、何かをしようとしているのか。


──いずれにしても、今、日本は、いや、世界は、何かに乗っ取られようとしていると私は思う。それも多方面から。同時進行で。

いや、もうすでに乗っ取られているのかもしれない。魂を抜かれた、「ゾンビのようなアカウント」のように。


【完】


執筆:迷惑メール評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
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